第169話 聖樹世界編 第36話 準備2
大攻勢を前にしたダークエルフ軍の様子はどうなっているのでしょうか。
恐るべき魔道武器の実態が明らかになります。
一方、史郎たちは、『東の島』にあるエルフ王城へとむかいます。
ダークエルフが住む『南の島』、そこで編成された軍には、三つの軍事部門がある。
その三つを束ねるのが、ここ統合本部だ。中央都市郊外にある地下施設では、スコーピオ総帥が、会議室のテーブルに着く軍幹部を見まわした。
「住民には知らせておらぬが、すでにこの島の隠蔽シールドは消えておる」
二十人ほどいる列席者の数名から、うなり声が聞こえる。
他の者は、さすがに知っていたようだ。
「学園都市世界からの援助も、すでに期待できぬ。
我々ダークエルフの命運は、今回の『東の島』侵攻作戦に掛かっている」
そこで、彼は、壁際に控えた技官の方を、チラリと見た。
技官は、手元の魔道具を操作し、総帥の背後の壁面に『東の島』の地図を映しだす。
「プーダ将軍、よろしくたのむ」
総帥の左手に座っていた、壮年の巨漢が立ちあがる。
細身が多いダークエルフには珍しく、筋肉の鎧で覆われた体だ。彼が、技官から渡された棒で画面を指す。
「十日後、我々は、この三つのルートでエルフ国王都に攻めこむ」
画面に三本の矢印が出た。
「魔獣を先陣とした戦闘部隊本体二万人は、南から敵の正面を狙う」
彼は、そこでグリフォン・ライダーの部隊長をチラリと見た。
「百体百名のグリフォン隊は、東から攻めこんで、空から王城に攻撃を加える」
彼は、そこで一同をぐるりと見渡した。
「そして、奴らのとどめを刺すのが魔術部隊だ。
百名の闇魔術の使い手、百名の風魔術の使い手からなるこの部隊は、魔道武器を使うことによって、大規模魔術を完成させることに成功した」
彼が技官に頷くと、画面に動画が映しだされた。場所は、『南の島』南部の氷雪地帯である。
ローブ姿の魔術師たちが、二グループに分かれて詠唱を行っている。
その二グループの中間には、三人の人影が見える。
彼らは、箱から、筒状のものを出して組みたてている。
長い筒の先に円錐形の先端が付いた、大きな槍のようなものが完成した。
槍というには、太すぎるが。
中央にいる三人の内、一人が詠唱を始めると、すでに詠唱を行っていた二グループから、光の流れが魔道具に吸いこまれはじめた。
やがて、流れが止まると、魔道武器の先端、円錐形の部分が輝きだす。魔道武器を抱えた男の詠唱が止んだ。
ドシュッ
腹に響くような音を立て、先端部分が上空に発射される。
放物線を描いたその頂点で、先端部分が弾けた。ありえないほど巨大な火の玉が空に現れる。
それは、そのまま放物線をたどり、下降しはじめる。
そして、雪山の山頂付近に着弾した。
ズズーン!
画面が揺れる。それが爆発の激しさを示していた。
画面は、雪煙でしばらく見えなくなる。それが収まると、驚愕の映像が映しだされた。
山が半分以上吹きとんでいた。
会議場は、一瞬、静まりかえった後、歓声に満たされた。
「おお!
これさえあれば!」
「エルフどもに、目にもの見せてくれるわ!」
「長年の恨み、今こそ晴らさでか!」
プーダ将軍は、ニヤリと笑うとこう告げる。
「これがエルフどもの息の根を止める魔術『メテオ』だ。
本番では、三発の『メテオ』を使う予定だ」
「さ、三発!」
「奴らは、欠片も残らんだろう」
「はははっ!
