第175話 聖樹世界編 第42話 エルフ王族の秘密
史郎は、コリーダ姫を救えるのか?
エルフ王族が、ひた隠しにしていた、その秘密とは?
力なく横たわるコリーダにまたがったメイドが、振りかざした短剣を、勢いよく振りおろした。
グサッ
メイドが、目を見開く。
それはそうだろう。今まで第二王女が寝ていた場所には、誰もいなかった。ナイフは、その根元まで、ベッドに刺さっている。
「お前、ダークエルフだな」
俺は、両手をパンと合わせた。メイドに掛かっていた、モーフィリンの効果が切れる。そこには、黒褐色の肌を持つ、まぎれもないダークエルフがいた。
「ちっ!」
メイドは、吐きすてるように言うと、呪文を詠唱する。
それより早く、俺の点魔法が発動する。
彼女の体が一瞬で浮かびあがり、天井に頭を強くぶつけた。
「ぐっ」
床に倒れた彼女は、首を左右に振り、意識をはっきりさせようとする。
俺は、背後から彼女の首に腕を回し、意識を刈りとった。
ふう、やっと終わったか。
ドアを開け、大声で異常を知らせる。
すぐに女騎士が駆けつけた。
倒れたメイドを彼女に任せると、モリーネ姫に連絡する。パーティが終わったら、国王の家族だけで点ちゃん1号まで来てもらうように頼む。
あ~あ、せっかく大侵攻をしのいだのに、今夜は休めそうにない。
俺は、ブツブツ言いながら、城の廊下を歩きはじめるのだった。
◇
パーティが終わると、すでに深夜だった。
コケットに寝ている娘たちを起こすわけにもいかないので、陛下とその家族には、別の場所に移動してもらうことにした。
誰にも聞かれる恐れが無い場所ということで、『西の島』ベースキャンプを選んだ。
陛下、王妃、五人の王女を点魔法で一人ずつ送る。一度に送ることもできるのだが、急ぐ必要はないからね。
最後に、俺自身が移動する。陛下と彼の家族は、突然まっ暗な場所に連れてこられたので、パニックを起こしかけていた。
魔術で、小さな光を灯す。
それほど明るくないが、話をするだけなら十分だろう。
一応、壁の上部にもうけた小窓も開けておく。
◇
「シロー、ここは?」
「ここは、『西の島』を調査するときに作った、ベースキャンプです。
ここなら、他人の目も耳もありませんよ」
俺は、意味あり気に言った。
「どうやって、一瞬で、そんなところへ?」
陛下の問いかけには、答えずにおいた。
第二王女コリーダは、俺が彼女の部屋に踏みこんでから、ずっと点魔法で治療中だ。急遽作ったコケットに、闇魔術で寝かせてある。
俺は、まず彼女を起こすことにした。
「ううう、こ、ここは、どこ?」
コリーダ姫は、俺が以前会った時より、さらに痩せていた。
お后が、優しく話しかける。
「コリーダ、お加減はどう?」
コリーダ姫は、王妃を冷たい目でちらりと見た後、黙っている。
俺は、話を進めるため、両手をパンと合わせた。
コリーダ姫の肌が白色から褐色に変わったことが、暗がりの中でもハッキリ分かった。
「な、何ということを!」
王妃が、俺を咎めるような目で見る。
「彼女は、あなたが生んだ、実の娘さんですね」
俺の言葉に、王妃はぶるぶる震えると、がっくり膝をついた。
「嘘よ!
私が、この女の娘であるはずがない!
