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奇怪島  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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対立(2)

「誰か、近づいてくるようだ」


 レーションを食べ終わった時、ペドロがそんなことを言ったのだ。


「えっ?」


 公生の方は、レーションを半分も食べていない。口の中のものを、慌てて咀嚼し呑み込んだ。

 すると、それを待っていたかのようにペドロが語り出す。


「あの足音から察するに、紳士的な態度で話し合う気はなさそうだな」


 言った後、ペドロは公生の方を向いた。


「で、君はどうする気だい?」


「はい?」


「聞いているのは俺の方だよ。これから、この島の最大派閥である百目鬼グループが俺の前に現れる。彼らは、俺から情報を聞き出そうとするつもりだろう。しかし、俺は彼らに何も言う気はない。となれば、争いが起こる。その時、君はどうするのかな?」


 問われた公生は、先ほどと同じく答えられずにいた。もっとも、答えられない理由は先ほどと異なる。

 さっきは、質問の意味がわからなかった。だから、何も言えなかったのだ。

 しかし、今は違う。もし目の前で争いが起きた時、自分はどうすればいいのか……それがわからないのだ。

 その時、ペドロはクスリと笑った。


「また、君は迷っているのだね。しかし、世の中は君が迷っている間にも動いている。見たまえ、彼らが来たよ」


 今では、公生の耳にもはっきり聞こえていた。地面に生えている草を乱暴に踏みしめ、荒々しい足音を立て歩いてくる。公生は、さっと足音のする方に視線を移した。

 体の大きな若者が、肩をいからせ近づいてくる。小林という男だ。その後ろから、百目鬼と永井と井川が続く。最後に、柳沢が何とも言えない表情で付いてきた。


「おい! ガイジンのおっさん! ちょっと聞かせろや!」


 突然、小林が怒鳴りつける。公生はビクリとなったが、ペドロは表情ひとつ変えない。


「ガイジンのおっさん、とは俺のことかな」


「当たり前だろうが! てめえの他に誰がいんだよ!」


 吠えながら、なおも近づいてくる小林。両者の距離はどんどん縮まっていく。

 公生は、どうすればいいのかわからなかった。喧嘩はやめて欲しい。だが、自分に小林を止めることなどできない。


「君は、記憶力に難があるようだな。俺の名はペドロだよ。ガイジンのおっさん、などという名前を名乗った覚えはない。ここにいる公生くんは、一度聞いただけで俺の名前を覚えてくれたのだがね」


