射幸心
気分悪くなられたらそこで読むの終わりにしていいですからね。
好きなだけ笑ってやってください。
「どうやら、ギャンブル依存症のようですね。お薬を処方しておきますので、決められた時間に飲んでください」
最近、金をよく浪費してしまうと思っていたら、そういうことだったのか。確かに近所のパチンコ店に入り浸っていた気がする。
しかしギャンブルというのはいい。たとえ一山当てる可能性がいくら少なくとも、当たる可能性はある。そして当たったときの快感、幸せ。またその次も射幸心を煽られ入り浸る。つまりその無限ループ。
そんな根性のない俺に比べて、最近はとても医学が進歩した。今じゃあ、薬一つでなにもかもが解決してしまう。魔法の道具のようだ。俺のような依存症も薬で治せる、もちろんどんな難病でも治せてしまう。しかし逆にいうと人を錯乱させたり、狂わせることもできるのである。
ある日、薬を飲んでから散歩に出かけた。しかしギャンブルをしたいという欲求はおさまらない。もういっそのことパチンコをしてしまおうか。そう思い、店に足を踏み入れた。
あぁ、なんでだろう。この台は当たらない。隣の台に移ってみても変わらない。以前よりも苛々する。
なんでこんなに当らないんだろうか。なぜ俺にだけ運命の神様は振り向いてくれないのだろうか。
確か、店中の台の確率を管理している人って店長じゃなかったっけ。店長のいるところはどこだ。どこなんだ。
スタッフルーム…ここかな。
「おい店長!どこにいる!!」
そう叫ぶと、惰弱そうなおどおどした男が店員の間から顔をのぞかせた。
「は、はい。私です」
弱弱しく返事をした。
「お前だな!店中の台の確率を操作しているのは!俺の台を当たりやすくしろ!」
俺は無我夢中に、周りなど気にせず最上級の大声で叫んだ。
「無理ですね。ギャンブルというのはその時の運。本日は運がなかったということで、失礼いたします」
店長は冷静に切り返した。
「そんなのないだろ!?それじゃあ…」
俺は不敵な笑みを浮かべながら、一人の女性店員のもとへ近づいた。その店員の白い首筋に鈍く、鋭い刃を当てた。
途端に女性店員は泣き出した。すると店長が
「そんなのいけませんよ!くそう…やはりこんなことをする奴は卑怯な奴らばかりなのか…」
とぼやきながら悔しがっている。俺はそんな店長をみて嘲笑した。そして
「さようなら」
と一言残して、鈍く光る、鋭い刃を店長の腹にめがけて刺した。
翌朝、ある部屋のベッドで目が覚めた。壁の色や雰囲気から察するに病院であろうか。何が起きているのかわからない。とりあえず手元にある新聞を読んでみる。見出しは
『パチンコ店で殺人?!』
となっている。やはり昨日、やってしまっていたんだ。夢じゃないんだ。俺はもう立派な罪人だ。…でも。どうして病院にいるのだろうか。思考を巡らせていると、新聞からこんな文を見つけた。
『男は店長を殺した後、自殺未遂を図った疑いがある。警察はそのことについて事情聴取を進める様子』
という文。おかしい、そんなことした覚えがない。
一体全体どういうことだ。とりあえず病室にあるテレビをつけてニュースを見てみる。するとちょうど、記者会見が流れていた。
「まことに申し訳ありませんでした。ギャンブル依存症の男性に殺意を煽る薬を渡したのは私です。あ、あのギャンブルよりわ、悪いことをしたら、め、目が覚めるかと思って、こ、この薬を渡しました。一種の実験のような意味合いで渡しました。ま、まことに申し訳ありませんでした。」
あまりのくだらなさにテレビを切った。なるほどそういうことだったのか。そうなるとこんな大罪を犯したというのに、豚箱に放られないというわけか。とても複雑な心境だ。
みなさんもギャンブルはほどほどに。
それでは、さようなら。