第171話 聖樹世界編 第38話 ダークエルフ侵攻1
ダークエルフの大攻勢が始まります。
襲いかかる、無数の魔獣にグリフォン部隊。
史郎たちは、どう対処するのでしょうか。
大攻勢の前日は、静かに過ぎていった。
嵐の前の静けさとは、このことだろう。
パーティ・ポンポコリンも、すでに準備を終え、明日に向け細かいところの確認に移っている。
パーティは、リーヴァスさん率いるミミ、ポル、コルナ四人の班と、ルル、ナル、メル三人の班に分けた。
ルルの班には五匹のワイバーンが所属する。娘たちは、明日わずかな時間だけ参加するが、安全には万全を尽くした。
俺は遊撃ということで、一人だけ別行動だ。まあ、点ちゃんと一緒だから、本当は、一人とは言えないけどね。
ナーデ議長から念話が入る。
『シロー、聞こえるか』
『ええ、どうぞ』
『全て予定通りに進行している』
『攻撃は明日ですね』
『そうだ。
こちらは何もできないから、君に任せるしかない』
『まあ、できるだけのことは、やってみますよ』
『命を粗末にするなよ』
『ありがとうございます』
モリーネ姫に、侵攻が予定通り明日行われることを、念話で告げておいた。
その日、俺は緑を敷いたハンモック、コケットで初めて寝ることができたが、余りの寝心地の良さに、横になるとすぐ眠りに落ちたため、何か納得できなかった。
◇
エルフ国建国祭当日。
祭りが開催される城下町には、早朝から多くの人が訪れた。
今回、屋台などは、城の西エリアから北西エリアに出される。このことで、住民を戦闘地域から遠ざけることができる。
城の東側から南側にかけては、大規模な軍事訓練を理由に、立ち入り禁止となっている。これも、ぎりぎりになって王城から連絡が来たので、祭りの関係者は大変だったはずだ。
日が高くなり、祭りの人出が最高に達した頃、城の東に赤い煙が立ちのぼった。
これは、獣人世界ケーナイのギルドで教えてもらった連絡法だ。
待機しているエルフの軍勢に緊張が走る。煙は、ダークエルフ侵攻が始まったことを意味するからだ。
最初に、王城南側の森から無数の魔獣が現れた。
城と森の間には草原があるが、そこを魔獣が埋めつくしていく。
闇魔術の名手として名高い、ラシンダ将軍が魔獣を操る。
以前、魔獣を率い王都攻撃に失敗したメリンダの上司でもある。
「はははは!
行け行けー!
エルフどもを喰いちらせ!」
森の端で草原を埋めつくしていく魔獣を見て高笑いしていた、ラシンダ将軍の顔色が変わる。
「な、何が起きた!?」
自分と魔獣たちとの魔術による繋がりが、ぷつりと切れた感覚があった。
魔獣は、そこが棲み処の森ではないと気づき、当惑している。
ようやく目の前に森があるのに気づいたのか、数頭の魔獣が、そちらに向け走りだした。それを見た他の魔獣も後に続く。
雪崩のように、魔獣の群れが森へ押しかえした。
魔獣の後を追い、飛びだそうと待機していた、二万人あまりのダークエルフ兵は驚愕した。
それはそうだろう。
攻めこんだはずの魔獣が、なぜか自分たちに向かってきたのだから。
兵士の中には驚きから我を失った者もいた。暴走する魔獣の群れに挑んだ彼らの体が、軽々と跳ねとばされる。
「木だっ!
木に登れー!」
冷静な兵士は木に登り、なんとか難を逃れる。
無数の魔獣は、森の中に散っていった。
◇
ダークエルフの三軍を束ねる統合軍本部では、連行されてきたラシンダ将軍が、スコーピオ総帥の前に引きだされていた。
「よくもやってくれたな、ラシンダ」
総帥の静かな声が、かえってその怒りの大きさを物語っていた。
「そ、総帥!
私は何もしておりません!
魔獣が勝手に――」
「ええいっ!
この期に及んで言い訳などよいわ!
お前のせいで、初手が台無しだ。
軍籍の剥奪だけで済むと思うなよ。
確実に、『西の島』送りにしてやる!」
「お待ちを、お待ちをー!」
ラシンダが叫ぶが、兵士が彼の両脇を抱え、天幕の外へ運びだした。
自分の叫びが、かつて魔獣による王都襲撃をしくじった際の、部下メリンダのものと同じだとラシンダは気づかなかった。
そして、総帥の言葉が、メリンダに投げかけた自分の言葉そのものだということにも。
◇
魔獣が森から現れたのと同じ頃、グリフォン部隊は、予定通り東の空から王城へ急襲を掛けた。
いや、掛けようとした。
王城から飛びたった黒い影が、あっという間に彼らの前に立ちふさがる。
五匹のワイバーンだ。
グリフォン隊の隊長は、冷笑を浮かべた。
いくらワイバーンが強くても、五匹だけでは百匹のグリフォンに敵うはずもない。
彼は右手を上げ、それを振りおろしながら叫んだ。
「突撃ーっ!」
しかし、いつもなら機敏に反応するグリフォンが、全く動かない。
周囲を見まわすと、全てのグリフォンが、その場で羽ばたいているだけで、動こうとしていない。
「な、何が起きた!」
ふと気づくと、彼らの上空を、二匹の飛行獣が舞っている。
円を描くように飛んでいる黒い獣は下から見ると、ワイバーンのように見える。不思議なことに、二匹の獣はかき消すように空中からいなくなった。
グリフォンは、相変わらず命令しても同じ場所で留まっているだけだ。
血迷った一人のグリフォンライダーが、自分のグリフォンを刺そうと短剣を振りあげた。五匹のワイバーンの内一匹が一瞬で飛んでくると、そのライダーを足に掴み、グリフォンから引きはなした。
ワインバーンはライダーを殺すつもりはないらしく、彼を地上に下ろすと他の四匹と合流した。
五匹のワイバーンはグリフォンの上空で三回ほど円を描くと、東の方角、つまりエルフ王城とは反対方向に飛びはじめる。
驚いたことに、今まで乗り手の命令を聞かなかったグリフォンが、その後を従順についていく。彼らは、あっという間に戦闘地域から離脱した。
グリフォンライダーたちは、なす術もなく、ただ茫然とするしかなかった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
史郎たちは、ダークエルフの出鼻を挫けたようです。
問題は、ここからですね。
二万人の兵士と恐ろしい複合魔術「メテオ」。
史郎は、独力でこれを抑えると言っていましたが、可能なのでしょうか?
では、明日へつづく。




