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奴隷少女の勇者道  作者: 巫 夏希
第二章 大盗賊の子、エルール
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閑話 ある神父の祈り

 魂には輪廻という概念が存在する。

 そして、その魂というものは必ずどこかで輪廻して、生まれ変わりをしない人間などどこにもいない。

 それが通説だった。僕はそれを痛いほど学校で学んだ。この世界に『神国教会』の教えが触れわたっていたのはずいぶん昔のことからになるし、それは仕方ないことだと思っていた。

 でも、疑問だった。

 どうして『生まれ変わり』などあるのだろうか、と。

 生まれ変わりがあるというのなら、魂に記憶が保持されるというのなら、今自分が死んだらその記憶は次に魂を受け継いだ人間に引き継がれるということになるのだろうか。

 だとすれば僕は世界を拒むだろう。そんな世界信じられないし信じたくない。

 だけど、僕の父親が神国教会でそれなりに偉い立場にあったことと、自分は勉強がそれなりにできたことで、大人になったと同時に神国教会の神父として雇われることになった。

 神国教会の内部は徹底された神様主義だった。神様の名前を代弁する『代弁者』をトップに、枢機卿が置かれ、さらにその下に僕たち神父がいる。代弁者の言うことには絶対服従が条件だ。

 くだらない。くそったれな世界だった。

 思った以上に、神国教会という場所は腐っていた。そんな場所が、語っていた。



 ――魂には輪廻が存在する。



 そんなことが有り得るとでもいうのだろうか? 僕は信じられなかったし信じたくなかった。

 だから、僕は彼女を逃がすことにした。

 マホロバに捕らわれていた奴隷はどれも、かつて悪事を働いた人間の魂が宿っていると言われている。それがほんとうかどうかは別として、実際に奴隷となっていることは事実だ。

 その中に、彼女がいた。

 かつて、世界を救った『勇者』の魂を持った少女――イヴァン。

 彼女が『神の部屋』と呼ばれる――まあ、懺悔室みたいなところだ――場所へやってくるとき毎回、こう言う。


「神父さま、私はどうしてここにいるのでしょうか?」


 ――君の魂が勇者のものだったからだ、なんて言えるだろうか?

 少なくとも、僕は言えなかった。それはどうして? どうしてだろう。

 解らないが、彼女に『かわいそう』だという思いが芽生えたのは事実だった。


「神父さま、神父さま。少しわたしのお話を聞いてくんなまし」


 神の部屋に入ってきたのは、ボロ布を着た老婆だった。年齢ははっきりと解らないが、ここまで衛生状態が良くない場所でここまでの年齢の女性が耐えるということは、奇跡といっても過言ではない。


「……解った。どうした?」


 僕が了承すると、老婆は話を始めた。最初はどうしてこの場所はご飯がまずいのか、私たちが回している歯車は何のためのエネルギーを生み出しているのかだとかそういう他愛もないことばかりだったが、徐々に話がずれていった。

 最終的に、老婆はこんなことを言ったのだ。


「この世界って、魂の輪廻は本当に存在するんですかね? 私は存在しないとは思いますけど」


 ――結局、その結論だというのか。

 その結論が導かれるというのか。


「まあ、老婆の話ですわ。戯言、ってやつですよ」


 そう言って、老婆は去っていった。

 そのあとも、僕の頭からは離れなかった。ずっと考えていたのだ。魂の輪廻なんて、ほんとうにありえるのだろうか――なんてことに。枢機卿は言っていた。かつて世界を救った人間は、きっと平等に過ごしているはずだ。だが、悪事を働いた人間がずっとのさばっていていいのだろうか? 答えはノーだ。きっとよくない方向に世界が動いていくに違いない。ならば、どうすればいい? かつて世界で悪事を働いた人間の魂を持つ人間を片っ端から捕まえて奴隷として使えばいい! そうすれば世界は平和になるだろう!

 声高々にそう言っていたが、それはイマイチ解らなかった。そして、どうして勇者の魂を持つ彼女が捕まっているのかも、理解できなかった。恐らく、僕以外にもそう思っている人間は居ただろうが、それでも言えなかったのは――単純に怖かったからかもしれない。或いは洗脳状態になっていた可能性もある。まあ、それは可能性が低いのだが。

 ともかく、僕は嫌だった。だって彼女たちは今何もしていないんだ。魂には罪が残っている? そうだとしても今の彼女たちは何の罪も犯してないじゃないか!

 ――気が付けば、僕は奴隷たちとともに、ある計画を立てていた。

 奴隷たちが一斉に飛び出して、脱走する計画だ。僕はそれに頷いて、素直に自分の気持ちで参加した。



 彼女が逃げていったのを、僕は徐々に冷たくなっていく身体で理解した。計画が実行された後、僕は直ぐに見つかって――正確には逃げていく奴隷たちの盾となって――銃で撃たれた。

 僕にはもう悔いはない。彼女さえ逃げてくれれば、それでいい。

 それでいいのだった。

 ああ、神様。

 きっとあなたに良心があるとするのなら――イヴァンをお守りください。

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