第18話 獣人救出計画始動
史郎の獣人解放作戦の最初の一手は?
「ボクに首輪を付けたのは、この人です!」
テコは、俺が助けた女性をまっ直ぐ指さした。
俺は、女性に話しかける。
「本当ですか?」
「……」
答えられないということは、事実なのだろう。これで、少なくとも三人の人族が、猿人の後ろにいたことが分かった。
これまでの情報を合わせると、『賢人会』主導で、組織的に獣人の略取が行われていたことになる。
俺は、すぐダンと
連絡を取った。彼は、危険を冒して、またこちらの住居までやって来た。
「秘密施設まで見つけたのはすごいが、救助のためとはいえ、嗅ぎまわっている誰かがいると、気づかれたのはまずかったな」
ダンは、渋い顔だ。
「今のところは、彼女が施設内に隠れていると思われているようだけどね。
まあ、逃げたと気づかれるのも、時間の問題だろう」
「ということは、計画は早めるべきだな。
青写真は、もうできているんだろう?」
「ああ、やっと最後の欠片が揃ったところだ」
「よし、じゃあ聞かせてくれ」
俺は、ダンに獣人開放計画を話して聞かせた。
◇
パルチザンの参加が決まり、いよいよ計画が本格的に動き出した。
この計画には、大きく分けて、四つの柱がある。
その四つとは、俺の行動、加藤の行動、獣人たちの協力、パルチザンの協力だ。
まず、まっ先に行動を起こしたのは、加藤だ。
加藤は学園に行き、彼をイジメていた三人を探し、その前に立った。
彼らはローブの色が、赤とオレンジから、オレンジと茶色に降格していた。
当然のように、加藤に恨み言をぶつけてきた。
「おい、カトゥー!」
オレンジローブの男子が、突っかかってきた。
加藤は、史郎が言った通りに事が運ぶので、驚いていた。
「お前のせいで、降格されたんだぞっ!」
「お前のせいだ!」
「責任取れよ!」
口々に騒ぎたてる。
これまで繰りかえしてきたように、オレンジローブが、加藤の背中を蹴ろうとした。しかし、彼の足は加藤の背中に、当たらなかった。
そのとき、加藤は既に、オレンジの後ろにいた。
オレンジの背中に軽く足を添える。
すっと押すと、オレンジローブが、ものすごい勢いで吹っとんだ。
飛んでいった先にあった、中庭の植えこみに突っこみ止まる。枝による擦り傷で、顔がひどいことになっている。
ほぼ同時に、茶ローブの二人が加藤に掛かっていったが、同様の結果に終わった。
やっと立ちあがった、オレンジが叫ぶ。
「貴様、覚悟はできてるんだろうな!
ボクの父さんは、研究者なんだぞ!」
「そうだぞ!」
「お前なんか、学園を追いだされちゃえ!」
とてもうるさい。
周囲は、騒ぎを聞きつけて集まってきた生徒たちで、埋めつくされている。
加藤は、おもむろに、両手をパンと合わせた。
それを合図に、加藤の髪が、茶色から黒色にさっと変わる。
今まで、ざわついていた周囲の生徒がシーンとなる。
「く、黒髪!?」
三人の顔が青くなる。
「た、ただ黒髪なだけだろ!」
オレンジが叫ぶが、集まった生徒たちは、彼の言葉など聞いていなかった。
「黒髪!
素敵ーっ!」
「ボクたちのクラブに入らないか?」
「サイン下さーい!」
少年少女が、加藤をとり囲む。
「勇者でもないのに、大きな顔するな!」
オレンジがそう言った時、強い風が吹いて、少女のスカーフが空高く舞いあがった。
ばっ
加藤はジャンプすると、空中でさっとそのスカーフを掴み、五階建ての校舎、その屋上に立つ。そのまま、ひょいと屋上から飛びおりる。
彼は音も立てず、地上に降りたった。
「「「ワー!!」」」
先ほどまで取りかこんでいた生徒たちが、また、どっと加藤の周りに押しよせる。
驚きから立ちつくしていたオレンジと茶のローブが、突きとばされ、踏みつけられている。
騒ぎを聞きつけ、何人かの教師が中庭へ出てくる。
「この騒ぎは、いったいなんだ?」
「先生!
