表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奴隷少女の勇者道  作者: 巫 夏希
第一章 シスター・レミリアは笑わない
2/40

1-1. シスター・レミリア

 死んだら無だ。その後には何も残らない。自分という存在はきえてしまうだろう。

 何も残らず、何も託せず、まるで自分など元から居なかったのではないかのように、いともあっさりこの世界からはじき出されてしまう。

 そんなのは嫌だ。

 忘れられたくない。

 忘れられたくない。

 忘れられたくない。


「この子はどうしてこうなってしまったのかしら」


 ねえ、ママ。いい子にするから忘れないで。


「本当だ。おかしくなってしまったのかもしれないな」


 ねえパパも、お願いだから。

 私を忘れないで――。



 そして、彼女は目を覚ました。ベッドから起き上がり、頭を撫でる。

 最悪な夢だった。嫌な夢だ。最近はあまり見ないと思っていたが、また見てしまった。最悪で最低な夢。それは彼女にとっての失ったはずの、封じこめたはずの、過去。

 レミリア・クロプスはシスターである。海岸沿いにある小さな教会を一人で支えている。かつては僧侶もいたが、死んでしまった。

 この世界には魔なるもの――魔物が住んでいる。この世界はもともとひとつのおおきな世界だったものが、昔あった何らかの災害によって幾つかに分かれてしまった――というのはこの世界に住む人間ならば必ず知っていることだ。

 レミリアは起き上がると、教会にある十字架の前へ向かった。そこへ向かうと跪き、祈りを捧げる。シスターである彼女の一日の仕事の一つである。

 この教会は海に面していることから、よく船が沈まないようにとお願いする人がやってくる。しかし、残念ながらここは願えば叶う場所ではない。神様に願いを聞き入れてもらえるかどうか――それが大事なのだ。

 十字架への祈りを終え、彼女は海岸へと向かう。清掃も大事な仕事の一つだ。海を通して流れ着くゴミの数々を、どうにかこうにか捨てていくのが彼女の役目でもある。


「……おや?」


 そんな中、彼女はあるものを見つけた。

 最初は布切れのようにも思えたが、よく見ると違うようだった。


「違う、これは……人間!?」


 彼女は漸くその正体に気がついた。

 そして、その人間に近づき身体を大きく揺さぶる。


「だ、大丈夫ですか!!」


 しかし、その人間の反応はない。

 一先ず、何らかの策を講じなくてはならない。

 そうして彼女はその体に手を当てて、目を瞑った。

 刹那、彼女の手が、そこを中心として淡い緑の光を放ち始めた。

 数瞬の間で、彼女の体についていた細かい傷が消えていった。

 そして。


「……んっ」


 彼女は目を覚ました。


「大丈夫ですか?!」


 レミリアは彼女に訊ねた。

 少女はまだ自分がどういう立ち位置にあるのかを理解しておらず、また、ひどく疲れているようだった。


「……ともかく、身体を休めましょう。すぐそばに教会……があるから、そこで」

「あ、あなたは……?」

「そんなことより、今はあなたの体をなおすほうが先決よ」


 そう言って、レミリアは彼女の体を担いだ。

 とても軽かった。

 不安になる軽さだった。

 彼女がいったいどういう人生を歩んできたのかが、垣間見えるほどだった。

 だからこそ。

 彼女にはいい人生が待っていることを教えなくてはならない。

 彼女に生きる希望を与えなくてはならない。

 それがシスター・レミリアの仕事なのだから。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