私には、本当の母親がいるもの!」
「陛下、王族に褐色の肌を持つ者が生まれたのを隠すために、第二王妃を娶りましたね?」
「ど、どうしてそれを、シロー殿が……」
「最初は、コリーダ姫の顔かたちが、余りにモリーネ姫に似ていたこと。
つまりは、王妃様、あなたに似ていた。
しかし、確信を持ったのは、耳の形です」
「耳の……形?」
モリーネ姫が、言葉を漏らす。
「この世界に来て初めのころ、俺にはエルフの方々が、みんな同じに見えていました」
俺は、ことさらゆっくり話をする。
「顔の特徴が分かるようになると、あることに気づいたのです」
モリーネ姫の方を向き、頷く。
「耳の形は、個々でかなり違うというとこを」
俺は、そこで少し間を置いた。
「特に、耳の内側、その凹凸は、非常に特徴的なものでした。
多くのエルフと会ううちに、耳は母親の形を受けつぐことに気づいたのです」
俺は、コリーダ姫の方を見た。
彼女は、首を左右に振り、プルプル震えていた。
俺は話題を変え、彼らに別の視点から見てもらうことにした。
「陛下、コリーダ様を殺そうとしたメイドは、彼女が生まれる以前から、お城にいませんでしたか?」
「ああ、その通りじゃよ」
「そして、コリーダ様が生まれてすぐに、第二王妃が現れた」
「ど、どうしてそこまで分かるのだ。
確かに、彼女はコリーダが生まれた直後、城の前に倒れておったのを、あのメイドが見つけてきたのだが……」
陛下の顔色が、変わる。
「も、もしかして、そのこと自体が、ヤツらの計画だったのか!」
「そうです。
褐色の肌を持つ王女が、実の父親である国王を殺す。
エルフに恨みを持つダークエルフたちが、これほど望む結末はないでしょう」
「そ、そんな……。
お母様は、エルフに殺された。
エルフに殺されたんだ!」
コリーダ姫が、悲痛な叫びをあげる。
「あなたにそう思わせるのが、彼らの狙いだったのでしょう。
第二王妃は、その任務のため、命がけであなたを騙したのです」
「シロー殿、なぜメイドは、今になってこの子の命を狙ったのだ?」
「メイドは彼女を殺そうとする前、コリーダ姫に陛下を毒殺させようとしておりました」
「なにっ!」
「和睦が成った今、彼らの任務が取りけされるのは確実です。
だから、その前にケリをつけようとしたんです」
「ワシだけで無く、コリーダにも、毒が盛られていたのはなぜだ?」
そう、それで惑わされちゃったんだよね、こっちも。
「母親と同じように、誰かが彼女を狙っていると思わせるためでしょう」
その誰かが陛下、王妃と他の姉妹だとは言わずにおいた。
「なぜ!?
なぜなの!
私は、一体何のために……うううっ」
コリーダ姫が、うめくように言葉を漏らす。
幼いポリーネ姫がそんな彼女に近づく。彼女は、姉の頭を優しく撫でながら、こう言った。
「お姉ちゃん、早く元気になって」
それを聞いたコリーダ姫は、泣きくずれてしまった。
四人の姉妹が、彼女を撫でている。
お后は、コリーダ姫の足元にすがりつく。
「ああ!
私たちが世間体のために、あなたを辛い目にあわせたのね」
そう言うと、彼女は、床に両手をついた。
「お前たちのせいではない。
余が、王としての立場を守ろうとしてやったことじゃ。
すべて余の、余の責任……だ」
陛下も立ちつくしたまま、滂沱の涙を流している。
「でも、でも、私は、お父様の命を狙ったのよ。
もう、妹とも、姉とも、娘とも呼んでもらう資格はないわ」
コリーダ姫の発言を、俺の言葉が断ちきる。
「甘えるなっ!!」
皆が、ギョッとして俺の方を見た。
「あんたは、母にも父にも姉妹にも、これほど愛されているじゃないか。
そういう愛をもらえずに生きている者は、沢山いる。
甘えるのも、いい加減にしろ!」
「この子を許してやって」
「シロー、姉さんをいじめないで」
「お姉ちゃんを、許してあげて」
「シロー、嫌い!
お姉ちゃーん」
四人の王女が、俺からコリーダ姫を守ろうとする。
ひとまず、彼女たちは、これで大丈夫だろう。後は、コリーダ姫次第だ。
陛下は、じっとこちらを見ていたが、やがて俺だけが聞こえる声で、ぼそりと囁いた。
「シロー殿、かたじけない」
もしかすると、陛下には見破られるかもしれないと思っていたけどね。
俺は、さっと後ろを向くと、二階に上がった。
家族の語らいが終わったら、彼らを『東の島』に送ってやろう。
『(* ω *)ノ ご主人様ー、不器用ですね』
点ちゃん。まあ、器用じゃないのは間違いないね。
俺は、長いこと思いださなかった自分の過去が、頭を過るのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
史郎……。不器用です。
思わず誰かの「自分、不器用ですから」という声が聞こえそうなほど。
では、明日へつづく。




