3-2. エルフ・クイーン
「ここまでわざわざ来ていただき、ありがとうございます」
そこにいたのは荘厳な雰囲気を放つエルフだった。ただのエルフではないようだったが、それは誰にでも理解できたようだった。そのエルフは背中まで薄緑の長い髪を伸ばしていて、どこか穏やかな目をしている。
エルフの女性はイヴァンを見て、微笑む。
「あなたが伝説の勇者に選ばれた存在ですね。私としても初めて出会えて嬉しいですよ。ずっと待っていて……ずっと待っていてよかった」
「ちょっと待ってください」
エルフの言葉を制したのはレミリアだった。レミリアはずっと解らなかったことがある。この村に入ってエルフが言っていること――イヴァンを『勇者』と呼んでいることだ。それが気になって仕方がないのだ。
「どうかしましたか?」
「どうしてイヴァンを勇者と知っているのか、それが気になって……」
「それは私から伝えましょう。先ずは、その前に私の名前を言いましょう。私の名前は、エルフ・クイーンと言われています」
「エルフ・クイーン……」
レミリアはエルフ・クイーンの言葉を反芻する。
エルフ・クイーンは頷く。
「理解できないのも無理はありません。ですがあなたたちはこれから大きな課題に取り組むこととなります。その課題をクリア出来ない場合、世界に関わります」
唐突に。
声のトーンが変わった。いや、空気が重くなったと言ってもいい。
「私は初代の予言の勇者が姿を見せ、武器を授けたひとりのエルフです。それから……七百年以上の月日が経ちました。かつてはこの大森林に我々は住んでいませんでした。それはメタモルフォーズが原因でした……。そして、それを救ってくれたのも予言の勇者。そして、勇者は再び姿を現した。私は、私たちは勇者の道を示す必要があります」
「ちょっと待って。それってつまり……、いや! やっぱり……イヴァンは勇者だということなの?」
エルフ・クイーンは頷く。立ち上がると、ゆっくりとイヴァンに近づいた。彼女は最初敵対心を示していた。
しかし、エルフ・クイーンが微笑むと自然と彼女から敵対心が消滅した。
「大丈夫……。大丈夫よ、私はあなたの味方。だから落ち着いて……。心を楽にして……」
イヴァンは泣いていた。
その涙の理由を知っているのは彼女自身とシスター・レミリアだけだった。
レミリアは彼女に何があったかを一番知っている。最初から知っているわけでもないが、少なくとも旅をしているメンバーの中では一番知っていた。
だから彼女の涙の理由を痛いほど解っていた。彼女が赦された――と言ってもいい。果たして何の罪を赦されたのかは解らない。
ただ、この地が彼女にとって数少ない安寧の地であることは、誰にも理解できることだった。




