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ポータルズ ー 最弱魔法を育てよう -  作者: 空知音(旧 孤雲)
第6シーズン 竜人世界ドラゴニア編
234/927

第232話 竜人世界編 第36話 竜闘1

 竜闘エピソード開始。


 竜闘当日、俺たちは、開始時刻ぎりぎりまでイオの家で過ごしていた。


 これは俺の考えで、昔の剣豪が使った方法を真似させてもらった。人ごみの中を、試合場に向かえば、どんな妨害を受けるか、分かったものではないしね。


 だから、試合会場である竜舞台までは、透明化した点ちゃん1号で、空路向かうことにした。

皆の気を紛らわせるため、地球から持ち帰った写真集や本を見せる。

 ルル、コルナ、コリーダは、夢中でそれを見ている。

 ミミとポルも、最初、気が気でない様子だったが、加藤が見せた商品カタログが気に入ったようで、三角耳を立てた頭を並べ、それを覗きこんでいる。


 最初、点ちゃん1号のくつろぎ空間に驚いたラズローだが、竜舞台上空で滞空状態を維持すると、足元の光景を注意深く観察しはじめた。


 竜舞台は、野球場に似ていた。いや、むしろ、そっくりといってもいい。

 野球場のフィールド部分のまん中に、正方形の少し高くなったところがあり、そこが竜舞台だ。

 竜闘は、その上で行われる。


 傾斜が付いた観客席もあり、その一角は大きな石壁となっており、野球場のバックスクリーンにそっくりだ。ただ、スコアボードの代わりに、巨大な竜のレリーフが刻まれている。

 天竜祭では、竜がこの前に降りるそうだ。


 会場の様子を見ていたラズローが、声を掛ける。


「そろそろ準備して下さい」


 皆は、見ていた本を閉じ、準備にかかる。剣を腰に差し、こちらを見て合図する。


「シロー、気をつけてください」


 ルルが、俺の手を握る。


「パーパ、怪我しないで!」

「パーパ、がんばって」


 ナルとメルを抱きしめる。

 ルルと娘たち、リニア、イオ、ネアの六人は、上空で待機する。ちなみに、点ちゃん1号は、俺たちが降りた後、周囲が見えないモードになる。

 戦闘シーンは、娘たちやイオに、見せられないからね。


 出場者五名に加え、コルナとコリーダが、一緒に会場に行く。

 選手が怪我をした場合は、コルナが治癒魔術を行い、コリーダがポーションや包帯を担当する。


 俺は、竜闘を前に、思ったより落ちついている自分に驚いていた。


 ◇


 会場では、ビギが時間を気にしていた。


「奴らはまだ来ないのか」


「はっ。

 外で待機している遠見の係からも、姿が見えたという報告は、まだありません」


 竜舞台がある丘は、草原に囲まれている。この時刻に姿が見えないとなると、もう竜闘開始に間にあうまい。勝負は、こちら側の勝ちだが、こういう勝ちだと、観客の不満は解消されないだろう。

