第158話 聖樹世界編 第25話 襲撃
仲間が帰ってきて、喜ぶフェアリスの人々。
しかし、ダークエルフも黙っていないようです。
次の日、朝になってやっと落ちついたフェアリスの集落は、あちこちで明るい笑い声が聞こえていた。
俺は、デロリンを崇拝者たちから引っぺがし、『土の家』で朝食を作らせる。
彼は、フェアリスの料理人、ご婦人方に、神のごとく崇められている。
ちょっと油断をすると、すぐ取りかこまれ、身動きが取れなくなる。まあ、デロリンが自信をつけられるなら、それでもいいけどね。
ただ、朝食の邪魔をされるのはいただけない。
俺、ルル、ナル、メル、コルナが食卓に着く。
今日は、インドのナンに似たパンと、ベーコン、野菜、ジュースの朝食だ。
パンの上に、ベーコンや野菜を載せて食べるのだそうだ。
皆が、思い思いの具材をパンに乗せると、デロリンがソースをかけてくれる。
一口食べて、驚く。
ソースが、マヨネーズっぽい味なのだ。
「珍しい味ねー」
「初めての味ー」
皆は、そんなことを言いながら食べている。
俺は、懐かしくてちょっと涙ぐみながら、パンを噛みしめた。
ルルが、俺の様子に気づいたようだ。
「シロー、どうしました?」
「何でもないよ、ルル。
このパンが、故郷の味を思いださせてね」
俺がそう言うと、彼女はニッコリ微笑んでこう言った。
「また、ニホンの話をして下さい」
その時、リーヴァスさんから念話が入った。
『シロー、聞こえてますか』
『はい、何か起きましたか?』
『先ほど、グリフォンに乗ったダークエルフが二人、上空に現れました』
『えっ!
攻撃してきませんでしたか?』
『偵察に来ただけのようです。
ベースキャンプの上を旋回していましたから、攻めてくるのは、時間の問題でしょう』
『分かりました。
すぐそちらに向かいます』
『では、それまで警戒を怠らないようにしますかな』
『お気をつけて』
俺は念話を切ると、皆にベースキャンプにダークエルフの偵察が来たことを告げた。
デロリンと娘たち二人を集落に残し、俺、ルル、コルナの三人で向かうことにする。
集落には、点魔法のシールドも張っておく。
長に、しばらく出かけると告げ、すぐにボードを用意する。
時間が無いので、広場のまん中を上空へ。
点ちゃん1号に乗りこむと、高度を上げ、一気にベースキャンプを目指す。
三十分ほどで到着した。
さすが、点ちゃん。本気を出すと、もの凄くスピードが出る。
『(*'▽') えへへ、まだまだスピード出ますよー』
まあ、中に人が乗ってるから、あれくらいで我慢してね。
『(*'▽') はーい』
俺は、1号を塀と家との間に下ろすと、すぐに屋内に駆けこんだ。
「おや、もう来たのですか。
こちらに向かう途中でしたかな?」
リーヴァスさんが、落ちついた様子で出てきた。
「いえ、ちょっと飛ばしてきました。
それより、その後、奴らの動きはありませんか」
「まだ、ありませんね」
「恐らく、一時間もしないうちに、こちらに来ると思います」
「ほう、情報が入りましたか?」
「こちらに来るとき、上空から見ると、南東方向に敵の姿がありました」
「おお!
そういうことですか。
敵の陣容は分かりますか?」
「飛行型の魔獣が、二十匹ほど見えました。
きっと、あれがグリフォンですね」
「二十匹ですか。
なかなか厳しい戦いになりそうですな」
「とにかく、万一に備え、皆には点魔法のシールドをつけておきます。
危険があれば、それが展開するようになっています」
「ふむ。
初めてのことですから、どうなるかわかりませんが、その辺はお任せしますよ」
「分かりました。
戦闘の指揮はリーヴァスさんに任せますから、よろしくお願いします」
戦闘が始まると聞き、震えているチョイスに、地下のシェルターから出ないよう言っておく。
次にルル、コルナ、リーヴァスさんの間に、念話のネットワークを構築する。お互いに通じているのを確認すると、俺は二階の屋根に上がった。
ワイバーンたちは、くつろいだ様子だ。
今朝、グリフィンが来た時は、五匹とも狩りに出かけていたらしい。
俺は、彼らに、敵が攻めてくることを告げた。
もちろん、ナルやメルのようにワイバーンと会話することはできないから気休めだ。しかし、彼らの様子が少し変わったから、何かしら感じるものがあったかのかもしれない。
一匹に点を二つずつ付ける。今回は、空中戦になりそうだから、彼らの存在は大きい。
俺は、監視用の点を空中に幾つか浮かせると、一階に降りた。
◇
俺は待機所にしてあるリビングの壁に、監視用の点から送った映像を映した。
すでに、遠方に黒い点が見えている。あれがグリフォン隊だろう。
リーヴァスさんが、映像を見て指示を出す。
彼が左翼、ルルが右翼を受けもつ。俺は、ルルのサポートだ。
