2-10. 作戦会議(後編)
「そうだ。問題はそこになる。ワイルドウルフのアジトは一度だけ入ったことがあるが、あそこはほんとうに面倒臭い空間だ。先ず、入口には執拗なほどボディーチェックを行う人間がいる。ボディーガードなのか、ワイルドウルフの構成員のひとりなのかは知らないが、あれは非常に厄介だ」
「ボディーチェックくらい乗り越えられるでしょう?」
「そう言えるのはな、あんたくらいだよ。きっと」
レミリアはエルールの言った言葉の真意が理解できなかったが、直ぐに頭を切り替えた。
「話を戻すけれど、その中に入ったあと、どういうふうになっているのかは知らないの?」
「解ったら苦労しない。それにガードも固いからね。難しい話なんだよ」
そう言って、エルールは微笑む。
「正面突破する考えはないか?」
「正面突破出来ていたら苦労しない。それにあのタワーはとても高い。一番上にボスがいるとしてそいつを倒せばいいのだから……、まあ、難しい話になるのは間違いないね」
難しい話、という表現を使うのが好きなのだろうか――レミリアはそう思ったが、それを口に出さないでおいた。
◇◇◇
「……そうだ、一つ思い出した話があるんだ」
レッサーがそこから離れようとしたタイミングで、トールはレッサーに声をかけた。
レッサーは溜息を吐いて、振り返る。
「なあに、トールたん。わたしだってそれなりに忙しいのだけれど」
「それは充分に承知している。けれど、少しだけ面白い話をするのを思い出していてね。これをしないとなんにもつまらない。……そう、『勇者』の伝説に関する話だよ」
「勇者の……伝説?」
レッサーはニヒルな笑みを浮かべる。
「そんな話題を振られて気にならない人がいるとでも思っているのかしら。ほんとうにあなたは、悪い人よトール」
「そうかな。まあ、そうかもしれない」
どっちともつかない発言をして、トールは咳払い一つ。
「勇者ってのはね、ある一人のことを指すんじゃないんだ」
唐突に事実を告げた。
その事実を聞いてレッサーは目を丸くする。
「……それはほんとうかしら?」
「ああ。ほんとうだ。神に誓ったっていい。では、勇者とは何か? 勇者とは、記憶だ。人々に根付いた『世界を救った』という記憶もある。或いは人々とともに居た勇敢な人間ということもある。ともかく、勇者とは一括りにはできない。つまり勇者とはそういうことなんだ」
「それじゃ、勇者の定義はどうなるのかしら?」
「勇者の定義……。簡単な話、勇者は身体を持たない。魂が引き継がれているんだ。前世ってやつかな……前世でも勇者をしていたのならば、それは必ず勇者だ。例え引きこもりのニートだったとしてもね」
「家系……とはまた別ということ?」
「そういうことだ。現に彼女が『勇者』だと天啓が降りたのは彼女に勇者の素質があったというわけではない。彼女に宿る魂が勇者の魂だっただけだ」
それを聞いてレッサーは微笑む。
「あまりにも興味深くてあまりにも面白い話だったよ、トールたん。またこういう話を聞かせておくれ。枢機卿の連中はたいてい昔話で頭が痛くなるんでね」
「これはれっきとしたほんとのことだ。嘘じゃない、神に誓うって言っただろ?」
トールの言葉に、レッサーは耳を貸さない。
どうやら彼女はトールが話していることは本当のことではなく、おとぎ話のようなファンタジーのことであると考えているようだった。
「あ。それじゃ、私これから枢機卿の連中と会議があるのよ」
「そっか。君も大変だ。レッサー」
「あなたも大変じゃないの? 勇者捜索を続けなくちゃ」
「ああ。そうだね」
そう言ってふたりは分かれた。
トールはレッサーが見えなくなるまで、ずっとそちらを見つめていた。そして、レッサーが見えなくなったタイミングで、彼はつぶやいた。
「……その話は、ほんとうなのにね」
トールは微笑み、踵を返した。