 何の感情も込めず、淡々とした口調で返していくペドロ。その態度が、小林の怒りをさらに増幅させてしまったらしい。


「んだとゴラァ! 殺すぞ!」


 言いながら、ペドロの襟首をつかむ。だが、次の瞬間に表情が変わった。今、ペドロに触れた瞬間……得体の知れない感覚が小林を襲ったのだ。

 これまで小林は、何度となく喧嘩をしてきた。大抵の人間は、彼の体格と凶暴さに圧倒され、ほとんど一方的に痛めつけるだけの展開であった。

 しかし、今目の前にいる者は、小林とは全く違う種類の人間だ。同じ犬でも、ドーベルマンとチワワが全く異なるように……。


「離したまえ」


 ペドロは、穏やかな口調で言った。その迫力に気圧され、小林は手を離した。


「悪いがね、俺は君のような人間に付き合うほど暇ではない。調べなくてはならないことがある」


 小林に言った後、ペドロは公生の方を向いた。


「公生くん、行くとしようか」


 そう言うと、くるりと背を向け歩き出した。その時、井川が怒鳴る。


「お、おい! お前行かせる気かよ!」


 聞いた瞬間、小林はハッとなった。途端に、顔を歪め怒鳴る。


「ま、待てや! 話は終わってねえぞ!」


 直後、走り寄りペドロの肩に左手を伸ばす。さらに、右の拳を振り上げたのだ。公生は、思わず叫ぶ。


「ペドロさん危ない!」


 だが、次の瞬間に信じられない光景を見た。

 小林の左手が、ペドロの肩に触れた……その時、ペドロの体がスッと動いた。何をしたのか、公生には全く見えていなかった。

 直後、小林の体が浮き上がったのだ。宙でくるりと一回転し、背中から地面に落ちる──


 ペドロは、倒れている小林を冷ややかな表情で見下ろす。


「君を殺すのは簡単だよ。だがね、君には殺す価値もない」


 静かな口調で言うと、ペドロは背を向け去っていく。

 公生は、慌てて後を追った。




 しばらくして、小林は上体を起こした。その目には、あからさまな恐怖が浮かんでいる、


「クソ、あいつ何なんだよ!」


 小林は喚き、恐怖をごまかした。不快な感情をそのまま目の前の自然にぶつけていく。地面の草をひきちぎり、虚空に投げつけた。

 その様子を、百目鬼らは離れた位置から見ている。


「どうします?」


 永井がそっと尋ねたが、百目鬼は首を横に振る。


「仕方ありません。彼の気のすむようにさせておきましょう」


 そう言うと、百目鬼は歩き出した。小林のことなど、もはやどうでもいいらしい。永井は、慌てて後を追っていく。


「いや、俺は助けようと思っていたんだよ。でもな、あの時は小林が人質みたいな状態だったろ。だから手出しできなかったんだよな」


 聞かれてもいないのに、言い訳めいたことを呟いているのは井川だ。彼もまた、百目鬼の後を追っていった。

 ひとり残された小林は、地面を睨み付ける。


「クソがぁ! ざけんじゃねえぞ!」


 喚き散らしたが、彼の怒りはまだ収まらない。立ち上がると、周囲に生えている草花を片っ端から踏み潰していく。

 その時、何者かの視線を感じた。パッと振り向くと、十メートルほど先に誰か立っている。よく見れば、ヤクザの井川と揉めていた青年だ。

 名前は……確か、沖田とかいっていた。


「何見てんだよ!」


 怒鳴った小林に向かい、沖田は軽蔑の眼差しを向けた。


「君、救いようのないバカだね。草に当たってどうすんの?」


「んだとコラァ!」


 喚くと同時に、小林は突進していく。拳を振り上げ、殴りかかって行った。

 しかし、小林のパンチは当たらなかった。拳を振り上げた瞬間、沖田はスッと動く。

 速く鋭い左ジャブが放たれた。小林の顔面に炸裂し、動きが止まる。

 続いて、沖田の右拳が命中した。腰の回転を効かせた、キレのある右ストレートだ。

 体重の乗った右拳をくらい、小林はよろめいた。鼻血を吹き出し、体もふらつく。

 そこに、トドメの左フックが炸裂した。横からの打撃が小林の顎を掠め、脳が揺らされる。

 直後、小林は膝から崩れ落ちた。脳震盪により、体に力が入らない状態だ。立とうとするが、よろけて尻餅をついた。

 そんな小林を、沖田は冷ややかな表情で見下ろしていた。


「悲しい話だね。暴力しか能が無いのに、その暴力でも負けるって、最高にカッコ悪いよ」


 そう言い放ち、沖田は去って行った。




 少しの間を置き、小林は立ち上がった。

 目の前に生えている木を、凄まじい形相で睨み付ける。


「ふざけやがって……」


 木に向かい、低い声で凄む。

 直後、枝を力任せに揺すった。どうにか、引きちぎろうとする。彼は今、枝をちぎり武器にしようとしているのだ。


「こうなりゃ、ぶっ殺してやる。ガイジンもボクシング野郎も、俺が殺す」


 憑かれたような表情で言いながら、枝をどうにか引きちぎった。しかし、長さも重さもない。武器としては今ひとつだ。

 その時、小林の背後で物音がした。何かが、地面に落ちるような音だ。

 小林は、ビクッと反応した。慌てて振り返るが、誰もいない。

 ホッとした時だった。遠くの方で、木の枝がワサワサ揺れているのだ。


「おい、誰かいるのか!?」


 怒鳴った途端、揺れはピタッと収まった。となると、これは自然現象ではない。明らかに、何者かが揺らしているのだ。

 小林をバカにするために──


「ざけんじゃねえ! ぶっ殺してやる!」


 喚くと同時に、小林は突進していった。だが、草に足を取られ転倒する。

 直後、後頭部に強烈な衝撃を受けた。小林は、意識を失い倒れる。

 と同時に、カサリ、カサリという音がし始めた。しかし、今の小林の耳には届かない。

 音は、倒れている小林へと近づいていく。まるで、地獄からの使者のようであった。




 



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