黒髪の勇者様です!」
「えっ!?」
予想外の答えに、教師が言葉を失う。
生徒たちがつくる輪の中心には、確かに黒髪の少年がいる。
しかも、彼はこの学園のローブを着ているではないか。
「生徒に黒髪の勇者が!?」
教師は、すぐシートを取りだし、勇者の存在を学長に報告した。
◇
「ようこそ、トリビーナ学園へ」
学長室では、ターランが加藤を歓迎していた。
「しかし、勇者様が、我が学園に在籍しておられるとは……」
ターランは、加藤の右手を両手で包みこみ、腰を曲げている。
「気づくのが遅れ、誠に失礼いたしました」
「いや、こちらにも、いろいろ事情がありましたから」
「どうか、このまま我が学園にご在籍下さい!」
「はあ、とりあえず、そのつもりです」
「ありがとうございます!」
ターランは、揉み手せんばかりだ。
「そうそう。
このことは、中央政府にも知らせてよろしいですか?」
「ああ、そうですね。
まあ、構いませんよ」
加藤は、史郎と決めてあったセリフを言った。
「今、どちらにお住まいで?」
「えー、やや遠方の小さな宿ですが」
「おお、それなら、学園の特別室を用意いたしますゆえ、どうぞ、そちらにご滞在ください!」
「それは……ありがとうございます」
「後程、歓迎の宴を開きます。
それまでは、どうぞ、お部屋でおくつろぎを。
スーシェ先生」
「はい、学長」
「勇者様を、ご案内さしあげて」
「はい、承りました。」
加藤は、スーシェに連れられ、特別室が並ぶ区画まで来た。
「どうぞ、お入りください」
加藤は、思わず笑いだしそうになった。 なぜなら、その部屋が、史郎の待機部屋『タイタニック』に、そっくりだったからだ。
しかも、何と、『タイタニック』の隣部屋だった。
今、隣の部屋には、自分と念話のチャンネルを開いた史郎がいるはずだ。
「それでは、お部屋の説明を……」
「ああ、今は、いいですから」
「え?
そうですか。
では、また改めてご説明に上がります」
「ありがとうございます」
「勇者様のクラスは、今日から最上級となります。
私が、担任です。
よろしくお願いします」
「ああ、ありがとう」
スーシェが出ていって少しすると、加藤は隣の部屋のドアをノックした。
「どうぞ」
加藤が『タイタニック』へ入ると、やはり、史郎がいた。
◇
「隣部屋になったときは、ホントびっくりしたぞ」
俺は笑いながら、そう言った。
「しかし、はるばる異世界まで来て、また同級生になるとはな」
加藤も笑っている。
俺たち二人は、転移する前、高校のクラスメートだったからね。
「部屋の方は、どうだ?」
「ああ、ここと同じだから、勝手知った感じだな」
「そりゃ、良かった。
それに、今後連絡しやすいから助かるな」
「まあ、そりゃそうだ」
「予想通り、政府関係者が食いつけばいいが」
「自信ないのか?」
「いや、まず、大丈夫だろう。
プライドの高いヤツが、黒髪の勇者と接触しないなんて考えられない」
「まあ、お前が言うんならそうだろうよ。
で、この後、俺は何をすればいい?」
「加藤は、とりあえず普通に学園生活を送ってくれ。
次に活躍してもらうのは、政府関係者に会う時だな」
「その後は?」
「きっと『賢人会』が出張ってくるはずだから、そこが正念場だ」
「分かった」
「じゃ、明日からよろしく頼むよ、同級生」
「ははは、本当に同級生だから、冗談にならないな」
俺と加藤は、束の間のおしゃべりを楽しんだ。
いつもお読みいただきありがとうございます。
今回も、モブキャラとして出てきたオレンジローブ、茶色ローブは名前すら出してもらえませんでした。
女王畑山に叱られないうちに、作者は失礼します。
では、明日につづく。




