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奇怪島  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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自己紹介

 自己紹介?


 放たれたペドロからの言葉に、公生はキョトンとなっていた。

 しかし、公生のことなどお構いなしに、ペドロは話を進めていく。


「俺の名は、ペドロ・工藤(クドウ)だ。せめて名前だけでも名乗っておかないと、あとあと不便なことになると思うよ。とりあえず、そこのあなたから」


 そう言うと、ペドロはひとりの中年男を見つめた。無言の圧力に押されるように、男は口を開く。


「な、永井豊次(ナガイ トヨツグ)です」


「永井さんだね。で、次はそこで座っている君」


 言いながら、ペドロが手で指し示したのは、先ほどヘルメットの男たちに撃たれた若者だ。今も腹を押さえてしゃがみ込んでいるが、命に別状はないらしい。


小林義弘(コバヤシ ヨシヒロ)だよ」


 不貞腐れたような態度で答えた小林だったが、ペドロは既に視線を外している。


「では、次は──」


「ちょっと待てや。何でてめえが仕切ってんだよ。ガイジンの癖に偉そうにすんな。みんなも、そう思うだろ? こんな怪しいガイジンに仕切らせて、いいのかよ」


 ペドロの言葉を遮ったのは、いかつい顔つきの中年男であった。背はさほど高くないが、腕力はありそうだ。

 しかし、ペドロは怯まなかった。それどころか、クスリと笑ったのだ。


「そうか。外国人の俺に仕切られるのは嫌なのだね。ならば、君が仕切るといい」


 すました顔で言うと、すたすた歩き公生の隣に来た。

 一方、いかつい中年男は語り出す。


「俺は井川勝己(イガワ カツミ)、銀星会だ。シャバじゃ百人の子分を率いてた。よろしくな」

 

 偉そうな態度で言うと、周りを見回した。まるで、反応を見ているかのようだ。

 公生は唖然となっていた。銀星会といえば、広域指定暴力団だ。ニュースなどで、何度かその名前を耳にしている。

 これからは、恐ろしいヤクザや人殺したちと生活しなくてはならないのか……。


 その時、声を発した者がいた。


「銀星会だって? あんたヤクザか。社会に寄生するダニのくせに、偉そうにすんなよ」


 声の主は、若い男だった。色白だが、目つきは鋭い。


「何だと……てめえ、もう一度言ってみろ!」


 凄む井川。と、若い男が動いた。両拳を顔の位置まで挙げ構え、軽くステップを踏む。ボクシングの動きだ。

 

「な、なんだそりゃ? 僕はボクシングやってますよってか?」


 井川が嘲るように言ったが、その口調とは裏腹に体は後ずさっていた。怯えているのは、誰の目にも明らかだ。

 対する若者の目には、冷ややかな殺意が浮かんでいる。今すぐにでも殴りかかりそうな雰囲気だ。

 公生は顔を歪め、ペドロの方を見る。彼なら、止められると思ったのだ。しかし、ペドロは森の方を見ている。今にも殴り合いが始まりそうだというのに、彼は完全に無視している。

  何なんだ、この人は……と公生が思った時だった。この中で、もっとも年かさと思われる男が両者の間に割って入る。


「まあ、待ちなさい。ここで争っても、何の得にもならないよ」


 穏やかな口調であった。すると、若者は拳を降ろす。だが、敵意は消えていない。皆を見回し、口を開く。


「僕は沖田和也(オキタ カズヤ)だ。見たところ、全員が犯罪者のようだな。だが、僕はお前らとは違う人間だ。馴れ合う気もないし、近づいてきたら殺す。いいな」


 鋭い口調で言うと、ケースの中からレーションの袋とペットボトルを取り出した。

 最後に皆をひとにらみし、森の中へと入っていった。

 そこで、井川が仲裁に入った男の肩を叩く。


「いやあ、危なかったぜ。あんたが来なかったら、俺はあのガキを殺していたところだ。で、あんた名前は?」


柳沢明(ヤナギサワ アキラ)です」


 言った時、永井の目が丸くなる。直後、とんでもないことを口走った──


「あんたアレだよな? 確か、娘の仇討ちした人だよね? 三人殺して死刑じゃなかったか?」


 その言葉に、柳沢は顔をしかめた。露骨に不快そうな表情で、顔を背ける。

 一方、井川の態度も変わっていた。


「えっ……あ、あんた、そうだったのか。そ、そういうのは俺らヤクザに頼んでくんなきゃ! なあ、みんな!」


 上擦った声で言うと、同意を求めるように周りを見回した。だが、誰も答えようとしない。

 公生はというと、愕然となっていた。どういうことだろう。死刑囚が、この島にいるというのか。死刑囚は、刑務所にいるはずだろう。なのに、なぜここにいる?


