2-21. もう、迷わない。
「ねえ、レミリア」
レミリアはイヴァンの言葉を聞いて目を覚ました。――正確には意識を取り戻した、といったほうが正しいかもしれない。
「……どうしたの、イヴァン?」
「どうしたじゃないよ、レミリア。急に何も聞こえなくなるんだもの。まるで石になったみたいに。まるで冷たくなって、死んでしまったみたいに」
イヴァンの言葉は間違いではない。現に彼女は何度も、何百回も死んでいて、この時間を繰り返しているのだから。
彼女は、もう迷わない。
迷わずに、あの子を――エルールを救うのだ、と。心に誓った。
◇◇◇
自由の街レスポーク。
もう数えるのもしたくないくらい、彼女はこの街にやってきていた。
そして、彼女は一目散に『その場所』へと向かった。
「ねえ、レミリア。どこへ行くの?」
「あなたみたいに、あなたみたいに……悲しい現実を過ごす少女を守るため。彼女を救うためよ」
それだけしか彼女は言わなかった。イヴァンは彼女が何を言っているのか、理解することはできなかった。
グレーフォックスのアジトに着いた時にはもう日が暮れかけていた。
躊躇うことなく彼女はその中に入る。
「何もんだ」
直ぐに声が聞こえた。そしてその声がエルールのものであることに気付くまで、そう時間はかからなかった。
「エルール・ゴルールね」
それを聞いてエルールは目を丸くする。
「……なんで僕の名前を知っているんだ。怪しいぞお前ら。『あいつら』の手先じゃねえだろうな」
「違うわ」
レミリアは断言する。
「私はあなたたちの味方よ」
そう言ってエルールが信じるわけがない――レミリアはそう思っていた。だが、彼女にはそれで何とかなると思っていた。確実だと思っていた。
そして、エルールは何かを持っていた――きっと武器の類だと思われる――腕をおろした。
「頭が狂っているか、それとも本当に救ってくれる存在なのか……。それは解らないけど、敵ではなさそうだ。おい、出てきていいよ」
それを聞いて物陰から二人の人間が出てきた。レミリアにはそれがティアとアーツであることは知っていたが、いうことはしなかった。
「ほんとうに大丈夫なのか、エルール?」
「アーツ。エルールのことを心配しているのは解るけど、エルールがきっと確信してそうしたのだから、大丈夫よ。ええ、きっと大丈夫よ」
ティアとアーツはそれぞれそう言った。
エルールは笑みを浮かべる。
「目がまっすぐだよ。こんな目をしていて悪者だったら、そいつは面白い冗談だ」
「それもそうだけど……」
ティアは言った。
イヴァンはレミリアの裾を持って、レミリアを見ていた。レミリアはその視線に気づいてそちらを向くと、ニッコリと微笑んだ。
「……ところで、君が僕の味方だという証言を信じたとして、僕はどうすればいい? 味方なら、それくらい教えてくれてもいいんじゃないか」
その言葉にレミリアは待ってましたと言わんばかりに、考えていたその言葉を口にした。
「ウルフタワーに乗り込みましょう。今、きっと面白いことになっているはずだから」




