第150話 聖樹世界編 第17話 エルファリアのギルドにて
史郎たちは、エルフ王からの依頼を受けるため、エルファリアのギルドへ向かいます。
エルフの国にあるギルドとは?
ギルドではひと騒動あるようです。
エルフ王がギルドへの指名依頼を出したという件は、その日の内に、騎士から知らされた。
俺は連絡を受けてすぐ、リーヴァスさんと王都のギルドへ向かった。
リーヴァスさんが、十年前に王都に来た時とギルドの場所が変わったということで、案内役にパリスとロスが同行している。
王城から御者付きの馬車に乗り、木々の間を駆ける。
ギルドは、王城北側の街中にあるそうだ。
道の両脇の木々に、エルフの住宅が鈴なりになっている。球状の住宅が道沿いに高さを変えて並ぶ様はこの国だけの景観だろう。
そのうち商店は、道に近い位置、つまり低いところに並んでいるようだ。
異国情緒あふれる街並みに、ぜひ商店を見てまわりたかったが、今回はさすがに諦めた。
馬車は、球状の住宅が密集している辺りで停まった。
木の上や道の上を、様々な装いのエルフが歩いている。
王城でもそうだったが、彼らは緑色をベースに、金色や白をあしらった薄手の服を着ている。飾りや、素材が織りなす曲線は様々だ。
男性はその下に、ズボンの様なもの、女性はタイツの様なものをはいていた。
それが、すらりとした彼らにとてもよく似合っている。
俺とリーヴァスさんが、馬車から降りると、さっそく皆の注目を集めた。
おそらく人族が珍しいのだろう。
馬車の中で、ずっとリーヴァスさんに見とれていたパリスが、彼の手を取り、球状住宅の一つへ入っていく。
どうやら、そこがこの町のギルドのようだ。
入り口の両開きのドアを開け、俺とロスが中に入ると、先に入った二人の背中にぶつかりそうになった。
ギルドの中で、何か騒ぎが起きており、人垣ができていたのだ。
◇
「おい、お前ら、よく聞け。
こちらのお方こそ、黒鉄の冒険者であり、救国の英雄リーヴァス様だ」
まだ二十才前に見える若いエルフが、側にいる人族の男性を指さし、声を張りあげていた。
「この度は、恐れ多くも、その英雄が討伐の指南をして下さるというのだ。
ありがたく教えていただけ」
取りかこんでいるエルフたちがどよめく。
「黒鉄の冒険者か!
すげえな」
「救国の英雄に教えてもらえるのか?」
「おい、俺のパーティを頼む!」
「いや、俺っちの方が、高い報酬を出すからこちらを頼むぜ」
「くそー、金があったら教えを乞えるのに……」
凄い騒ぎになっている。
よく見ると、「リーヴァス」と呼ばれた人族は、髪の色や年齢は本物のリーヴァスさんと近いが、他は似ても似つかなかった。
大体、身長が百六十センチくらいしかないから、本物と較べると、二十センチは低いことになる。
そして、何より太っている。大きな太鼓腹が、ジャケットのボタンを引きちぎりそうだ。
俺の前で呆然としていたパリスが、急に笑いだした。
「あははははは」
ニセのリーヴァスを取りかこんでいた、エルフの冒険者が、ジロリとこちらを見た。
「あはははは、おかしい。
おかし過ぎて死にそう」
パリスの笑いは、止まりそうにない。
「おい!
お前、黒鉄のリーヴァス様に対して無礼だぞ」
先ほどニセモノを売りこんでいた若いエルフが、パリスに食ってかかる。
取りまいていた冒険者も、若いエルフに同調しだした。
「お前、失礼だぞ。
リーヴァス様に謝れ」
「そうだ、謝れ。
救国の英雄だぞ」
「いったい、どこのどいつだ?」
パリスの笑いが余計にひどくなったので、しょうがないから、俺が前に出た。
「えーと、自己紹介してもいいかな」
「お前、人族だな。
この礼儀知らずの知り合いか?」
「あー、リーヴァス様、実はあなたにご紹介したい方がいるのですよ」
太った人族の男が、ギョッとした風にこちらを見る。
俺が、リーヴァスさんを彼の前に連れていく。
さすがにリーヴァスさんも、苦笑いしている。
「えー、こちらの方が、リーヴァスさんをよくご存じの方です」
太っちょの顔が青くなる。
「では、自己紹介してもらいましょうか」
俺の声に、太っちょが、声を震わせて答えた。
「お、俺がリーヴァスだ。
黒鉄の冒険者だ」
「ほう、そうですか。
私も、自己紹介すべきですかな」
「ああ、言ってみな」
「リーヴァスと申します」
「えっ?」
「私は、リーヴァスです」
「ええっ?」
冒険者が、騒ぎだす。
「どういうことだ!
