第163話 聖樹世界編 第30話 ダークエルフの娘
絶体絶命のミミとポル。起死回生の手はあるのか?
ダークエルフの娘は、どんな情報を持っているのか。
では、どうぞ。
周囲の森から出てきた狼型魔獣の群れが、すごい勢いでミミとポルに押しよせる。
広場には、隠れるような場所もない。さすがのミミも、死を覚悟した。
魔獣の群れが、目の前まで迫る。
しかし、驚いたことに、彼らの動きがピタッと停まった。尻尾を腹の下に丸め、怯えた様子を見せる。
ミミは、後ろを振りかえった。
そこには、十メートルはあろうかという巨大な熊の姿があった。
魔獣たちは、キャンキャンと鳴き声を上げ、森へ逃げていく。
一難去って、また一難だ。しかも、こんどこそ、本当の終わりだ。
近づいてくる熊に、ミミは目を閉じた。
ところが、いつまでたっても熊が襲ってこない。
薄目を開けると、巨大な熊が、すぐ横に立っている。
ポンッ
音がすると、熊がポルに変わる。彼は、荒い息をつき、地面に座りこんでしまった。
「もう!
変身するなら、そう言いなさいよね。
死を覚悟しちゃったじゃない」
ミミが叱るが、ポルはゼイゼイと息をついているだけだ。自分の身体のサイズをあそこまで大きくしたのが、よほど負担になったのだろう。
ミミは、彼を放っておいて、柱へ向かう。
柱には、粗末なローブを着せられた、娘の姿があった。
恐らく、二十歳前だろう、若い娘だ。
ただ、その肌の色は、ミミがこれまで見たことが無いものだった。黒に近い褐色だ。髪も、それに近い色をしている。
耳が横に突きだしているのは、モリーネ姫と同じだから、エルフの変種かもしれない。
ミミは、娘を縛りつけているロープをカギ爪で切った。
「あ、ありがとう」
娘は、震える声でお礼を言った。
「私とこいつは、冒険者なの。
私がミミ、こいつがポルナレフ。
あなたは、どうしてこんな所に?」
「あっ!
じゅ、獣人……」
娘は、やっとそれに気づいたようだ。
「安心して。
私たちは、あなたの悲鳴を聞いて駆けつけただけよ」
ミミが言うと、娘は少し安心したようだ。
「助けてくれてありがとう。
私は、メリンダ。
ご覧の通り、ダークエルフよ」
ミミは、ダークエルフという種族について聞いたことがなかった。
「私たち、うちのリーダーから、この場所に来るように言われてたの」
「あっ!」
やっと立ちあがったポルが、空を指さしている。
ミミがそちらを見ると、見慣れた白銀色の機体が、こちらに近づいてくる。
彼女は、体の力が抜け、へたり込んでしまった。
点ちゃん1号は、広場のまん中に着地した。
◇
機体の側面をドア型に開き、俺は外へ出た。
「シローさん!」
ポルが、こちらに駆けてくる。
「ポル、ミミ、元気そうだね」
俺が言うと、二人とも涙を浮かべている。
「何かあったの?」
座り込んでいたミミが立ちあがる。
「何かあったの、じゃないわよ!
もう少しで死ぬところだったんだから!」
「狼型魔獣の群れに襲われたんです」
ポルが、説明してくれる。
「そいつらは?」
「ポン太が巨大熊に変身して追いはらったわ」
なるほど、『西の島』南部に生息する大熊に変身したんだな。いい判断だ。
「ポル、よくやったな」
俺はポルの頭を撫でてやった。彼は嬉しそうな表情をすぐにあらため、早口で報告する。
「それより、ボクたち二人、銀ランクになったんですよ!」
ポルは、キラキラ目を輝かせている。
「おお!
それは、凄いな。
俺より早いんじゃないかな。
二人とも、よくやったね」
ポルが泣きだしてしまったので、ミミがいつものように頭を撫でてやっている。
「で、君は誰だい?」
俺は、ダークエルフの娘に話しかけた。
「私はメリンダといいます」
なるほど、彼女が魔獣暴走事件の犯人か。そのことを問いつめるのは、後でいいだろう。
「じゃ、ベースキャンプに戻るから、これに乗ってね」
まだ足元がおぼつかないメリンダを背負うと、ミミ、ポルの後を追い、点ちゃん1号に搭乗した。
「また、くつろぎグッズが増えてる……」
ミミが呆れたように、室内を見まわす。
王城の城下町で、マットやクッションを仕入れてきたからね。
三人をソファーに座らせ、エルファリア特産のお茶を出してやった。
「うわー、美味しいなあ」
「うん、いい香りね」
メリンダは、驚いた顔で室内を見回している。
じゃ、点ちゃん、ベースキャンプに戻ろうか。
『(^▽^)/ はーい!』
俺は治癒魔術の点を付与しメリンダの傷を治しつつ、進路をベースキャンプへ向けた。
◇
「ルルさん、コルナさん、リーヴァス様、お久しぶりー!」」
点ちゃん1号から降り、ベースキャンプに入ると、ミミがさっそく皆に挨拶している。
「この人は、誰?」
「ああ、チョイスっていって、家の事を色々やってもらってるんだ」
「は、初めまして」
チョイスは、獣人を見慣れないのか、ちょっと引いている。
「ふーん」
メリンダは二階の個室で休ませ、ミミとポルに、これまであったことを伝える。
「えっ!!
