2-8. 神託
少年は話を続ける。
「あの少女は勇者の神託を受けているのさ。だからさっさとこっちで保護しなくちゃいけない」
「どうしてですか。別に勇者ならば捕らえる必要もないのでは……」
黒装束の言葉を聞いて、少年は溜息を吐いた。
「……ねえ、君」
「なんでございましょう」
少年は指を横にスライドさせた。
ただ、それだけだった。
直後、黒装束の首がなめらかにスライドして地面に落下した。
断面から血が出ることなどはなかった。
「少し話をしすぎた、なんて思わないのかなあ」
少年は笑っていた。
そして少年はゆっくりと歩き始める。鼻歌をしながら歩く光景はまさに少年のそれだ。年相応に見える行動ともいえるだろう。
「……君は少々やりすぎなところがありますね」
褐色の肌をしたシスターが彼を見て微笑んでいた。
少年は呟く。
「……なんでここにいるんですか、レッサー」
レッサーと言われた彼女は微笑む。
対して少年はそれを見て、バツの悪そうな表情を浮かべた。
「トールたんに会いたかったからよっ!」
「たん、ってなんだ。たんって」
そう言ってトールはおでこに手を当てる。
それを見て首を傾げるレッサー。
「トールたんはトールたん。それ以上でもそれ以下でもないさ。ところで、トールたんはどうしてシノビを殺しちゃうのかなあ?」
「あいつはしゃべりすぎた」
「困るなあ。シノビも消耗品じゃないんだからさ。少しくらい手加減してやってよ。トールたんくらいだったら記憶をちゃちゃっといじくることだって難しくないでしょう?」
「シノビが消耗品じゃない、ねえ。どうせ君が作っているんだから消耗品で合っているだろう?」
「間違っていますよ。その考えは」
レッサーは溜息を吐く。そして持っていた杖を使って床をトン! と叩いた。
それだけのことだった。
床から何かが生み出された。
そしてそれが黒装束――彼女たちが言っていたシノビであることに気付くまでそう時間はかからなかった。
「相変わらずの遠隔錬成か。どれだけストックがあったんだ?」
「トールたんのせいでもう一桁しかないよ」
「まだ、一桁あるんだな?」
トールは笑う。
レッサーは頭を掻いた。
「こんな横暴が許されるのは、君がそれなりの立場についているからだよ、トールたん。トールたんが今の立場についているのはそれなりに努力したからだってことを私は知っているけれど……。知らない人からすれば横暴極まりないんだよ、それくらい分かってよトールたん」
「いいから俺の名前にたんたん付けるのやめろ!」
「もー。釣れないな。トールたんは。いいじゃない、それくらい言ったって」
「……そんなことより、俺に何か用事でもあったんじゃないのか」
「おっ」
レッサーは何かを思い出したかのように、そう言った。
「そうでしたそうでした。トールたん、シスター・レミリアだけどね、今どうなっているか聞いた?」
「あのシノビから聞いたよ。なんでもワイルドウルフに喧嘩を売ったとか。こちらからしてみれば都合のいい話だ。それを利用する手はない」
「そう。そこであなたに提案なのだけれど……その作戦の締めをトール、あなたにお願いしたいの」
もうさきほどまでふざけていたレッサーはここにはいなかった。
真面目に彼女は、トールに提案していた。
トールはそれを聞いて、小さく溜息を吐く。
「ほんっと、レッサー。君はオンオフの切り替えがとても上手い。僕なんか全然オンオフの切り替えが出来ないというのに……。ま、そんなことはどうでもいい。いいよ、僕がやる。僕の手で『勇者』を捕まえてみせるよ」
「ありがとう、トール。それじゃ」
そう言って。
レッサーとトールのふたりは、それぞれ歩いていた方角へ向かうのを再開した。