我らの勝ちだな」
総帥が立ちあがる。
「聖樹の元に!」
「「「聖樹の元に!」」」
この部屋にいる誰一人として、自分たちの勝利を疑う者はいなかった。
◇
一方、こちらは『西の島』東部廃墟にある、ベースキャンプだ。
魔獣の侵入を防ぐため、『土の家』の開口部は土魔術で閉じておいた。
捕虜は、十人ずつ点魔法で作った大きな黒い箱に入れた。
中は、テーブル、椅子、簡易トイレなどが完備されている。
ロウソクや十分な食料、水も渡しておいた。
内側から外を見ることはできないが、ここは我慢してもらおう。
準備が終わると、全員で点ちゃん1号に搭乗する。
俺、リーヴァスさん、ルル、コルナ、二人の娘たち、デロンチョコンビ。
そして、ダークエルフのメリンダ。
総勢九人が、くつろぎスペースに落ちつく。
娘たち二人は、さっそくコケットで横になっている。
ええと、パーパがそれ使えるのいつになるのでしょう。
俺は、そんなことを考えながら、点ちゃん1号を離陸させた。
◇
今回は、時間が無いので、『聖樹の島』には、立ちよらない。
ワイバーンが途中休めないので、工夫することにした。
引っぱっている捕虜用の箱上部に風防をつけ、彼らの休息所にしたのだ。ワイバーンを連れていることで、飛行速度は落ちるが、彼らもすでに俺たちの仲間だ。
点ちゃん1号は、日が高いうちに『東の島』に着いた。
ダークエルフの攻撃は、六日後だから、それほど余裕があるわけではない。
モリーネに念話しておき、王城イビスの中庭に降りる。
ワイバーンたちは、以前作った土魔術のカゴに自分から入っていった。
彼らにとって、カゴはナル、メルと仲良くできる場所だもんね。
俺は、騎士に三十人余りのダークエルフを引きわたす。
念のため、彼らには点をつけてある。
命を狙われたりはしないと思うが、何があるか分からないからだ。
彼らの待遇については、すでにモリーネ姫と話しており、入牢ではなく軟禁になるということだ。
陛下が、わざわざ庭に出てきた。
「シロー殿!
見事依頼を果たしましたな」
「ええ、依頼は終わりましたが、これからが大変ですよ」
陛下には、モリーネ姫を通し、大攻勢のことを伝えてある。
「うむ、そうじゃな。
心して掛からねば」
陛下は、自分の判断次第で民の命が失われると分かっているのだろう。
いつになく、厳しい表情をしていた。
「とにかく、不自然にならないように、戦力をお城の東から南に掛けて展開できるようにしておいてください」
「うむ、言われた通りしておこう。
シロー殿は、今回も助勢してくれるのか?」
「陛下、俺は、どちらの味方でもありませんよ。
戦闘を止めるために、全力を尽くすだけです」
「それで、十分だ。
これを含めて、これまでの恩をどうやって返すかの」
「ははは。
陛下、お気にせず。
私はいつも、自分がやりたいことをやってるだけですから」
「まあ、そうもいくまい。
今回の件が片づいたら、覚悟してもらうぞ」
「え?
覚悟ですか?
ちょっと怖いですね」
「まあ、取って食うわけではないから安心せい」
陛下は微笑むと、俺の背中をポンと叩いてから城の中に戻っていった。
◇
大攻勢の前まで、俺たちは、1号機周辺で待機することにした。
城の中には、ダークエルフと通じた貴族が沢山いる。無理に、彼らを刺激する必要もないだろう。
ナルとメルは、ワイバーンの世話に夢中だ。
ポルは、メリンダに付ききりで面倒を見ている。彼の人柄が、メリンダに少しずつ良い影響を与えているようで、彼女は、時おり笑顔が見られるようになった。
ミミは、リーヴァスさんに剣の稽古をつけてもらっている。
いつも使っているカギ爪に加え、剣も使えるようになりたいそうだ。
俺、ルル、コルナは、娘たちの様子を見たり、ボードで上空から王城の周囲を見張ったりしている。
デロリンとチョイスは、小さな土魔術の小屋を建て、そこに住まわせてある。
彼ら曰く、
「雲上の人たちと一緒だと落ちつかない」
ということだ。
リーヴァスさんが、雲上の人っていうのは分かるけどね。
俺たちは、どう見ても一般人でしょ。
『( ̄ー ̄) ご主人様は、いつもこの調子ですね』
点ちゃん、そこは呆れるところではないでしょう。まあ、一番働いているのは、点ちゃんなんだけどね。
『南の島』のダークエルフ軍に対する点の拡散は、すでに十分なものになっていて、三部門に分かれている軍の上層部全員に、点が行きわたっている。
膨大な情報を取捨選択するのも、点ちゃんの役目だ。
全く、点ちゃんには、足を向けて寝られないね。
『(?ω・) ご主人様ー、足を向けて寝られないって?』
ああ、感謝の気持ちが沢山あって、疎かにできないってことだよ。
『(〃´∪`〃)ゞ えへへ』
ダークエルフの大攻勢を前にして、この少年は落ちついているのか、ボケているのか、ちょっと分からないところがある。
いつもお読みいただきありがとうございます。
ダークエルフ軍の全容が明らかになってきました。
とんでもない陣容のようです。
その上、お城には、貴族に紛れこんだダークエルフが。
史郎たちは、それに立ちむかうことができるのか?
ドキドキしながら、明日へつづく。




