2-4. 裏街
裏街は自由の街レスポークの『影』の姿だ。そこに住んでいるのはゴロツキであったりヤンキーであったり、とても治安が悪い。よくそういうスラングが聞こえることも多々ある。
「……まさかレスポークにこんな場所があっただなんて……」
レミリアはその光景を見て、そうつぶやいた。
「レミリアはここまで来たことがないの?」
イヴァンの言葉にレミリアは頷く。
裏街というのはこう少し垣間見ただけでもその雰囲気が測り知れる。とても暗くて、とてもじめじめしていて、とても質素な町並みだ。いつもあかりが照らされている『表』とは一目で違うことが解る。
「と、とりあえずあの子供は……!」
レミリアはあたりを見渡す。
その子供は直ぐに見つかった。子供は走って走って、鉄製の扉の中に消えていった。
「まて、こらあッ!!」
その扉が完全に締め終わる前に、レミリアは強引にそれをこじ開けた。それを見ていたイヴァンは思わず愕然としてしまう。
ほんとうにレミリアはただのシスターなのか……そんなことを疑ってしまうくらいであった。
「イヴァン、急いで中へ!」
「レミリア。いったいあなたは何に追われているの……?」
イヴァンのその呟きがレミリアに聞こえることはなかった。
鉄製の扉の向こうには地下水道が広がっていた。とはいえ下水ではなく人々の飲み水などを流している上水のようであった。この街レスポークは人が多いためか上下水道が完備されている、世界でも珍しい街であった。しかし、それを彼女たちが知っているかどうかはまた別の話だが。
「……あの子供、ほんとうにどこに消えたってんだ……」
レミリアはあたりを見渡す。水に濡れないようにシスターがよく着用している修道着の裾を折ってピンで止めている。さらに下の方の部分を動きやすくするために切っているため、腰ぎりぎりまでスリットが入っている。これはもちろんもともと入っていたわけではない。可動性のために切った。その光景を見ていたイヴァンは、もう彼女がどこに向かっているのかすら解らなかった。
裏を返せばそれほどあのロザリオは彼女にとって大事なものなのだろう。
「……ねえ、レミリア。あのロザリオってどれくらい大事なものなの?」
思い切ってイヴァンは訊ねた。
レミリアは少し考えて、
「昔、知り合いからもらっただけのものですよ。ただ、それだけのことです」
そう短く答えた。
そんなことをしているうちに彼女たちがもう数話に渡って追いかけているあの子供は何かの扉の中に入っていった。そして、今度こそ入られないように直ぐに鍵を締めた。
「鍵、締められちゃったよ!」
「……しょうがない。盗賊系スキルは持ち合わせていないんですが……この際仕方ないですよね?」
そう言って彼女は心の中で神に祈りを捧げ、
「『キー・オープナー』!」
そう叫んだと同時に、その扉は開かれた。
「盗賊系スキルを持ち合わせたシスターなんて聞いてねえぞ!」
さすがの子供もそれにはもう参った、という感じだったらしく、両手をあげてそれに答えた。
それが降参の合図であるということは、彼女たち二人には解っていたことだし、降参の合図を出している人間を無慈悲に攻撃しようなんていう心は、二人共持ち合わせてはいなかった。




