第227話 竜人世界編 第31話 草原でのボードサーフィン
このタイミングでグラス・サーフィンですと?
いやー、史郎君といえども、のんびりしすぎじゃないか?
ラズロー邸から、イオの家に帰ってきた俺とリーヴァスさんは、加藤から襲撃の報告を受けた。
俺は、豚小屋に入れられた男を引っぱりだし、拘束を点魔法に代えておいた。
点魔法で一人用ボードを出し、それに男を載せ、近くの空き地まで運ぶ。
まだ目を覚まさない男は、明らかに両手と片足の骨が折れていた。
とりあえず、手足は後回しにし、体幹部だけ治癒魔術を施しておく。
「ぐぐぐっ」
うめき声を上げ、男が目を覚ました。魔術灯が、男の細面を照らしだした。
目の前に俺がいるのに、ヤツは素知らぬ振りをしている。
「ここに来た目的は、何だ?」
男が答えないと分かってはいたが、儀礼的に尋ねた。
男は、黙ったままだ。
「しかし、コテンパンにやられたな」
「あの男は、誰だ?」
おっ? しゃべったぞ。
加藤には、興味があるようだ。
「お前は、馬鹿か?
この状況で、自分が訊きたいことだけ訊けると思ってるのか?」
俺は、感情のこもらぬ声を作った。
男が、再び黙る。
かなり鍛えられた男だというのが分かる。手足の骨折は、ひどく痛むはずだ。それなのに、うめき声一つ漏らさないどころか、表情にも出していない。
「よく聞け。
次にお前が俺の関係者に近づいたら、お前の命は無い」
俺は、足元の石を三十メートルほど投げた。
コトンと石が地面に落ちる音がする。
「この距離を覚えておけ。
この内側に入れば、死が訪れるぞ」
これは、冗談ではない。ヤツの身体には、言った通りに設定した点を着けてある。今はその機能をオフにしてある。
俺は、ヤツの骨折部分に添え木をすると、治癒魔術を掛けた。杖として使える、枝切れも渡してやる。
「二度と俺たちの前に現れるな」
俺は、男をそこに置き、立ちさった。観察用の点は、奴の頭上一メートルに設定した。
イオの家に向かい、数歩だけ歩いて振りかえると、奴の姿は消えていた。危険な奴だ。加藤がいなければ、イオとネアさんは、無事で済まなかったろう。
すぐに奴につけた点の機能をオンにしておいた。
この件で、俺は、自分たちが非常に細いロープの上に立っているようなものだと気づかされた。
◇
翌日は、月に一度、商店街が休みになる日だったので、俺と仲間たちは、各自が思い思いの過ごし方をしていた。
ルルは、竜王花のお茶について尋ねたいことがあるとかで、ラズローの所へ出かけた。リーヴァスさんも、同行している。
先日、ラズロー邸で竜闘の打ちあわせをした後、模擬刀を使った手あわせがあった。
ポンポコリンからは、リーヴァスさんが出たのだが、彼が余りに強いので、ラズローの下で働く若い衆ばかりか、ラズロー本人まで、弟子入りを希望した。
弟子は取れないが、と断った上で、今日は訓練につきあうことになっている。ミミとポルも、この訓練に参加する。
コリーダとリニアは、イオとネアを手伝い、家事と明日から売る商品の仕込みを行う。
加藤は、彼女たちの護衛を買ってでてくれた。
俺は、ナルとメルをボード遊びに連れていくことにした。ボードでは師匠格である、コルナも一緒に行く。
俺たち四人は、竜人世界に転移したときに降りたった、草原に瞬間移動した。
◇
見覚えがある草原は、通り雨が過ぎた後なのか、地面が少し湿っていた。
空を見ると、遠くに巨大な雨雲が見える。この世界に来た時、上空から観察した台風かもしれない。こちらに来そうなら瞬間移動で都に帰ろう。そう決めて、四人分のボードを出す。
皆、ワクワクした顔でそれを受けとる。本当は三人分でいいのだが、ナルとメル、そして、点ちゃんがそれを許してくれなかった。
『(*'▽')v ご主人様ー、私もブイブイいわせたいです』
点ちゃん……ブイブイいわせるって、どこで聞いたんだろう。
台地の端の方には行かないよう打ちあわせ、ボードで滑りはじめる。微風が吹く緑の草原を、ボードで滑るのは爽快だ。草が、緑なす波のようだ。
コルナたち三人のボードは、複雑な軌跡を描き、縦横無尽に草原を駆ける。
「うわー!」
「気持ちイー!」
ナルとメルが楽しそうだ。
三人程ボードがうまくない俺は、見失わないよう着いていくのがやっとだ。
俺が疲れてきたのが分かったのだろう、点ちゃんは、待ちきれない感じだ。
『つ(・ω・) ご主人様……そろそろ』
いいよ。どうぞどうぞ。
点ちゃんには、ずっと働いてもらってるからね。
『(^▽^)/ わーい!』
点ちゃんに、ボードのコントロールを渡す。
急に弾かれたように加速したボードが、一気に三人を追いこす。
コルナが何か叫んでいるが、俺には聞いている余裕すらない。
緑の絨毯の上を、物凄いスピードでボードは進む。ボードが風を切る音がする。
『(*'▽')b さあ、大技いきますよー』
悪い予感がしたときには、すでに手遅れだった。
トップスピードで台地の端に突っこんだボードは、俺を乗せたまま、崖から飛びだした。
いつもお読みいただきありがとうございます。
次回、久々に新スキル獲得。
お楽しみに。