幻の『南の島』って本当にあったの?」
「謎の原住民を見つけたんですか!?」
この世界のことを下調べしていた二人には、衝撃の事実だろう。
「君たちが救ったメリンダは、『南の島』の住人だよ」
「ふえ~、話が大きすぎて混乱します」
ポルが彼らしい言葉を洩らした。
「で、次はどうするの?」
ミミが尋ねてくる。
「うん、調査はここまでで十分なんだけど、ダークエルフの議会と接触しておこうかと思ってる」
「また、難しいことをやろうとしてるわね」
まあ、そう言われても仕方がないところだ。
点ちゃんがいなければ、まず不可能なミッションだろう。
俺は、頭の中の計画を再確認するのだった。
◇
次の日、体調が少し良くなったメリンダと話す事にした。
本当は、同胞に見捨てられた彼女をそっとしておいてやりたいんだけどね。
彼女が休んでいる部屋のドアをノックする。
「どうぞ」
声からすると、気持ちの整理は着いているようだ。
俺が部屋に入ると、彼女はベッドから上半身を起こしていた。
「ちょっと話せるかな」
「はい、何でしょう」
彼女の横に椅子を持っていき、それに座る。
「『東の島』でエルフ王城を魔獣に襲わせたのは君だね?」
単刀直入に尋ねる。
「ど、どうしてそれを!」
言ってしまった後、メリンダは「しまった」という顔で、口元を押えている。
「心配しなくていい。
確かに君がやったことは許されないことだが、一人の被害も出なかったからね」
「……」
メリンダは、力なく俯いている。まあ、そのことで処刑されそうになったんだもんね。
「毒でエルフ王の命を狙ったのも君かい?」
「え!?
わ、私ではありません」
「誰がやったか、心当たりがあるかい?」
「いえ、ありません」
嘘は、ついてはいないようだ。
まあね。王の命を狙うような仕事は、極秘任務だろうから。
俺は、話題を変えることにした。
「君は『南の島』の住民だね。
エルフの人たちが憎いの?」
彼女は、しばらく黙った後で口を開いた。
「あなたは、『南の島』がどんな所か知っていますか?」
「いや、ほとんど何も知らない。
その存在自体を、数日前やっと知ったくらいだからね」
「私たちが住む『南の島』は、決して豊かな土地ではありません。
祖先が移住した当時は、病や飢えで多くの人が死んでいったそうです。
今でも、やせた土地で取れるわずかな作物と海産物で、なんとか命をつないでいるのです」
俺は、黙って彼女の言葉を聞くことにした。
「私の妹カリンダは、十歳になる前に死にました。
家族のために、野の実を採りに出かけたところを、魔獣に襲われたのです」
妹のことを思いだしたのか、メリンダは目に涙をためている。
「豊かな『東の島』なら、妹は死なずにすんだはずです」
俺は、問題の根深さに、重い気持ちになっていた。
「追いだされた『東の島』に戻るために、できることをしようとしたんだね」
それでも、魔獣をけしかけたことは、許されることでないが。
「ダークエルフは、エルフから『東の島』を奪いかえしたいの?」
「そこまでできるとは、正直思っていません。
でも、学園都市世界からの援助が途絶えてから、皆が絶望的な気持ちになっています。
自分たちが滅びるくらいなら、エルフを巻きこんでやりたいと思っているダークエルフは沢山いるでしょう」
「すると、『東の島』への大規模な攻撃も、あり得るってこと?」
「ええ、処刑が決まって私が牢に閉じこめられている時、看守たちが、そのようなことを話していました」
これは丸顔の兵士に確認する必要があるな。
「君は、これからどうしたい?」
「……私には帰るところがありません。
あのまま魔獣に食べられた方が、幸せだったかも知れません」
「俺は君を慰められるような人間じゃないから、気の利いたことは言えない。
ただ、命を救われたことに少しでも恩義を感じるなら、できることは沢山あるよ」
「……ありがとう」
俺は、メリンダがなんとか立ちなおってくれるよう祈るのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
ポルの大活躍で、二人とメリンダは窮地を脱しました。
しかし、ダークエルフが『東の島』へ大攻勢をかけることが分かった今、状況は緊迫してきました。
史郎の次は、有効な手を打てるのか?
明日へつづく。




