2-17. First End
「待っていましたよ、勇者イヴァン。それに……シスター・レミリア!」
その声を聞いて、彼女は上を向いた。
ウルフタワーの天辺に、誰かが立っている。
それは少年のようにも見えた。
「さあ……最高のショウタイムの始まりだ!」
少年が叫んだと同時に、何かがエルールの身体を貫いた。
それが槍であることに気付くまで、そう時間はかからなかった。
「え」
エルールは短く言った。
だが、彼女の身体は串刺しになって、その槍は地面に固定されてしまっているためか、動くことは出来ない。
「あ……あ?」
そして。
二本。
三本。
四本、五本、六本。
エルールの身体に次々と槍が刺さっていく。
「エルール!!」
ティアは叫んで、エルールの傍に近寄る。
「まて! 動くな!!」
レミリアの命令を聞くことなんて、彼女には出来なかった。
ティアも、エルールの周りに突き刺さる槍の餌食となって――串刺しとなった。
「なぜだ……なぜこんなことに……。これは『はじめてのパターン』だぞ?!」
レミリアはそう言うが、ほかの人が聞けばそれはどういうものなのか、全く理解できなかった。
少年は高笑いする。
「人間が狂っていく様はいつ見ても面白いものですよ。ほんとうに、ほんとうに。精神が崩壊していく過程を見ることができるのですから。はじめは普通だったのが、おかしくなっていく。おかしいんですよ。それがとてもとてもおかしくておかしくて、しょうがないんですよ!!」
「貴様……!!」
レミリアの心はすでに怒りが支配していた。
だが、怒りに振り回されては正常な行動ができないこともまた、事実だ。
「おいてめえ! そんな高台から攻撃なんてしないで降りてこい!!」
そう叫んだのはアーツだった。
少年は表情を変えずに、頷く。
「何を考えているんだよ、この下衆が。僕はマホロバに住んでいる人間。対して君たちはこんな汚らわしくてくだらない世界……下界の人間だろう? 下界の人間とマホロバの人間が同じ位置に立つことなんてないし、ありえないんだよ」
そして少年は手を翳した。
「もう終わりだよ」
それと同時に、天から無数の槍が降ってきた。
それを避けきることなんて、彼女にも、イヴァンにも、アーツにもできることではない。
そして、レミリアの身体は串刺しになった。
穴という穴から血が滴り落ちている。彼女の着ていた修道着は赤く染まっていく。
もう、終わりか。
レミリアはつぶやいた。
「さて……まあ、そのまま放っておいてもどうせ死んじゃうよね。じゃ、さよなら」
そう言って、少年は去っていった。
もう、終わりか。
残されたレミリアは呟いて、残りの二人を見た。イヴァンもアーツも、すでに絶命していた。イヴァンは勇者という肩書きがあるとはいえ、少女なのだ。いくらあれほど走る体力があったとしても、全身串刺しになって耐え切れるほどの力などそうない。
レミリアは薄れていく意識の中、考えていた。
あの少年は初めてのパターンだった。
あの少年はそんな方法なんて使わなかった。
なら。
いったいどこで間違えた?
いったいどこで――。
そんなことを最後まで考えて。
考えて。
考え抜いても、その場で結論が出ることはなかった。
そして、シスター・レミリアは命を落とした。




