第14話 最後の一かけら
獣人解放計画には、なにか足りないようです。
俺は、自分が組み上げた獣人解放計画の青写真を、再三チェックしていた。
悪くない計画だが、何かが足りない。その何かが、はっきりしないのが問題だった。このまま実行すれば、中途半端に終わる恐れがある。
そして、それは、『賢人会』から付けこまれる余地があることを意味していた。
しかし、このまま手をこまねいていても、事態が悪くなるばかりだ。どこかで実行に踏みきる必要がある。
俺は、この段階で、計画の青写真をパルチザンのダンに見せることにした。
どうせ彼らは、こちらの計画を見てから参加を決めるわけだから、現地に明るいからこそ出てくるアイデアも期待できた。
寮から、この住居へ住まいを移した加藤が、奥から出てくる。
「ふぁ~、こう動かないと、体が鈍っちまうな」
「そのうち、嫌というほど働かせてやるさ」
「おいおい、ほどほどにしてくれよ」
「まあ、どうなるかは、状況次第だ。
ああ、そうだ。
加藤、ダンからこれ預かってるぞ」
俺は、点ちゃん収納から、シリンダーを取りだした。
中には、薄いピンク色の液体が入っている。
「ああ、悪いな」
加藤は、シリンダーを開けて、中を確かめている。
「ああ、そういえば、お前は計画の中で黒髪ってことになってるから、それ、今は使わないでおいてくれ」
「ん?
どういうこと?」
「お前には、黒髪の勇者をやってもらう」
「え?
そのままだが……」
「お前、演技とかできないだろう。
だから、素のままで行ける役割を考えたんだぞ」
「うーん、感謝していいのか、どうなのか」
加藤が、頭をひねっている。
「ははは、難しく考えるな。
普通にしとけばいいぞ」
「まあ、それならいいが。
今更、勇者に戻らないといけないとはな」
そこに、外から帰ってきたミミが通りかかった。
「今日は、『タイタニック料理』無いの?」
みんなに『タイタニック』の話をしたら、そこの料理に、変な名前が付いてしまった。
「休日まで学園に行ったりしないよ」
そこで俺は、ミミが普段しない行動を取っているのに気づいた。
加藤の体を、クンクン嗅いでいるのだ。
「ミミ、何してるの?」
「ポルの匂いがする」
「あー、加藤。
ポルと抱きあったりしたか?」
「誰がするか!
ポルは、男の子だぞ」
「まあ、でも、それもあり得ると思ってな」
「いい加減にしろ!
怒るぞ!」
ミミは、加藤が持っている、髪染めの液体を嗅いでいる。
「ポルの匂いがするのは、これみたい」
「ポルの匂いって、どんな匂いだ?」
「う~ん、なんて言ったらいいかな。
お日様に干した布団のような、と言ったらいいのかな」
「あいつ、髪染めと同じ匂いがすると知ったら悲しむな」
「でも、少しだけ、違う匂いもするのよね」
ミミは、考えこんでいる。
俺は面白くなって、コルナも呼ぶことにした。
念話で話すと、コルナが部屋から出てくる。
「コルナ、この液体からポルの匂いがするらしいんだけど、君も嗅いでみてくれないか」
「また、お兄ちゃんは。
こんなことのために、ウチを呼んだの?」
不満を言いながら、それでも容器を嗅いでくれた。
「ああ、確かにポルっぽい匂いがするわね」
「でしょ。
正確にいうと、ポルが汗をかいたときの匂いね」
さすが、獣人。人族では、ありえないほど鼻が利く。
「そう言われてみれば、確かにポルの匂いだね」
ああ、そうだ。一番頼りになる存在を忘れてたぞ。
「ミミ、ポルとテコを呼んできてくれ」
「テコは、お昼寝中で、ポルもそれに付きあってるよ」
「構わない。
とにかく起こしてきてくれ」
奥から、欠伸をしながら、ポルがやってくる。彼に手を引かれているテコは、寝ぼけまなこだ。
「テコ、これ嗅いで。
何の匂いがするか当ててごらん」
俺が言うと、テコは目を擦りながら、シリンダーに鼻を近づけた。その瞬間、彼は、ビクッとして動かなくなった。尻尾が、太くなっている。
「こ、これはなに?」
「髪を染めるための液体だよ」
「なんで、血の匂いがするの?」
「えっ!?
ポルの匂いじゃないのか、テコ?」
「ポルさんの匂いと、血の匂いが混ざってるよ」
一体、どういうことだ。もしかすると……。
俺の勘が正しければ、これが計画にとって最後の一かけらになるかもしれない。
加藤からシリンダーを取りあげ、天井の明かりに透かして見る。
俺の思惑とは関係なく、物言わぬ液体は、ガラス越しに静かに揺蕩っていた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
獣人が持つ嗅覚の鋭さが発揮されるお話でした。
次回、いよいよ史郎が賢人会を追いかけます。
では、明日へつづく。




