2-1. 自由の街
教会を後にしたシスター・レミリアとイヴァンは道中たくさんの会話をした。その殆どがイヴァンが話し手でレミリアが聞き手というパターンで、彼女はずっと楽しそうに話をしていた。
レミリアは思った。
イヴァンはずっと一人で生きてきたのだろう。奴隷という身分がどれほど苦しいものなのか、彼女は経験こそしたことはないが、理解できる。
城壁が見えてきたとき、イヴァンはぴょんぴょん跳ねて言った。
「あれはいったい何?」
「あれは、街よ。今は魔物がいるからそれに対処するために大きな壁を街の周りに作っているの。それで守れるかどうかは正直不安なところだけどね……」
そう言って、レミリアは溜息を吐く。
彼女とともについていくことを決意した彼女であったが、よくよく考えれば困難を極める旅であったことは事実だ。神国教会は今や世界的に勢力を広めている団体であり、街も神国教会の庇護下に置かれている場所がそれなりに存在する。とはいえ、その場合は神国教会の旗が遠くから見えるようになっているし、ほのかに柑橘系の匂いがする(これは街の周りに聖水を流しているからであり、魔物を近づけにくくする作用がある)。だから見分けはつきやすい。
それに今、レミリアが向かっている街は一番旅の中で安心できる場所だろう――彼女はそう思っていた。
◇◇◇
自由の街レスポーク。
名前のとおり、自由で構成されている街だ。住民は何をしても構わないし、自由に出ていっても構わない。
ただし、その自由を守るためにルールが幾つか制定されており、それさえ守れば自由は保証されるという条件つきである。
関門を潜り、レスポークに入る。街に入ると人の声が大きくなったような気がした。
ここには様々な者がいた。人間はもちろん、動物と人間のハーフのような存在である獣人もいる。通常獣人の住民権を保証する街はあまり多くないのだが、それもレスポークだからこそというわけだ。
そういうこともあって、レスポークは世界で一番大きな街として言われている。
「わあ……広いなあ……!」
イヴァンは空を見上げて、言った。
レミリアはそれを見て、微笑んだ。
一先ず彼女たちは宿屋へ向かい、そこに荷物を置いておくことにした。とはいえ女性二人の旅であるから荷物はさほど多くない。それが意味することは荷物がそう持っていくことが出来ないということであった。
「魔法のカバンでもあれば話は別になるのだけれど……」
「魔法のカバン?」
レミリアの呟きに魅力的なワードが入っていたのを、イヴァンは聞き逃さなかった。
「ええ。魔法のカバンよ。これは質量を極小にすることでたくさんのものが持ち運びできるの。これさえあれば楽なんだけれど……」
「買えるの?」
「問題はそこよ」
二人の旅のもう一つの問題、それは路銀だった。
この世界には魔物がいる。魔物を倒せば体内にある鉱石が手に入る。それを換金することでお金が手に入るが――シスターと少女の二人では、それにも限りがある。
そもそも今の彼女が持っている路銀は教会にやってきた人がくれるなけなしのお布施である。だからそれほど多い量持っていないのだ。これもいつ尽きるか解らないし、尽きてしまっては今日のように宿屋も泊まることが出来ない。
即ち、それが意味することは。
「とりあえず、あなたを安全にできる場所を見つけるまでは無駄遣い禁止、ってことかなあ……」
そう言って、レミリアは大きな溜息を吐いた。




