2-16. 作戦開始
「イヴァン、どうかした?」
そんな彼女の思考は、レミリアの言葉で打ち切られてしまった。彼女はそれを悟られないようにブンブンと強く首を振った。
対して、レミリアはそれに若干引きながらも、
「そ、そう……。ならいいのだけれど」
レミリアはそれだけを言って、再びソファに腰掛ける。
「さて、準備も終了したぞ……ってあれ? お前たち、準備はそれでいいのか?」
「だって宿屋に戻るにも裏街のボスとやらに目をつけられているんですもの。だったら動かない方が得策よ。今頃そっちも探索されている可能性があるし」
「そっち、とは?」
「宿屋のことよ。それくらい解るでしょ」
その言葉にエルールは頷く。
レミリアは溜息を吐きながら、立ち上がった。
「そちらさんの準備も出来たようだし……いきましょ。大丈夫、『今度は』失敗しないわ」
「今度は、とは。まるで何度も失敗しているような言い草だな」
「それがね。失敗しているのよ」
レミリアの一言に場が凍りついた。
が、直ぐにレミリアは微笑んで、
「って言ったらどうする? 信じる?」
「何だ。冗談か……。てっきり本当かと思ってしまった」
それを聞いてレミリアは一歩前に踏み出した。
「いるわけないじゃない、ループしている人間……なんて。そんなのは神様が作り出した理に反しているんですもの。おかしい、おかしい話よ」
レミリアはまるで自分に言い聞かせるように、そう言った。
その言葉の真意を知る者は、今は居なかった。
◇◇◇
「さあ作戦を始めましょう皆さん」
手をたたいて少年は笑った。
もうワイルドウルフの人間はいない。いまここにいるのは神国教会から集めてきた精鋭たちだ。
目標は勇者ただ一人。
「……だったはずなんですけどね」
「勇者ではないのですか?」
「いいえ、違います」
少年は溜息を吐いた。
「目標が増えてしまったのですよ。これは非常に残念ですし、面倒臭い話です。もう……どうして上はきちんと管理しないんでしょう。まったく、こうやってこういう仕事は下に凡て押し付けていくんですよ。おかしいとは思いませんか? 僕は思いますよ」
「それより……そのターゲット二人目? というのはいったい……」
「ああ。えーと、これです」
そう言って少年は持っていた写真をほかのメンバーに見せた。
そこに写っていたのは修道着を着たひとりの女性だった。
「えーと、彼女の名前はレミリア。レミリア・クロプスですね。今はシスターをして、勇者イヴァンとともに逃亡中。きっとこの町にいる……いや、裏街にいることは確定事項です。かつ、ここにやってくるであろうことはすでに判明済みですので、僕たちはただ待っているだけでいいんです。最高のショウを見せてあげようじゃないですか」
そう言って少年はニッコリと笑みを浮かべた。
そんなことがあるとは露知らず、レミリアたちはエルールを先頭にある場所を目指していた。
ワイルドウルフの本拠地、ウルフタワー。
目的はエルールの父を殺した元凶、ワイルドウルフのボスを倒すことだ。
彼女も、イヴァンも、レミリアも、ほかのみんなもそれを解っていた。
今の彼女たちは一致団結していた。一個の目的を必ず果たす。その、強い志を彼女たちは持っていた。
そして。
「ここがウルフタワーね」
灰色の建物を見てレミリアは言った。それを聞いてエルールは首を傾げる。
「どうしてここがウルフタワーって知っているんだ?」
「だって、ここが中心地でしょ」
エルールの言葉に、レミリアは少々言葉を澱ませながらも、答えた。
それに彼女は疑問を抱くことはなかった。