なんでリーヴァス様が、二人いる!?」
危険を感じてこそこそ逃げだそうとした、先ほどの若いエルフが、冒険者に取りかこまれる。
「おい!
こりゃどういうことだ」
「い、いえ、あの、そのー」
騒ぎを聞きつけたのだろう。ギルドの奥から三人のエルフが出てくる。
若い女性、壮年の男性、白髪の老人だ。
「この騒ぎは何じゃ?」
老人が、輪の中に入ってくる。
「あ!
貴方は!」
リーヴァスさんに気がついたようだ。
三人とも、彼に向け、深くお辞儀をした。
「お久しぶりです、リーヴァス様」
「ロデス殿も、お変わりないな」
二人が、握手している。
壮年の男性が、膝をついて礼をする。
「リーヴァス様、あの折は命を救っていただき、ありがとうございました」
「おお、マーシュか。
久しぶりだな。
元気そうで何よりだ」
「初めてお目にかかります。
メリーナと申します。
よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく頼むよ」
この辺りで、冒険者たちは、自分が騙されていたと気づいた。
「てめえ、リーヴァス様を騙ったな。
こいつらを縛りあげろ!」
若いエルフと太った偽リーヴァスは、あっという間にロープでぐるぐる巻きにされてしまった。
「ロデス殿、この場は、私に免じてこの者を許してはもらえぬか」
「リーヴァス様が、そうおっしゃられるのでしたら。
本来、ギルド章を取りあげ、二度とギルドで仕事ができぬよう、回状を送るところですが」
「はぁ、はぁ。
ああ、おかしかった」
やっと笑いやんだパリスを、ロスがたしなめる。
「お前、ちょっと笑いすぎ」
「でも、これはしょうがないでしょ」
パリスが太ったニセモノを指さし、また吹きだしている。
太っちょさん、気の毒すぎる。
「リーヴァス様、指名依頼の件ですな。
どうぞこちらに」
パリスとロスは後に残し、リーヴァスさんと俺だけが奥の応接室に入った。
◇
応接室は十畳ほどで、それほど広くはないが、壁は上品な茶色の織布で覆ってあり、床はエメラルド色をした苔のようなものが敷いてある。
ソファーはオフホワイトで、床に近い低さだ。
何より、座り心地が抜群にいい。
くつろぎ空間の参考にしたいな。
俺がそんなことを考えている間に、リーヴァスさんは指名依頼を受けていた。
ギルマスのロデスがちょうど尋ねるところだった。
「パーティ名は、『セイレン』でしたかな」
「ああ、今回は、『ポンポコリン』ですよ」
ああ、来ちゃったよ、この瞬間。やっぱり、笑われるんだろうなあ。
「えっ!
あの『ポンポコリン』ですか!?
アルカデミアで獣人を開放した、伝説のパーティに所属されているとは、さすがリーヴァス様です」
マーシュと呼ばれた壮年のエルフが、顔を輝かせ質問する。
「もしかして、リーヴァス様も現地でご活躍を?」
「いえ、あの件に、私は参加しておりませんよ。
こちらのシローが解決しました。
『ポンポコリン』のリーダーも彼ですよ」
ギルマスとマーシュが、信じられないといった風にこちらを見ている。
ええ、どうせ俺は冴えない顔してますよ。オーラもありませんよ。
「彼も、黒鉄の冒険者ですからな」
「あっ!
シローって言ったら、獣人国の紛争を解決した冒険者ですね。
そういえば、あの件にも『ポンポコリン』が関わっていましたよね」
ギルドの情報網は侮れないな。二人が俺を見る目が急に変わる。
まあ、いいですけどね。慣れてますから。
俺は、受付のメリーナさんに、部屋にある調度の入手法を訪ね、それを点ちゃんノートに記録した。
「さすがですね。
こんなことまで依頼の参考にするなんて」
彼女に感心されたが、もちろん、単なるくつろぎ狙いだ。
ギルドでパリスたちと別れ、俺達四人は馬車で城への道を戻っていた。
なぜ、四人かって?
リーヴァスさんが、ニセモノ騒動の二人を連れてきたからだ。
あのまま放置したら、袋叩きの目に遭ったろうからね。
太った人族の男性はデロリン。若いエルフの男性はチョイスという名だった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
デロリンとチョイスが登場。
書いていて楽しい話でした。
では、次回、いよいよパーティ・ポンポコリンは、謎の『西の島』へ向け出発します。
では、明日につづく。




