報い
事態を理解して、俺は固まる。
状況が少しでもよくなった、ライハートなら。
そんなことを考えていた過去の自分を殴りたい衝動に駆られる。
……しかし、その全てが手遅れだった。
一切俺の反応など気にすることなく、ライハートは続ける。
「これ、マレシアに使えると思っていたの? ほんとにカイザードは考え足らずだな」
そう心底愉快そうに笑いながら、ライハートは告げる。
「僕程度に効かない薬が、マレシアに効く訳ないじゃん」
そういって、私の手に残っていた薬を入れた容器をライハートは取り上げる。
「龍の討伐なんて体のいい生け贄にされた忌み子の第二皇子。なんて悲劇的な話しだと思うかい?」
「なんの話……」
「その僕の何倍の苦労を味わって、マレシアはあれだけ多数の精霊と手を結んだ。そんな存在に、人間が作れる程度のこの薬が効果あるわけないだろう?」
「……っ!」
そのときになって、ようやく私は自分のやっていたことがいかに無駄だったか理解する。
……そもそも成功するはずのない計画だったのだと。
「そう、お前程度の計画は無意味だったよ。笑っちゃう位に」
そんな私の心を読んだように、ライハートは笑う。
──しかし、その目はぞっとするような憎悪を宿していた。
「でも、害があったかどうかと、許せるかどうかって関係ないんだよね」
まるで龍が目の前で口を開けたかのような圧迫感。
それに、意識が飛ばなかったのは奇跡に近かった。
「ひっ」
私の耳に、情けない悲鳴が聞こえる。
それをあげたのが自分以外あり得ないのに、そんなことさえ私には理解できなかった。
ライハートは、そんな私の胸ぐらをつかんで顔の前に引き寄せる。
「この壁の厚い部屋に昏睡したマレシアをくるよう指定したってことは、お前手をだすきだったんだろう?」
「ちが……」
「黙れよ。お前は躊躇なくそれをする屑だろうが」
そういって、ライハートは初めてその顔から表情を消した。
「あの人が築いてきたものを全て奪い、その上躊躇なく切り捨てたんだよお前は。その功績の裏にあった苦労なんて一切知りもせずにな。その上で、旗色が少しでも悪くなればまた縋りつこうとする」
「私は、王国のため……」
「かつてはともかく、もうお前にそんな理想はないよ」
私をみるライハートの目には、一切の温度も存在しなかった。
「だから、そろそろ表から消えてもらうぞ。──その全てをマレシアに捧げて、お前には消えてもらう」
そして次の瞬間、私は意識を刈り取られた。
次回、カイザードの結末、そして少し短編が入って完結予定です!