 近いうちに、ラズローでも、竜闘に引っぱりだすか。


 貴賓席で待機していたビギは、勝利を確信した。竜舞台のまん中に出ていき、それを宣言する。


「皆の者、竜闘の為に、ここへ集まってもらい感謝する。

 どうやら、迷い人には、名誉という考えがないらしい。

 すでに、竜闘開始の刻限は来た。

 今回の竜闘は、我々の……」


 ビギがそこまで言ったとき、観客席一杯につめかけた見物人が、大きくどよめいた。竜舞台のすぐ横に、突然、人族と獣人が現れたからだ。


「まだ、時間には、遅れていないはずですが」


 リーヴァスが、静かな口調で言う。彼の声は、大きくはないが、観客席の隅々まで届いた。


「ふむ、いいだろう。

 では、観覧する皆様に、それぞれが歓迎の意をあらわそうではないか」


 ビギは、ニヤリと笑うと、観客席の一隅に、手を振った。

 十人ほどの黒竜族の男が、ホルンや太鼓に似た楽器を手に、立ちあがる。竜人族の伝統楽器だろう。一糸乱れぬ演奏からも、彼らは、非常によく訓練されているのが分かった。

 勇ましい音楽が鳴りやむと、観客から歓声が上がる。


「さあ、あなた方の番ですぞ」


 竜闘の案内状に書いていないことを、要求してくる。こちらに、恥をかかせる気だな。


「シロー」


 コリーダが、俺に声を掛ける。


「ここは、私が」


 俺が頷くと、彼女は竜舞台へ上がった。すでに、観客からは、不満の声が出はじめている。しかし、コリーダが舞台の中央に佇むと、それだけで波が引くように、不満の声が消えていく。

 すでに、観客は、彼女が作り出す空間に捉えられていた。


 静かにアカペラが始まる。

 俺は、その曲を知っていた。エルファリアの鎮魂歌だ。


 コリーダが作り出す音の波が、竜舞台から客席へ広がっていく。

 決して激しくはない曲、その静かな曲が、聞くものに、激情を呼びおこしていた。愛するものを失った哀しみを。

 観客は、いつ自分たちが涙を流しはじめたか、気づかなかった。静かなまま終わった曲は、全員に忘れられない印象を残した。


 満場、声も無い。


 しばらくの静寂の後、どこからか起こった拍手により、導火線に火がつくと、燃えるような歓声が場内を満たした。

 コリーダは、舞台から降り、横を通るとき、俺に軽くウインクした。


 全く、大した女性だよ、君は。


 俺は、聞くたびに、新しい何かに気づかせてくれる彼女に、心を撃ちぬかれていた。

 

 ビギの方に目をやると、計画通りいかなかったからだろう、視線だけでこちらを殺せるような顔になっている。


 おいおい、かしらが、そんなに感情を露わにしてもいいんですかね。


 俺は、少し敵が哀れに思えてきた。


 ◇


 審判役らしい、青竜族の男が、舞台に上がる。


「では、これより竜闘を始める。

 双方、先鋒せんぽうが前に」


 ミミが竜舞台に上がると、罵声が飛んだ。


「女が、神聖な竜舞台を汚すな!」

「女は、消えうせろっ!」

「恥を知れっ!」


 観客からの悪意が、最高潮に達したとき、客席の一角から声が上がった。


「ミミちゃん、がんばれ!」

「ミミー、応援してるよー!」

「負けるんじゃないよー!」


 目をやると、観客の一角に陣取る女性たちがいた。ポンポコ商会の常連客だ。女性ばかり選んで招待してある。


「あんたたち、男がうだうだうるさいよっ!

 か弱い女性を応援せずに、何が男だいっ!」


 気風きっぷがいいおばさんが、周囲の男に反撃している。彼女は、いつもミミを可愛がってくれている女性だ。


「なんだとっ!」


 プライドを傷つけられた男性が、おばさんに詰めよろうとする。

 さっと間に入ったのは、赤い鎧を付けた、赤竜族の若者だ。ラズロー邸で、リーヴァスさんにしごかれていた一人だ。


「こちらのご婦人に、何か言いたいことでも?」


 鍛えられた大柄な若者が、上から見下ろすと、食ってかかった男性がしり込みする。


「い、いや、別に……」


 今回、二十名ほどの女性を招待しているが、その周りを取りかこむように、赤竜族の若者が座っている。

 最前列には、病癒えたラズローの父親、マルローの姿もある。彼も、俺の計画の一部だ。


 しかし、ビギ側の出場者が登場すると、女性たちの応援が悲鳴に変わる。

 通路から現れたのは、優に二メートルを超す大男だった。

 いつもお読みいただきありがとうございます。

 宮本武蔵にならうとは、史郎もやりますね。

『宮本武蔵って誰~?』

 おや、点ちゃん、突っこむのはそこですか?

「ミミちゃんの相手がなんで大男?」 とか突っこみましょうね。

『だから、宮本武蔵はー?』

 うん、そこは史郎に聞こうね。

 明日へつづく。

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