第226話 竜人世界編 第30話 黒竜族の影
イオの家に忍び寄る、黒い影。
加藤が、一人で立ちむかいます。
ラズロー邸で史郎たちが竜闘の打ちあわせをしている頃、イオの家ではちょうど夕食が始まるところだった。
「ユウ兄ちゃん、ご飯だよー」
イオが、地下への降り口で、声を掛ける。
「ああ、今、行くよ」
地階で、地球の雑誌を読んでいた加藤が答える。雑誌は、史郎が地球に一時帰還したときに買ってきたものだ。
欠伸をしながら、加藤が地階から上がってくる。
ネアが作った料理の、いい香りがする。今日は、ジジ肉のシチューだ。
三人が、キッチン兼ダイニングのテーブルに着き、食事が始まった。
加藤が他の世界について話すと、二人は食いつくように聞いている。
「女王様って、女なのに王様なの?」
イオが不思議そうな顔をして尋ねる。
「そうだよ。
おっかないんだぞー」
「ここでは、地位がある役職につくのは、男性だけですから」
ネアは、娘が驚いた理由を説明する。
スープをすくっていた加藤の手が、ピタリと止まる。
「すみません。
ちょっとお手洗いに」
彼はそう言うと、半地下の階段を昇り、外へ出た。
戸口から漏れる灯りが周囲を暖かく照らしている。
ちょうど、その灯りが消える辺りに向け、加藤が声を掛けた。
「おい、覗きは、いい趣味じゃないな」
その声に応じるように、影がちぎれ、人の形をとった。
黒服を身にまとった黒竜族の男だ。
長身であるのに、不気味なほど存在感が薄かった。
「なぜ、気づいた?」
「なぜって、お前、そんなに殺気出しておいて、気づかれないはずがないだろう」
加藤は、いつも通りの口調だ。
男は、突然の攻撃で、それに応えた。
並みの者なら、ひとたまりもなくやられていただろう。
男が手に持っていたはずの短剣は、いつの間にか、加藤の手に移っていた。
刃渡りが三十センチ程のそれは、刀身が黒く、光を反射しないようになっている。明らかに、暗殺用の武器だった。
「いきなり攻撃してくるかね、普通」
呆れたような、加藤の声に向け、男は懐から出した何かを投げつけた。しかし、数個の飛礫は、どのような仕掛けがあったにせよ、全くの無駄に終わった。
加藤が、男の背後に移動していたからだ。
過去に、多くの竜人を暗殺してきた男だが、いつもとは違う勝手に戸惑っていた。
人族だと侮っていたが、今まで戦ってきた、どの敵よりも強い。
男は、彼の一族に秘伝として受けつがれてきた技を使うと決めた。
加藤の前に立っていた、男の姿が突然消える。
男は、加藤の遥か上方にいた。
竜人の膂力をもってして、初めて可能な技だ。
竜人でも人族でも、真上からの攻撃は避けられない。そこが、死角だからだ。
もらった!
男がそう思ったのも、仕方ないだろう。
しかし、次の瞬間、真下にいたはずの加藤が消えていた。
ありえない。
前後左右、ヤツに逃げ道は無いはずだ。驚きが、黒竜族の刺客に一瞬のスキを作った。
上空から落ちてきた、加藤の足、その踵部分が、男の頭に激突した。
その衝撃が、落下速度を上げる。
男は、ぐしゃっと音を立て、地面に激突した。
「あちゃー、高さの事、計算に入れてなかったな」
のんびりした声は、加藤だ。
「こりゃ、ボーが怒るかもな。
とりあえず、縛っとくか」
彼は、庭の隅に置いてあった荷造り用のロープで、男を縛りあげた。
「お兄ちゃん、何か変な音がしたけど……」
イオが、庭先に出てこようとする。
「あー、もう終わったから、出てこなくていいよ」
「そう?
手伝えることがあったら言ってね」
「分かったよ、ありがとう」
何とか、庭で起こった異変をごまかせたようだ。
加藤は、縛りあげた男を豚小屋に放りこむと、母屋に戻るのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
やっぱり勇者は強かった。
いったい、加藤はどのくらいジャンプできるのか? すでに「学園都市世界編」で、五階までは飛びあがってますが……。
そのうちにそれが、明かされます。お楽しみに。
では、明日へつづく。




