2-2. ロザリオ
荷物を置いて、レミリアとイヴァンは買い物に出かけた。
というのも三日後にはこの街を出るためである。
三日という期限を決めたのは特に理由もないが、まあ三日くらいは余裕もあるだろうというレミリアの考えからだった。それに、レミリアはもう一つ考えていることがあった。
――イヴァンに、世界を見せてあげたい。
彼女はずっとマホロバで奴隷として働かされていた。そんな彼女は世界を知らないのだ。だから、彼女が、レミリアが世界を一緒に巡ってイヴァンに世界を見せてあげたいと思っていたのだ。
「いろんなお店があるねー」
ストリートの一つはたくさんのお店が軒を連ねていた。それを見てイヴァンは笑っていた。
彼女にとって、この街の凡てが初めての経験なのだ。先程ベッドに横たわった時も「こんなふかふかなベッド、初めて!」と言っていた。「教会のベッドもそれなりにふかふかだったでしょう?」とは流石にレミリアは言えなかった。
この時間はたくさんの人間が買い物をするために賑わっているようだった。
人にぶつかりながら、進んでいく。
「はぐれないように、手をつないでいきましょう」
そう言ったレミリアの言葉を、イヴァンは忠実に守っているようだった。
イヴァンとレミリアは二人手をつないで、歩いている。
そんな中、レミリアは背の低い子供にぶつかってしまった。完全にこちらの不注意だったので、「すいません」と小さく呟いてまた歩き始める。
しかし、それを遮る形でイヴァンは立ち止まった。
「イヴァン? どうかしたの?」
「何か……盗まれたようなきがする!」
そう言って彼女は来た道を逆走していく。
「ちょ、ちょっとイヴァン!」
レミリアはそれを追いかけるように逆走する。人にぶつかるたびにその視線が痛い。すいませんと何度も謝りながら、彼女はひたすら来た道を戻っていく。
イヴァンの足はとても早く、またそれが継続する時間も長い。奴隷の生活でそのスタミナが身についてしまったとでもいうのだろうか。だとしたら、それはとても皮肉なことかもしれない。
彼女は走る。その先にいる、何かを盗んだという人間の先へ。
対してレミリアはそれから少しだけ離れた位置で走っていた。というのも、盗まれたかどうかも定かでない今むやみに追いかけるのもどうかと思っているためだ。
そのため、今レミリアは荷物を確認している。もし、何か無いのなら盗まれた可能性が上がる。
「そんなこと、なければいいのだけれど……」
レミリアは独りごちる。
しかし、その期待は大きく裏切られてしまった。
彼女の一番大切なものが盗まれてしまった、というオマケつきで。
「嘘……! 私の、わたしの大切にしていた、ロザリオがない……!?」
ロザリオ。
それは神への祈りを捧げるときに使う十字架のことである。特に、シスターの持つ銀のロザリオは魔物避けの効果があるため、彼女は肌身離さず持っていたのだ。
それが、盗まれた。犯人はイヴァンが言ったあの子供だ。
そして、その子供は開けた場所に出たのを見計らってこちらを見た。まだ自分は余裕があるとでも言いたいのだろうか。こちらを見て笑っていた。
そして――レミリアは肌身離さず持っていた銀のロザリオを、こちらに見せつけるように持っていた。




