第195話 地球一時帰還編 第7話 ちょっとしたハプニング1
史郎が異世界に帰る前の、ちょっとした出来事。
でも、畑山家にとっては一大事です。
透明化した史郎は、学校の上空から屋上に舞いおりた。
俺は透明化したまま、学校内を歩く。空き時間だったのか、林先生は、職員室にいた。他にも、懐かしい先生たちの顔が、揃っている。
俺は、先日、先生につけておいた点を使い、念話する。
『林先生』
林先生が、がたっと立ちあがる。
「おや、先生、どうかなさいましたか?」
隣の小林先生が、彼を見あげている。彼女は、音楽教師だったな。
「あ、いや、何でもありません」
林先生は、再び座った。
『先生、廊下に出てきてもらえますか?』
「ちょっと、失礼します」
林先生は、そそくさと廊下に出てきた。辺りをキョロキョロ見まわしている。
俺は彼に透明化の魔術を掛けると、窓から屋上に飛びあがった。
林先生は、固く閉じていた目を開くと、大きく息をついた。
「おいおい、先生は、こういうの苦手だって言っただろう」
「すみません。
時間が無いもので」
「もう帰るのか?」
「恐らく、あと半日も無いでしょう」
「そうか。
ご家族とは、会えたのか?」
先生は、心配そうに尋ねる。
「ええ、会えましたよ」
彼は、俺が嬉しそうなのを見て、安心したようだ。
「他の三人の所は?」
「ええ、全部回れました」
俺は、舞子が獣人の前で演説している、動画を見てもらった。
「はーっ!
これが本当に、あの渡辺か?」
「ええ、間違いなく彼女ですよ」
「お前も変わったと思ったが、この変わり方は、衝撃的だな」
まあね。先生は、大人しい彼女しか知らないから。
ついでだから、加藤と畑山さんの映像も見せておく。
「うわっ!
畑山、本当に女王様してるな」
見終わった先生は、納得したような顔をしていた。
「お前らが、こちらに帰ってくるつもりが無いってのも分かるな」
俺は、それには黙っておいた。
「あ、そうそう。
今朝、学校に畑山の関係者が来たぞ」
「どんな人です」
「若い男で、黒いスーツを着てたな。
歯を抜いた後なのか、こちら側を腫らしてた」
先生は、自分の左頬を触った。
ああ、広間で兄貴分に殴られた、若手の黒服だな。
「なんか、血相を変えて、お前のことを探してたぞ」
ふ~ん、なんだろう。仕返しにきたのかな。
「黒いスーツ姿の男たちが学校の周りにいるから、警察に相談するかどうか、先生方と話しあってたところだ」
とにかく会ってみるか。学校に、迷惑はかけられない。
「先生、警察に連絡するのは待ってください。
彼らには、昨日会っているので、何か、俺に用事が出来たのでしょう。
一人で会ってみます」
「お前一人で、大丈夫か?」
「大丈夫ですよ」
先生は、懐からスマートフォンを出すと、番号を打ちこんで、俺に渡した。
「このボタンを押すと、警察に繋がる。
くれぐれも、無茶はするな」
「分かりました。
ありがとうございます」
俺は、背中のバッグにスマホを入れると、お礼を言った。
「黒スーツと会うときは、ポケットに入れておけよ」
「分かりました。
じゃ、先生、いろいろありがとうございました。
転移する前に、もう一度来る時間は無いと思います」
「ああ、それは持っていけ。
元気な顔が見れてよかった。
帰れるなら、また帰ってこい」
「じゃ、よい風を」
「うん?
なんだそれは?」
「異世界で、旅の安全を祈る言葉なんですよ」
「ああ、お前にも、よい風を」
俺はお辞儀すると、自分に透明化を掛け、空に舞いあがった。
◇
黒服たちは、すぐに見つかった。
学校の敷地を取りかこむように、五、六人の黒服がうろついている。
俺は、顔の半分が腫れている男の前に降りたつと、透明化を解く。
「俺に何の用だ?」
若い黒服は、ものすごく驚いたようだが、そう見せないように必死だった。
「親分からの言伝がありまして。
ぜひ、すぐ来てほしいってことなんで」
悲痛な顔で、頭を下げる。
復讐に来たわけじゃないのか。何かよほどのことがあったな。
「親分は、どこにいる?」
「自宅で報告を待っていやす」
「分かった。
今からすぐに行く。
そう電話しておけ」
「へいっ」
俺は、電話をかけている彼の頬に治癒魔術を掛けてやった。
「あれ?
痛くねえ」
驚いた顔の若い衆を尻目に、点魔法の「付与 空間」「連結」の合わせ技を使う。
俺は、一瞬で畑山家の庭に移動した。
いつもお読みいただきありがとうございます。
畑山家の一大事が、史郎の肩にかかります。
これ、史郎に任せてだいじょうぶかな。
明日へつづく。




