1-2. 神国教会
少女が目を覚まして、それからレミリアは少女にスープを与えた。ここは教会でそれなりの寄付もあるが、しかしながらそれは彼女一人の生活に消えてしまうために、少々切り詰めることも覚悟せねばならない――レミリアはそう思って溜息を吐くのであった。
レミリアはスープを少女に与えたあとは、色々と学ばせることにした。話を聞いた限りだと、ひどい仕打ちを受けてきた(あくまでもそれは彼女が口にすることではなく、察しただけであるが)ようだった。
彼女を優しく受け入れなくてはならない。
門戸を開いて、人々を受け入れる。
それがこの教会なのだから。
「今日はこの世界の歴史を学びましょうか」
レミリアの前に少女は座る。小ぢんまりと座って、ただ彼女の姿を眺めている光景はなんとも微笑ましい。
「この世界は昔々、カミサマが作り出した世界だと言われています」
そう前置きして、シスター・レミリアはこの世界の歴史について話し始めた――。
この世界。
アースと呼ばれるこの世界は、かつては大きな一つの球体だった。
しかし、世界で怠惰を働く人類に怒りを覚えた神ガラムドが世界を幾つかに分けて、簡単に行き来できないようにした。
そして、その一つの空間というのが――アース。その分かれた欠片の中で一番大きいパーツであった。
そのパーツに住んでいた人々は、神の怒りであることを知って、それを宥めようと大きな神殿を建築した。
それこそが、『天つ国・マホロバ』と呼ばれる場所であった。
この世界で一番天に近いとされる山の頂の、さらに上に浮く空中島。
それが天つ国と呼ばれる場所であった。
そこには『神国教会』の本部があり、シスターである彼女たちはそこに定期的に報告を入れるのである。
まあ、それはこんな寂れた教会で一人のレミリアには関係のないことであるのだが。
――と、そこまで説明したあたりで、ふと少女のほうを見ると、少女は眠っていた。
「……まあ、しょうがないわね」
そうつぶやいて、レミリアは布団を彼女にかけた。
ふと、彼女はそこで時計を見た。
時刻はもうお昼となっていた。
「あ、ごはん作らなくちゃ」
ご飯を作り、食べることも彼女にとっては『仕事』である。神に祈りを捧げて、今日のごはんを食べれることに感謝する。それも彼女の、シスターの『仕事』の一つでもあった。
彼女は立ち上がると、キッチンへと向かった。寂れてはいるものの、キッチンだけは整備している。理由は単純明解。虫が怖いからだ。
ラジオの電源を点けて、彼女は鍋に野菜を投入していく。
ラジオからはノイズ混じりに、声が聞こえてくる。
『――昨夜、一人の少女が瀑布から飛び降り、「下界」へとやってきました。ザザッ……これは、我々「神国教会」にとって重大な厳罰処分となるのは間違いありません。ザザーッ……ザザッ……ザザザーッ……。ともかく、見つけ次第「マホロバ」に強制送還いたします。しかし残念なことに、逃げ出したのは……ザーッ……というわけで、名前も把握出来ておりません。ですが、我々は全力をあげて、探し出します。幸福の国から逃げ出す人間なんて、下界からすればなんて愚かなことでしょうか?』
それを聞いて、彼女は思わずラジオの方に振り返った。
今、ラジオはこう言った。
『ひとりの少女が瀑布から飛び降りた』
それが真実だとすれば、そしてその少女が彼女だとすれば――。
レミリアの不安は強まっていく。彼女に何があったのかは充分に想像がつく。しかし、『天つ国』から流れ着いたものとみれば……話は変わる。