 場の空気が重くなった時、佐藤と名乗っていた男が前に進み出る。


「私は、百目鬼譲(どうめき ゆずる)と言います。どんな理由かは知りませんが、こんな場所に来てしまった以上、争うことなく皆で一致団結していきましょう」


 にこやかな表情で言った時だった。


「百目鬼さんて、確か五人殺してますよね?」


 またしても永井である。しかも、今回は好きなタレントに対するファンのごとき視線を向けているのだ。

 このやり取りに唖然となっている公生だったが、百目鬼は平然とした表情で答える。


「正確には、十二人です。起訴されたのは五人ですがね」


「マ、マジかよ……」


 井川は、そうとしか言えなかった。先ほどまでは、ヤクザだの百人の子分だの言っていた。しかし、百目鬼との格の違いをはっきりと理解したらしい。

 

「あ、ひとつだけ言っておきます。十二人と言いましたが、私は頼まれて殺しました」


 そう言うと、百目鬼は永井に視線を移す。


「そうですよね、永井さん?」


 いきなり話を振られた永井は、慌てた様子でウンウン頷く。


「は、はい。そうです。百目鬼さんは、死にたいけど死ねない人と会って殺していたと……」


「その通りです。私は、あくまでも死ねない人たちの手助けをしていたのですよ。人生は、何かを為すにはあまりにも短い。しかし、何も為さないにはあまりにも長過ぎる。ましてや、つらい思いを抱えていた場合、それはもはや地獄でしかない。だから、私が苦しみを取り除いてあげたのです」


 百目鬼は、芝居がかった態度でそんなことを言った。

 聞いている公生はというと、百目鬼の言葉に圧倒されつつも、微かな疑問が湧いていた。


 いや、言ってることはわかるよ。

 だからって、十二人も殺すか?


 十二人も人を殺しておきながら、平然と「自分は悪くない。頼まれたから殺った」という態度でいられる神経……それは、果たして人間としてどうなのだろうか。

 そんなことを思いつつ、ふとペドロの方を見てみた。だが、ペドロは百目鬼のことなど見ていない。今度は、下を向き土を凝視しているのだ。大事な宝でも埋まっているかのような表情で、土をじっと見つめている。

 いや、観察していると言った方が正確か。


 その時、百目鬼がとんでもないことを言い出す。


「ところでペドロさん、あなたにひとつ聞きたいことがある」


「何かな?」


 聞き返したペドロだったが、その目線はというと下に向けられている。

 百目鬼の表情が、僅かに変化した。しかし、口調は変わらない。落ち着いた声で尋ねる。


「あなたは、この島のことを知っているのですよね」


「まあ、君らよりは詳しく知っているよ」


 ペドロの言葉に、井川と永井がすぐさま反応した。何だと……とでも言わんばかりの表情で、ペドロを見つめる。小林も立ち上がると、拳を握りしめペドロを睨む。

 公生はというと、危険な雲行きになってきたのを察して後ずさった。ひょっとしたら、皆でペドロに襲いかかってくるかもしれない。

 その場合、どうすればいいのか……などと思っている間にも、話は進んでいく。


「だったら、教えてくれませんかね? なぜ、我々はここにいるのかを」


 尋ねた百目鬼。その表情は、先ほど公生らに向かい「佐藤です」などと名乗っていた頃とは、まるで違うものだった。温厚な中年男の仮面が消え失せ、冷酷な殺人犯の素顔が剥き出しになっている。言わねば殺す、という無言の圧力をかけてきているのだ。

 他の者たちも、殺気に満ちた目でペドロの動向を見つめている──




 







 

 

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