第224話 竜人世界編 第28話 四竜社にて
史郎は四竜社でビギと向かいあいます。
俺を含めた三人が、四竜社に出向く日が来た。
リーヴァスさん、ポル、俺、加藤の四人は、迎えが来るまで、打ちあわせを行っていた。今日いきなり戦闘を仕掛けたりはしないだろうが、念のためだ。
四竜社についての情報は、ばらまいた点から次々に入ってきていた。ビギを始め、すでに目ぼしい者には点が着けてある。
ヤツがこちらに探りを入れはじめたのも察知していた。
「じゃ、加藤。
後は頼んだぞ。
奴らが何か仕掛けてくるのは竜闘開始前後だと思うが、油断しないほうがいいからな」
「おう、任せておけ。
それよりお前こそ気をつけろよ」
「ああ、分かってるよ」
加藤は俺の肩を叩くと、イオの家に入っていった。それを見計らったように、四頭立ての馬車ならぬ、鹿車が到着した。
御者の席から、先日やってきた若者ミマスが降りてくる。
「お早うございます。
本日は招待を受けてくださりありがとうございます」
まあ、点の映像で彼とビギのやり取りは見ているから、「招待」などでは無いと分かってるけどね。
「お早う。
これに乗ればいいのですな?」
リーヴァスさん、ポル、俺の順に鹿車に乗る。
四頭立てだからだろう、先日のラズローの鹿車とは比べ物にならないスピードで街中を駆けていく。
あっという間に門から出ると、草原の道を、森とは反対方向に進む。
前方に丘が見えてくる。
鹿車は草原を突っきると、丘の麓の大きな建物の前で停まった。
◇
四竜社が入る建物は、丘の下を取りまく建物群の中でも一際大きなものだった。
建物は、丘の頂上に向けて斜めに建てられている。多くの窓がこちら向きに開いていた。内部へ陽の光が入ることを重視した設計なのだろう。この建物が丘の一部を削り、地下を設けていることまで分かっていた。
点ちゃんが丘周辺の立体マップを作っている。
その建物が平坦地と接する所に、大きな開口部があった。それはアーチ型をしており、象でも通れそうだ。
ミマスに案内された俺達は、その入り口を潜り、前方に現れた階段を上がる。数回の踊り場を挟んで、階段を百段は上がっただろう。
最上層に着いた後は、左に曲がり、通路を進んでいく。
ミマスは大きな木製扉の前で立ちどまった。
「こちらです」
ミマスがドアを開け、俺たち三人は中に入った。
◇
部屋の中は十五畳ほどの空間で、外側に十畳ほどの広いテラスが付いていた。
外側から窓のように見えていたのは、テラスの開口部だった。テラスと部屋との間は開けはなたれており、草原を渡ってきた風が壁のタペストリーを揺らす。
室内には大きな長方形のテーブルが置かれており、その三辺に竜人が座っていた。
俺たちは、残る一辺に座るよう促された。
こちらから見て左に青竜族、赤竜族がそれぞれ二人ずつ、右に白竜族と、黒竜族がやはり二人ずつ座っている。
赤竜族の一人はラズローだ。彼は俺たちと初対面であるかのような素ぶりをしている。
白竜族は初めて見たが、銀色に近い白髪で、若い方の竜人は、女性と見まがうばかりの繊細な顔立ちをしていた。
奥に一人で座っている壮年の黒竜族がビギだというのは、点ちゃんからの情報で分かっている。
「君たちが迷い人だな。
ドラゴニアにようこそ。
私は四竜社の頭、ビギという」
「初めまして。
私はリーヴァスと申します。
こちらは、ポル、シローです」
ビギの挨拶にリーヴァスさんが応じた。
ビギの左に座っている、太った赤竜族の男性が問いかける。
「どのようにしてこの世界に?」
「どうやらランダム・ポータルの転移に巻きこまれたようです」
これは、あらかじめ打ちあわせてあったセリフだ。
「こちらには何人で?」
「合わせて十人ですな」
「なぜ、そのような大人数で転移を?」
これは白竜族の若者からの質問だ。彼は顔立ちだけでなく、声も美しかった。
「谷間を皆で歩いているとき、いきなりポータルが現れましてな」
このセリフも、打ちあわせ通りだ。
「なるほど、それに巻きこまれた人もいたのですね?」
「ええ、この二人がまずポータルに飲みこまれて、その後、私を含め残りの八人が巻きこまれました」
リーヴァスさんがポルと俺を指す。
「なるほど。
だから、最初二人だけが都に来たのですね」
白竜族の若者が発言したが、それをさえぎるように黒竜族の一人が発言する。
「その二人は、役所で騒動を起こしておる」
「ほう。
騒動とは?」
リーヴァスさんは、知らないふりをしている。
「悪臭をまき散らしたと聞いておる」
「いきなり牢へ捕らえられただけで、特に何もしていませんよ」
俺がとぼける。
「何を言うか!
