2-14. “彼女”
グレーフォックスのアジトにいたシスター・レミリアとイヴァン、それにエルールたちは作戦会議を終了して、一旦その準備に入った。やはりそういう準備をする必要があるのだろう、とレミリアは思ってお茶を啜りながらソファに腰掛けていた。
因みにエルールは風呂に、それ以外は準備におわれている。イヴァンはトイレに行ってしまった。
それにしても、ここは荷物があまりにも多すぎる。どっかから持ってきた宝石に書物に衣服……いったいどこから持ってきたのだろうと思うくらいあったそれは、いたるところに置かれていた。
「……なんというか、がさつよね」
レミリアはただそれだけを呟いて、再びお茶を啜り始めた。
イヴァンはトイレに行ってから迷子になってしまった。
というのもこのアジト、広くない割にモノが多いため、そのモノで迷路になってしまっているのだ。それほど背が高くない彼女にとってはこれは難題である。
「うーん、どうしよう……」
彼女は思った。
突き当たりに扉があるのを見つけた。
この扉の向こうからシャワーの音が聞こえてくるから、きっと風呂なのだろう。風呂でその音がするということはそこにいけばきっと誰かがいるし、誰かが元の場所へ戻してくれるはずだ――イヴァンはそう思った。
だからイヴァンはそこへ向かい、その扉を開けた。
扉を開けるとそこは脱衣室のようだった。もう一つ扉をこえるとそこには風呂があるようだ。鼻歌混じりで誰かが入っている、ということだけは解ったイヴァンはその扉をノックした。
「誰だい?」
声を聞くと、それはエルールのようだった。イヴァンはエルールに帰れない旨を伝えると、失笑した。
「ああ、解ったよ。少し待ってくれるかい? 今シャワーを浴びているからね」
それを聞いてイヴァンはこくこくと頷く。
そして、扉から離れようとしたそのとき、彼女が何かを踏んだ。
それは石鹸だ。どうしてそこにあるのか解らなかったが、今のイヴァンにそれを考えられるだけの思考はなかった。
「え、え……」
イヴァンはそのまま後ろに倒れてしまった。
その衝撃で、扉が大きく開かれた。
扉の向こうには浴槽があった。浴槽の脇でシャワーを浴びているのがエルールだ。
今、エルールは泡を流していた。その身体はなめらかな流線型だった。シャープでスリムな身体は、背中を見ただけで美しく感じる。
イヴァンが倒れた音を聞いて振り返ったエルールは、何も隠すものなどない。
エルールの顔を見て、そこからイヴァンは視線を下に落としていく。そこには、『男』だと付いていてはおかしいものがついていた。滑らかな双丘がエルールの胸についていた。
エルールは頬を染めて、イヴァンを見つめる。その顔はまさに女性のそれだった。
イヴァンは目を丸くして、言った。
「エルール……あなた、女性だったの?」
エルールは顔を背けて、頷いた。
まだ頬は紅潮していた。それは恥ずかしさから来ているのか、蒸気による暑さからくるものなのかは解らなかった。
「ああ……そうだよ。僕は女だ。おかしいかい? 大盗賊の子供が……娘だなんて!」
「ううん、寧ろどこがおかしいの?」
イヴァンは首を傾げる。
それを見てエルールは驚いた。
エルールは今まで、大盗賊の息子として、強く生きようと思っていたからだ。そしてそれは、彼女の父、リムファス・ゴルールも思っていたことだった。
「お前がせめて男だったらここを継がすことも考えたがなあ……。女にゃこの仕事は務まらねえよ」
その言葉を聞いて、父に尊敬の念を抱いていたエルールは決心したのだ。
ならば、女でもこの仕事が務まることを証明しよう。父を見返してやろう。彼女はそう思って、ひたすら盗賊の仕事に専念した。




