3-1. 村
しばらく歩いていると、道が開けてきた。
それを見て彼女たちは最初、森を抜けたかと思った。しかし、実際は大きく違った結果だった。
「村……?」
そこにあったのは木造の家が幾つか並んでいて、その中心に井戸があった――それが村であることは一目瞭然だった。
しかしながら、そこに居るのは人間ではなかった。人間に近い風貌をしているが、耳が尖っていることや皆が緑色の髪をしていることから、人間とは違うということが解る。
レミリアはそれがなんだか解って、呟いた。
「まさか……妖精?」
妖精。
人間に加護を与えることで知られる伝説の存在だ。かつては人間と妖精が肩を寄り添い合って暮らしていたケースもあったらしいが、それも今は昔。そんなことなど無くなってしまっている。とても、残念な今である。
だからこそ、妖精を見る機会などそう存在しないから――彼女たちは妖精を見て、目を輝かせていた。
それを見て、レミリアは呟く。
「なんというか子供というか……」
ちなみにレミリアは十六歳。この中では一番お姉さんではあるのだが、彼女もまだまだ子供という年齢に入る。
まあ、そんなことは案外どうだっていいのだが。
「ようこそおいでくださいました」
そんな時だった。
妖精のひとりがイヴァンに向けて、こう言ったのだ。
イヴァンしか見ていない。或いはイヴァンしか見えていないのか、そんな感じであった。よく見られてイヴァン以外のメンバーはイヴァンの付き添いとしか思っていないのかもしれない。
妖精は目を細めて、言った。
「私の名前はイグレックといいます。以後お見知りおきを、勇者様」
今、なんといった?
レミリアはイグレックと名乗った妖精が言った言葉に耳を疑った。
今、イグレックはイヴァンのことをこう言った。
――勇者様。
その言葉の意味を、レミリアは知らないわけではない。
勇者という言葉は、勇者という単語は、この世界で永世に語り継がれる、伝説の存在だ。勇者が現れるときは決まって世界に悲劇が訪れるとき。
即ち、もうすぐ世界に悲劇が訪れるとでもいうのだろうか?
即ち、イヴァンはここに来るべきして来た存在であるというのだろうか?
「……あなたたちを、案内しましょう。我々妖精の王――クイーン・アルヴのもとへ」
その言葉を聞いて、レミリアたちは頷くことしかできなかった。
◇◇◇
森林の中で一番大きな樹。
エルフ・ツリーと言われる、その巨木の中にある階段を彼女たちは登っていた。それだけを言われるとどういうことなのかさっぱり解らないだろうが、エルフ・ツリーの内部は伽藍洞になっていて、階段が天まで伸びているのだ。
「……まさか樹の中を階段で登ることになるなんて……思いもしなかった」
レミリアは呟く。
「なあ、レミリア。……あのイグレックとかいうエルフ、信じていいのか?」
その言葉を聞いてレミリアは耳をそばだてる。
「信じていいのか、って。どういうこと?」
「そのままの意味だよ。あのエルフ……どうも怪しい。何か隠しているんじゃないか……そう思えてならないね」
「まさか。あなたは盗賊だったから人を疑う
癖がついている。それだけのことじゃないの?」
「うーむ……そうだったらいいんだけどなあ」
そう言いながら、なんとかエルールは納得してくれたらしく、元の場所へ戻る。
階段の終点は、もうすぐそこまで迫っている。




