2-6. リムファス・ゴルール
大盗賊としてその名を知られるリムファス・ゴルールは、処罰されたときに言われた『悪逆非道』な人間などではない。
彼がボスを勤めていた盗賊団『黒い狐』は表にも裏にも慕われる盗賊団であった。彼のアジトには常に人でごった返していて、毎日のようにパーティが開かれていた。表の人にも広く裏街への門戸を開き、安全性を訴えた。そして表の人にも裏街へ住んで欲しいという希望を出したほどだ。
だから、だからこそ。
あの日、彼が捕まったというニュースを聞いたときは誰もが驚いたものであった。
どうして彼が捕まらなくてはならないのか。
彼に困っている市民なんて、この街にはいないというのに。
――でも、それは間違いだ。
彼を嫌っている人間は、いた。
同業者の一部、そして彼のターゲットとされていた富裕層の人間だ。
きっと彼らがやったに違いない。『黒い狐』の人間は皆そう思った。
だが、いざ連れて行かれるとき、リムファスは目をつぶって頷いた。
「ちょっくら行ってくるわ。なあに、直ぐに戻ってくる」
その言葉を最後に、彼は断頭台へと連れて行かれた。
そして、あの雨の日。
リムファス・ゴルールは斬首刑に処せられた。街の住民はそれに対して何もいうことは出来なかった。その理由が誰かの圧力によるものなのか、怖かったのかは知らない。
ただ、あの時の判決を下したのは、ほかでもない神国教会の人間であった。
だから、エルールはその日から憎むようになった。凡てを。
あの時見ていて、恩恵を受けていて、止めなかった人間、すべてを憎むようになった。
◇◇◇
それを聴き終わって、レミリアは深い溜息を一つ吐いた。
「……まさか、そんなことがあったなんて。知らなかったわ」
「あんたも神国教会のシスターなんじゃないのか?」
呆れ顔でエルールは訊ねる。
対してレミリアは胸を張って、
「つい昨日まではね。今はフリーよ」
そう言った。それを聞いてエルールは失笑する。
「フリーのシスターなんてきょうびきかねえよ。面白いやつだな、あんた」
「あんた、じゃないわ。レミリアという立派な名前があるのだけれど」
「レミリア、か。解った、覚えておくよ。よろしくな」
そう言ってエルールは右手を差し出す。
「よろしく、エルール」
それに答えるように、レミリアはエルールの右手を握り固い握手を交わした。
そのとき、彼女は何か右手に違和を覚えた。
だが。
「邪魔するぜえ!!」
それをかき消すように声が聞こえた。野太い声だった。その声は、この家――というよりアジトと言ったほうがいいだろう――の入口から聞こえていた。
そこにいたのは長髪の男だった。顎には鉄製の何かが装着されていた。きっと喧嘩のときに用いるのかもしれない。そして、それを装着しているだけで明らかに恐怖度が上がっているのもまた事実だった。
「別にそんなこと言わなくても入ってくればいい。……で、ワイルドウルフの幹部さんがなんのご用件で?」
エルールはその男の目の前に立って言った。とはいえその男とエルールの身長差はとても大きく、エルールはその男を見上げる形になっていた。
男は目つきをきつくして言った。
「なんのご用件、じゃあねえんだよ。税を払いな、税を。お前ンとこの盗賊団……『グレーフォックス』だったか? そいつは活動するために税を払っていねえんだよ。そして今日が今月分の期限だ。そろそろ払ってもらわねえとこっちも堪忍袋の緒が切れるぜぇ」




