虚勢
突風の後、そこには何も残っていなかった。
空を覆っていた黒い陰のひとかけらさえも。
それを見つめたカシュアが呆然と呟く。
「助かったの……?」
「……違う。私達はどうしようもないミスを犯した。逃すべきでない人間を取り逃したのだ」
「……え?」
意味が分からないと言いたげに、カシュアがこちらを見てくる。
しかし、それに気を回す余裕もなく、私は呆然とうなだれることしかできなかった。
「な、何が起きたんだ!」
ふと、視界内に公爵家当主の姿が入る。
そのうろたえ模様はあまりにも情けなく、私は完全に思い知らされる異なった。
……自分は手を組むべき人間を間違えたのだと。
今に、手遅れ成った今になって私は気づく。
──人の身でありながら、聖獣の代わりに王国を保護していたマレシアの異常性を。
そう、よく考えれば気づくはずのことだったのだ。
いくら魔妖精だといえ、通常は聖女の代わりになるなどあり得ないことを。
そう、千の魔妖精を扱えるなどの異常がなければ。
……そして、そんな存在を私は取り逃がしたのだ。
「くそ、私は……!」
今さら過ぎる後悔が私の胸によぎる。
けれど、これだけ多くの人間を前にその失態を報告することだけは絶対に避けねばならない。
そう判断した私はとっさに声を張りげた。
「皆心配することはない! 邪悪な魔妖精を操って取り入ろうとした魔術師は魔妖精とともにさった!」
その私の言葉に反応する人間は少ない。
けれど、私はカシュアの手を取り叫ぶ。
「ここに真の聖女がいるのだ! 邪妖精がまたきても聖獣様が守ってくださる! 何も心配することなどはない!」
「聖女様万歳!」
「新たな婚約者様万歳!」
ようやく民衆からあがってきた歓声に、私は笑みをこぼす。
……しかし、私は気づいていなかった。
声を張り上げる民衆の必死になにかから目をそらそうとする表情に。
自分が手をとる聖女の顔に浮かぶ不審に。
──もう、取り繕うことなどできない失態を自分が犯したことに。
まだ、全てに私は気づいていなかった。
次回は聖獣視点になります。




