禁忌の触媒
私の質問に、マレシアは何も言わなかった。
けれど、私を見つめるその目はどうしようもない絶望が滲んでいて、私は理解する。
……もはや、マレシアには弁明する気力すらないことを。
確かに、マレシアは私達に利用されて偽聖女となった。
けれど、本人はそうして身分を偽っていることに罪悪感を抱いていることも私は知っていた。
故に、私にはわかる。
罪悪感と、裏切られたことのショックがせめぎ合って、マレシアはなにも言えなくなっていることを。
それを理解した私は、それを利用すべく口を開いた。
「そこまで悩むなら、どうして私に! 私はお前にとって、そんなに頼りない婚約者だったのか……?」
哀切にまみれた私の言葉に広場に集まった人間、そしてカシュアの顔に同情が浮かぶ。
それを見て、私はぎこちなく顔から哀切の表情を消した。
「……いや、今言ったことはなかったことにしてくれ。もう、時は戻りはしないのだから」
その私の言葉に、痛ましげにカシュアが私から顔をそらす。
……そんな思いを抱かせることが私のねらいだとも知らずに。
周囲の反応を見ながら、私は思う。
これで私に疑いを持つ人間はいないだろうと。
ここまで、マレシアは少しばかり民からの人気を集めすぎていたが、ここまでやればもう大丈夫だろう。
マレシアの背後から、一つの人影が現れたのはそんなことを考えていた時だった。
「……申し訳ありません、殿下! 私が娘を見ていなかったばかりに!」
そういいながら現れたのは公爵家当主、マレシアの父親だった。
当主は、その苦渋に染めながら頭を地面にこすりつける。
「私が、私がもっと娘を正しく導いていれば……!」
そうして嗚咽を漏らす姿は、娘を心から思う親の姿、被害者にしか見えない。
けれど、それを見て私は笑いを堪えるのに必死だった。
なぜなら、私は知っていたのだから。
この泣いている男こそ、私と同じマレシアに罪をかぶせた主犯だと。
これが、娘に罪を着せるための演技だと知れば、この場にいる人間はどう思うか。
そう思いながらも、私は表面上は取り繕い告げる。
「……公爵家当主、私に貴方を責める気はない。マレシアについて、告発してくれたこと、感謝している」
「殿下!? ……しかし、私は」
「あのとき、首を差しだし娘とともに処罰されようとした姿、私ははっきり覚えている。貴方には、このことについても告発してくれたのだし、な」
そういって、私が取り出したのは魔術を扱う時に使われる触媒だった。
その黒い触媒をみたカシュアが目を見開く。
「それはまさか……!」
「ああ、これは動かざる証だよ」
そういって、私はマレシアを睨みつけて告げる。
「マレシア、お前は。──禁忌たる魔妖精を扱っていたな」
瞬間、大きく広場がどよめくことになった。
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