事始め
あるところに母と娘の瓜二つな親子がいました。
いつも2人をよく見ている人じゃないとその区別はつかないほどだったのです。
多分、センター試験を替え玉受験してもバレないんじゃないかと思われる二人でした。
ある時、娘の愛梨が学校に行きたいのに、風邪をひいて寝込んでしまいました。
中学三年の冬、受験期のことでした。
娘は、推薦で合格勝ち得ていましたが、休んでしまうとその 無遅刻無欠席の信頼が無くなってしまうと思い、無理も承知で母に頼んだのです。
「ねぇ、お母さん。私、風邪ひいちゃった。代わりに学校行ってくれない?」愛梨が母の亜梨沙に言った。
「愛梨、行きたいところだけど、私も若くないのよ。もう35歳だよ。」亜梨沙は当然断った。
「でも、お母さん。給食費、無駄になっちゃうよ。それに今日、調理実習で休めないの。だから、お願い。」
「う、うん。もう仕方無いなぁ。分かった。今日だけよ。」 亜梨沙は渋々承知した。娘の悩みは嫌でも断れないのが、親というものである。
母は塾講師であり、頭は良かった。きっと、今日もうまい事やってくれるだろう。そう彼女は思っていた。
亜梨沙は、洗面所の前の鏡で娘のセーラー服を着る。
娘のセーラー服からは若い純潔な乙女の匂いがする。二十年前は自分もこうだったんだなと思うと大分歳を重ねたなと思う。
父や母にそう言うと随分ませた事を言うと言われそうだけど。
黒いタイツを履いて、その後にスカートを履く、ところで一つ気になったことがあった。
「愛梨、スカート折るの?」亜梨沙は大声で呼んだ。
「2回折って。」愛梨は無理したようで咳込んでいた。
「わかった。ルル飲んでゆっくり休むのよ。お母さん。」何せ、セーラー服を着た事は無い訳では無いが、娘とはいえ他人の服だからな。念入りな確認が必要である。
「お母さん?私は愛梨だよ。」
愛梨が変だと疑いながら返事する。
「今は私が愛梨なのよ。制服を着ているから。」
亜梨沙は、そう言った。
「そういう事ね。お母さん。いや、愛梨頼んだわよ。今日も頑張って勉学に励むのよ。」愛梨は納得して、亜梨沙に言った。
「分かった。今日も頑張るよ。」亜梨沙はいつもの口癖を、娘の愛梨に言われて照れながら返事をした。
上着を着て、セーラーカラーを上にあげ、スカーフをつける。ここが一番難しいんだよな。ネクタイが出来ない人がいるように、この作業も左右対称にするのは難しい。
何とか済ませて、ハイソックスを履き、鏡を改めて見る。
そこには嘗ての自分が蘇った気がした。
「私って…まだ若いのね。ああ。若いって素晴らしいわ!」
余りにも興奮して発狂してしまった。