3-0. 妖精の森
妖精という存在を聞いたことはないだろうか。この世界にすむ、人間ではないカテゴリに属する存在の一つだ。
妖精は空気の静かで綺麗な森に住む。だから妖精が見つけられた森の周りには、呼吸器に病気を患った人間がやって来るのだ。新鮮な空気を吸うことで、病気を克服することが出来る。
また、一説には妖精は勇者に力を分け与えるという。かつてこの世界に闇が訪れた時、三人の人間に剣、弓、杖を授けたのもまた、妖精であった。それほどに妖精は人々の語られる昔話に登場しているのだ。
では、そんな場所があるのだろうか。
妖精が住んでいる場所が。
北にあるエルファス大森林。そこにはまだ妖精の伝説が噂されていて、様々な人間がその場所を訪れる。
しかしながら。
そこにやって来る人間は心が清らかな者ばかりではない――そんな悲しい言葉も伝わっている。
◇◇◇
レミリアたちはレスポークを後にして一路西に向かっていた。というのも船を手に入れるためだ。
エルールが神国教会に一矢報いたいなどと言っているものの、実際のところは船がなければ神国教会の総本山がある『マホロバ』に辿り着くことは出来ない。
だからこそ彼女立ちは船を手に入れるため、港町であり船大工の町でもあるエルファスへと向かっているのだ。
「やっぱりこの森がネックよねぇ……」
そう言ってレミリアは頭を掻いた。
「どういうことだレミリア。さっさといける一番近いルートと教えてくれたのはあんたじゃないか」
「そうなんだけどね……これを見てよ」
そう言ってレミリアは地図上のある一点を指差す。正確にはそこは一つの何かの塊だった。エルファスの町を取り囲むように、巨大な何かが形成されている。
「これってエルファス大森林か? 別にそこまで気にする問題じゃないよーな……」
どうやらエルールはレミリアが考えている『不安要素』の存在に気がついていないらしい。
レミリアは溜め息一つついて、話を続けた。
「エルファス大森林って変な噂ばかり流れているのよね。妖精が居る森だから、そういうファンタジーな話が絶えないのかもしれない」
若干メタな発言をしたところで、レミリアは咳払いを一つ。
「まぁ、神隠しがあったりだとか謎の人間がやって来て森の奥にある井戸に放り込んだ……だから行方不明になる人間もそれなりに多いんじゃないかな」
「……そんな場所を、通らざるを得ないのか」
「だってエルファスを陸路で向かうには森を抜けなくてはいけない。海なら楽にいくことも出来るかもしれないけど、生憎定期船がない。だったら陸路でいった方が手っ取り早いのよ」
「エルファス大森林……ここを避けては通れない、ってわけね……」
そう呟く。
彼女たちの目の前に、巨大な森が見えてきたのは、それと同じタイミングのことだった。
『エルファス大森林 入口』と書かれた古い札を見て、彼女たちはエルファス大森林に突入した。
森の中はまさに異世界ともいえるような空間が広がっていた。木が生い茂っていて、葉が太陽の光をブロックするためか、森の中は常に暗い。
「なんというか……不気味ね……」
とはいったものの彼女たちが持つ唯一の光源はレスポークで購入した松明だけである。
「なんというか……心もとないけど、仕方ないよね……」
レミリアは独りごちりながら松明の炎を見る。松明の炎は儚げに燃えていた。今ここで強い一陣の風が吹いてしまえば消えてしまいそうな感じだった。




