2-22. 再戦、ウルフタワー
グレーフォックスとレミリア、イヴァンはウルフタワーへとやってきた。もちろん、イヴァン以外は何度もきたことのある場所だ。ここがいうなれば、『ループ条件』。ここを打破しない限り、レミリアは永遠の迷路にとらわれることとなる。
「……おや、予定よりも早かったね」
声が聞こえた。
そして、直ぐに何かが聞こえてきた。それが槍が空気を切り裂く音であることに気がついたのは、それを一度聞いたレミリアだけだった。
「避けて!!」
それを聞いたイヴァンとグレーフォックスは後退る。それと同時に、ちょうどエルールが立っていたあたりに槍が突き刺さった。
その槍はとても立派な槍だった。突き刺さればひとたまりもないだろう。……そう、あの時のレミリアたちみたいに。
「ヒュウ! まさか避けるなんて、思いもしなかったよ」
男は口笛を吹いてそういったが、なおも余裕の表情。
そう。このまま守りに徹していても何も変わらない。最低でもあの少年を倒さねばならないのだ。
「あいつを倒せば、いいのか?」
彼女の心の声を聞いていたかのようにエルールは訊ねる。
レミリアは若干ぎこちなかったが、その言葉に頷く。
「……ということは、あれが、あれが何かしたとでもいうのか? 僕の……父さんを殺したとでも言うのか?」
「父さん……、ああ、君はリムファス・ゴルールの『娘』だったかぁ!!」
そこで。
レミリアが予想だにしない展開が訪れた。いつも通りの展開ならばどこかで『彼女』が自らの性別を吐露するのだが、今回はあの少年によって、いわば暴露されてしまったのだ。
それを聞いたエルールは少年を睨みつける。
「……なぜそれを知っている!」
「なぜ、って。簡単なことだよぉ」
くすり、と少年は笑みを浮かべる。それは愉悦の表情といっても過言ではない。この状況を楽しんでいるのだ。
「だって、君の父親を殺すよう命じたのは……僕ら神国教会。そして僕が、その時のリーダーだったからねぇ!!」
ブチン、と。
彼女の中で何かが弾ける音がした。
「……なるほど」
エルールは呟くと、腰についてある小さなバッグから何かを取り出した。
ナイフのようにも見えるが持ち手がとても小さく、普通に持つことのできる代物ではない。
そしてそれを見たレミリアはそれがなんであるかしっていた。
クナイ。
両方に刃がついた道具だ。もともとはニンジャが用いるものとして有名だが、盗賊である彼女が使うのも、まあ、理解出来る。
クナイを両手に構えた彼女は、紛うことなきニンジャだった。口をスカーフで見えないようにしていて、その眼光は鋭い。
「クナイ、か……。それをしてどうするつもりだい? 別にここまで登ることは出来ないだろう?」
彼女は構えを取る。ちょうど今から走り出すかのように。
だが、その方角はビルに向かっていた。
そして彼女はビルめがけて走り出した。
「何をする気だ、エルール!!」
「止めるな、レミリア! これは私とあいつの戦いだ!!」
叫んで、エルールはビルの目の前に到着した。だが、彼女は立ち止まることなく、そのまま跳躍した。
そして壁にしがみつくとそのまま駆け出す。それには少年も目を丸くした。
「……ほう、カベバシリねえ。まさかそんな能力を持つ盗賊がいたとは、驚きだ!」
まだ彼には余裕があるらしい。余裕の表情は崩れない。
しかし。
彼女はもう、屋上まで登りきっていた。
少年の首にクナイを突き立てる。
「動かないで」
少年はそれを聞いて、俯く。
「あーあ、うまくいったと思ったのになあ。まっさかここまで強い人間が出てくるなんて、きっと上も驚きだろうね」
少年はこんな状況であるにもかかわらず話すことをやめない。何かするのではないか――とレミリアもエルールも思っていたが、少年が何かをする様子も見えなかった。




