第239話 竜人世界編 第43話 黒竜族の凋落(ちょうらく)
竜闘第一試合でミミがとった不可解な行動の意味が判明します。
黒竜族は、会議でもコテンパンにされるようです。
竜闘の翌日、四竜社では、今後の事を話しあうため会合が開かれた。迷い人の俺がこの場にいるのは、会合に先立ち、竜闘勝利で手に入れた、権利の使い道を表明するためだ。
先日呼び出されたのと同じ部屋に、同じ顔ぶれの竜人が揃っていた。
青竜族、赤竜族、白竜族、黒竜族が各二名ずつ並んで座っている。ただし、頭の席には、誰も座っていない。
今日の会合で、ビギに代わる頭が決まる予定だ。
「では、竜闘に勝利した権利を、シロー殿からうかがいましょうか」
白竜族のジェラードが、美しい声で発言する。
「ちょっと待て」
さっそくトールが口出しする。前回の会合で俺に難癖をつけてきた、中年の黒竜族だ。
「その前に、次期四竜社の頭は、黒竜族から出すことでいいな」
議題を無視した、唐突な意見だ。すかさずジェラードが反論する。
「それは、後ほど話しあう予定のはずですが。
それに今回の頭選びについては、黒竜族には遠慮してもらいたい」
「なぜだ!?
そんな話は聞いておらんぞ!」
トールが激昂する。
「ビギが竜闘の名誉を汚した以上、仕方ないことですな」
赤竜族のラズローが、ジェラードを支持する。
「頭は竜闘を汚してなどいない!」
トールの横に座る、黒竜族の若者が主張する。
「ビギは竜闘で毒を使ったと、自ら認めたのですよ。
これまで竜闘で得た権益は、すべて返されるべきものです」
ジェラードが落ちついた声で言う。
「ビギ様が、そのようなことを認めるはずがない。
大体、今回の竜闘にしても、迷い人が勝ったとはいえぬ」
トールが強い口調で言う。
「ほう。
私には、まぎれもなく迷い人チームが勝ったと見えましたが」
ジェラードは、微笑みさえ浮かべそう言った。
「大将戦で、そいつはビギ様の剣を使ったではないか。
あんな事は、許されていないはずだ」
「ええ。
許されるとは思えません」
青竜族のハルトという男が、トールの意見を援護する。彼は先の竜闘における運営責任者でもある。
「ほう。
ビギは毒の使用について認めていないし、シロー殿は反則をしたというのですな?」
これはラズローだ。彼は、すでにビギの事を敬称無しで呼んでいた。
そのとき、窓とは反対側の壁にある文様がすっと消えた。この部屋は、白地の壁に模様がついている。実際は壁が全て白くなったのだ。
そこに映像が現れた。
◇
映像は竜闘第一試合が終わった後、史郎が審判にルール確認をするところから始まっていた。
「今の勝負に対して、異議申したてがあります」
史郎の言葉に、青竜族の主審が応える。
「何だね。
勝敗は、至極ハッキリしていると思うが」
「竜闘のルールでは、武器は一つしか使えないのでは?」
「ああ。
そういう質問か。
剣を使えるのは一度に一つという意味だよ、あれは」
「では、敵の剣を使ってもいいんですね?」
「手に自分の剣を持っていなければ、何の問題も無い」
「分かりました。
時間を取らせて申しわけない」
映像は、そこで一旦途切れた。それを見た青竜族の二人が、顔を歪めている。しかし、映像はそれで終わりではなかった。
第五試合の後、竜舞台で起こったことが映しだされたのだ。
◇
映っているのは、俺、ビギ、そして審判役のジェラードだ。
敗北を宣告されたビギが、荒い息をつき、立ちあがった場面が映る。
「審判、彼が何か言いたいことがあるようだ」
映像では、俺がジェラードに声を掛けている。
ジェラードがビギに尋ねる。
「ビギ様、何でしょう?」
ビギが憔悴した顔でうめくように言った。
「ワ、ワシは、今まで竜闘で毒を使用してきた」
ジェラードの顔に、驚きの表情が浮かぶ。
「どうしてそんな告白を?」
その問いに対し、ビギは沈黙で答えている。
今度の映像には、黒竜族の二人が顔をしかめる。トールなど、よほど悔しかったのだろう、唇を噛み切った血が口の端から滴っている。
「これでもまだ、黒竜族の権利を主張されますか?」
いつもは柔らかいジェラードの声が、まるで氷のようだ。黒竜族の二人は、がっくりと肩を落とした。
「黒竜族が竜闘で得た権益は、やはり全て返却してもらおう」
ラズローの発言は、二人にとってとどめとなるものだった。
「わ、私もそれに賛成です」
青竜族のハルトが、取ってつけたように発言する。沈みかけた船から逃げだそうというわけだ。
さすがにこれは、トールが許さない。顔を上げ、ハルトの方をきっと睨みながら声を上げる。
「貴様っ!