青竜族の役所から報告が来てるんだぞ」
「で、決めつけるだけの証拠はあるのでしょうね?」
俺は穏やかな口調で言いながら、黒竜族の男を正面から見た。
「くっ、そ、それは、彼らがそう言っておる!」
「おや?
誰かがそう言っているだけで、証拠は無いと?」
「ええいっ!
うるさいわっ!」
人間ならば四十代に見える黒竜族の男は、こめかみに筋が浮かびあがっている。
「トール、その話はそこまでだ」
ビギが場を収める。
立ちあがりかけていたトールという男は、こちらを憎々し気に睨んだまま腰を降ろした。
「あなた方を罪に問うつもりはない。
ただ、このままでは納得のいかぬ者もいる」
ビギはそういいながら、トールの方をチラリと見た。
「そこで提案なのだが、我々の伝統行事に参加していただきたい」
「伝統行事といいますと?」
今度は、リーヴァスさんがとぼける。
「私が説明しましょう」
青竜族の一人が発言を求める。
「ハルト。
では、説明してくれ」
ビギが許可を出す。
「参加して頂く伝統行事は、『竜闘』と呼ばれるものです。
竜舞台において一対一で戦います。
戦いといっても審判もいますし、危ないと思ったら場外に出ればいいわけですから、それほど危険はありません」
その発言が嘘だと分かっている俺たち三人は、顔を見あわせた。
「死ぬようなことはありませんか?」
俺が指摘する。
「ええ、普通はありませんよ」
ラズローと白竜族の若者が顔を伏せる。竜人にも恥を知る者はいるようだ。
「降参を宣言すれば、負けとなるのですな。
その後で、攻撃されたりはせぬのですかな?」
「……ええ、されません」
青竜族の男が答えるまでの一瞬のためらいが、全てを物語っていた。
「負けたらどうなるのでしょうか?」
ポルが打ちあわせてあったセリフを言う。
「特に何もありませんよ。
参加していただければ、迷い人としての登録もこちらで行っておきます」
「全員が参加する必要があるのでしょうか?
私たちには、小さな子供もいるのですが」
これは俺が質問した。
「もちろん、その必要はありません。
今のところ、五対五の形式を考えています」
なるほど、このハルトという青竜族の男が、ビキの下で竜闘を運営するわけか。
「五人ですか。女性が参加してもよろしいか?
男性は、四人しかいません」
「ああ、男性が足りなければ、竜人に協力を求めることもできる。
そうだな、ラズロー」
ビギが口の端を吊りあげながら、ラズローに話を振る。
「ええ、それも可能です」
ラズローは、顔色一つ変えずに答えた。
「では、お前の所で、何とかしてやれ」
ビギは、薄ら笑いを浮かべながら畳みかけた。
「分かりました」
ラズローが静かに答えた。
「では、話しあいは、これで終わりだ。
皆、『竜闘』がつつが無く終えられるよう力を尽くせ」
ビギが竜人たちを見回す。
「「「天竜の庇護の下に」」」
ビギ以外の八人の竜人がそう言って頭を下げると、立ちあがった。
俺たち三人も促され、席を立つ。
他の竜人が部屋から出るのを追う形で、廊下に出る。
◇
廊下ではミマスが待っていた。
帰りも彼が俺たちを案内するようだ。
八人の竜人は通路の反対側へ向かうようだ。
俺たちが歩きだしてすぐ、後ろから足音がした。
「そういえば、私もこちらですることがあったのだ。
ご一緒していいかな?」
振りむくと白竜族の若者がいた。近くで見ると、さらにその美しさが際立っている。涼し気な目が印象的だ。身長は、百九十センチほどあるだろう。顔つきからは想像できないくらい、鍛えられた体躯をしている。
ミマスは少し困ったような顔をしたが、相手の方が役職が上だと考えたのだろう、若者に礼をした。
長い廊下を歩く間に、白竜族の若者はいつの間にか俺のすぐ横に並んでいた。歩幅が違うので、少し歩きにくそうだ。
「シローと言ったか。
私は、白竜族のジェラードだ。
君と少し話がしたい。
時間を取ってくれるか?」
彼は前を行くミマスに聞こえないよう、囁きかけてきた。
俺は少し考えてから返事をした。
「いいですよ。
俺は、青竜族の都で商売をやっています。
商業区の『ポンポコ商会』まで来ていただければ会えます」
「そうか。
『ポンポコ商会』だな。
なるべく早く行くことにするよ」
彼は俺の肩を軽く叩くと、列から離れた。
「私は、ここで失礼する」
そう言うと、颯爽と去っていった。
なんか、リア充の匂いがするやつだな。
『(・ω・)ノ ご主人様、そういうことは考えない方がいいよ?』
なぜか疑問形になっている点ちゃんの意見を聞きながし、俺は白竜族の若者が何の目的で近づいてきたか、それに考えを巡らすのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
竜人社会のトップが集結という感じでした。
白竜族の若者が気になりますね。
では、明日へつづく。