コルナは、治癒魔術の使い手として待機所で控える。
「お兄ちゃん、ルル。
気をつけてね」
戦闘に慣れていないコルナは、不安そうだ。
「大丈夫だよ。
安心してモニターを見ててね」
そう言って俺が微笑むと、少し不安が減ったようだ。
家と塀の間に立ち、敵を待つ。すでに、飛行している魔獣が鳥型と分かるところまで近づいている。それぞれのグリフォンの上には、全て人影がある。
あっという間に、上空から 敵が襲いかかってきた。
◇
敵の誤算は、地上だけに注意を払っていたことだろう。
遥か上空から、ワイバーンが急襲する。
あっという間に、五体のグリフォンが地上に落ちる。さすがに、竜に次ぐ飛行型魔獣と言われるワイバーンだ。
リーヴァスさんは、立っていた所から消えたと思うと、空中にいた。おそらく、塀を駆けのぼった勢いで、空中に飛んだのだろう。
一閃。魔剣が青い光を引く。二体のグリフォンの首が飛んだ。
相変わらず、恐ろしい剣の冴えだ。
ルルは、腰のポーチから、二十センチくらいのナイフを数本取りだした。
左手に束ねて持ち、右手でその一本を抜くと、さっと投げる。ナイフはクルクル回りながら、グリフォンに飛んでいく。
それは、グリフォンの目に突きささった。
「グエエッ」
グリフォンが、叫び声をあげ、空中で暴れる。
背中の人影が、地上に落ちてくる。
その敵は、くるりと宙返りすると、見事に着地した。
黒褐色の肌。やはり、ダークエルフだ。
風魔術の軌跡が、こちらに飛んでくる。
きっと、『風刃』という魔法だろう。
風魔術の刃は、点ちゃんシールドに当たり霧散した。
ダークエルフは驚いた表情をしたが、すぐに二発目、三発目の魔術を唱えた。それが、最初の魔術同様に消えたのを見ると、今度は弓を構える。
ルルのナイフが届く距離ではなさそうなので、俺が前に出る。
おそらく『風弓』だろう、矢が、風の軌跡を描きながらこちらに向かってくる。
俺は、シールドを張った掌で、それを受けた。
バシュ
矢が粉々になる。
弓を投げすてたダークエルフは、ものすごいスピードで、こちらに突進してきた。足が動いていないから、移動用の風魔術だろう。
湾曲した刀を、俺に叩きつける。俺は、つっ立ったままだ。
「ぐっ!」
彼は、腕を押さえ、刀を手から落とす。物理攻撃無効が効いたようだ。
この隙を逃すルルではない。彼女の投げナイフが、ダークエルフの両手両足に突きささる。
俺は、気を失った敵を点魔法で拘束しておいた。
振りかえると、さらに二体のグリフォンの首が落ちるところだった。
敵の半数が、戦闘力を失ったことになる。
こうなると、敵も慎重にこちらをうかがうようになった。グリフォンの乗り手は、リーヴァスさんの間合いに入らないような位置で、魔道武器を出そうとしている。
そこへワイバーンが襲いかかった。魔道具が火を噴き、それがワイバーンを直撃する。普通なら、そこでワイバーンがやられるのだろうが、彼らには点魔法のシールドがつけてある。
当然、直撃した魔法をものともせず、ワイバーンが敵に襲いかかる。
こうなると、敵はなす術もない。さらに五体のグリフォンが、地に落ちた。
すでに五体のグリフォンとそれに乗った五人の乗り手だけとなった敵は、やって来た方向に飛びさろうとした。
ところが、見えない壁のようなもの、つまりは俺のシールドに、進行方向を遮られてしまう。透明な壁にぶつかって落ちるようなことはなかったが、彼らは敵に無防備な背中を見せてしまった。
ワイバーンが、すかさず襲いかかる。あっという間に全ての敵が地上に落ちた。ワイバーンは、落ちたグリフォンを食べにかかったようだ。まあ、これは仕方がないよね。
俺たちは、ダークエルフの拘束にかかる。すでに一人拘束しているからあと十九人だ。そのうち、十七人はグリフォンが落ちた場所で動けずにいた。
残る二人は、案の定、研究者を入れた牢屋の所にいた。牢屋の横で、白目を剥いて横たわっている。
牢に触ると電撃が与えられるよう、雷属性を付与しておいたからね。
俺が、戦闘終了を念話で伝えたので、コルナが外に出てくる。
「え?
もう終わったの?」
いや、戦ってる方からしたら、それほど短いとは思わなかったけど。
コルナによると、戦闘はごく短い時間で終わったそうだ。戦闘中は、時間感覚が変わるって聞いたことがあるけど、本当だね。
俺は、二十人のダークエルフの武装を解除し、その後、隠したものがないか、点ちゃんに調べてもらった。
服の裏側に通信機器を仕込んでいる者がいたので、それは、点魔法で作った箱の中に入れておく。
いつもお読みいただきありがとうございます。
無事、史郎たちは、ダークエルフとの戦闘を切りぬけました。
さて、彼らからもたらされる情報とは?
明日へ続く。