裏切るのか?」
「裏切るとはどういうことですか」
ジェラードがトールに問う。
「剣に毒を仕込むなど、竜闘を運営する者の協力無しにはできるはずもあるまい。
毒の事は認めよう。
しかし、青竜族だけが罪を免れるのは許せぬ」
トールは罪を認めてしまった形だが、青竜族の足は引っぱれたようだ。
「ふむ。
しょうがありませんな。
今回の話しあいは、青竜族の口出しもご遠慮願おう」
ラズローが普段の口調で言う。
「だ、だが……」
青竜族のハルトが何か言いかけるが、残り三種族から絶対零度の視線を向けられ、発言を諦めた。
◇
「ラズロー殿、話を元に戻してもよろしいか?」
ジェラードが、ラズローに確認を取る。
これで、この場は白竜族と赤竜族だけで公式な話をする場となった。
「議事進行はお任せする」
「分かりました。
最初に、迷い人チームが竜闘の権利を何に使うかですが……。
その話をする前に、私から提案があります。
今回は、権利を一つではなく、二つにするのはいかがでしょう」
「それで構わない。
彼らには散々迷惑を掛けたからな」
ラズローが、こちらを見て片眼をつむった。
「では、シロー殿。
ご希望を二つおっしゃってください」
ジェラードが俺に問いかける。ここまでは、打ちあわせ通りだ。
「そうですね。
一つは、天竜祭への参加です」
「そんな事はっ……」
トールが何か言いかけるが、他種族から拒絶の視線を向けられ口を閉じた。
「いいでしょう。
では、一か月後にある、天竜祭への参加を認めましょう」
「もう一つは、何にしますか?」
「我々が元の世界に帰るためにも、隠しポータルを開放してほしい」
青竜族の二人と黒竜族の二人が、ガタっと椅子を鳴らし立ちあがる。
「言語道断だ!」
「そんな事が許されるかっ!」
「あり得ない!」
「我々の権利はどうなる!」
四人が口々に主張する。
ジェラードが静かに言った。
「あなた方はこの会議の議決に関係ありませんが、一応お言葉だけは承っておきましょう。
ところで、竜闘の勝利者が求められないものとして、命を奪う行為だけが規定されています。
それはご存知ですよね?
ポータルを開放したとき、誰かが死にますか?」
「そ、それは……」
立ちあがった四人は、ぐうの音も出ない。
ジェラードが、さらに追いうちを掛ける。
「黒竜族から、『我々の権利』という言葉が出ましたが、すでに過去の竜闘で得た権利を返すと決まった今、それはあなた方の権利ではありません」
黒竜族、青竜族の四人は、身体から力が抜けたのか、ぐにゃりと椅子に座った。
それは、まさに一敗地に塗れた姿だった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
赤竜族ラズローと白竜族ジェラードの連携が素晴らしい。
この二人、実はめちゃくちゃ仲がいいんでは?
次回、点魔法で作る久々の乗り物が。
では、明日につづく。




