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奇怪島  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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3/5

ヘリコプター

「な、何を言っているんですか?」


 佐藤と名乗った男は、困惑した表情で聞き返した。だが、ペドロはすました顔で返していく。


「犯罪者には、こういうタイプの人間が多い。息を吐くように、口から嘘を吐いていく。公生くん、よく覚えておきたまえ」


 そう言うと、ペドロは公生の方を向いた。

 だが、公生の方は戸惑っていた。いきなり、そんなことを言われても困るだけだ。どう答えればいいのかわからず、ペドロと佐藤(?)の顔を交互に見る。

 一方、佐藤と名乗った男は、無言のままペドロの顔を見つめる。その顔からは、何を考えているのか窺い知れない。

 ペドロと佐藤。どちらが本当で、どちらが嘘なのか……公生には、その判断がつかなかった。

 しかし、その答えはすぐに判明する。


「どうやら、あなたには嘘が通じないようですね。参りました」


 佐藤と名乗った男が、苦笑しつつそんなことを言ったのだ。直後、ペコリと頭を下げた。

 公生は、顔をしかめて後退る。今、この男はペドロに頭を下げた。しかも「参りました」と言ったのだ。となると、ペドロの言ったことは全て本当ということになる。

 怪人と犯罪者、こんなふたりと生活しなければならないのか?


 その時だった。遠くから、パタパタパタ……という音が聞こえてきた。最初は微かなものであり、聞き間違えを疑うレベルだった。しかし、今ははっきり聞こえているのだ。しかも、音はどんどん大きくなっている。

 いったい何事が起きたのか。公生は恐怖も忘れ、周囲を見回した。しかし、何もない。音の主は、いったいどこにいるのか……。

 そこで、ペドロが声をかける。


「公生くん、見るなら上だよ。ヘリコプターが来たんだ」


 えっ? と思い、空を見てみる。

 ペドロの言う通りであった。大きなヘリコプターが、こちらに向かい飛んでくるのだ。

 ヘリコプターは、彼ら三人のいる場所を通過し島の奥へと進んでいった。しかし、ある程度進んだところでホバリング飛行を開始したのだ。

 唖然となり、空を見上げている公生。対照的に、ペドロと男は素早く動いていた。ヘリコプターのいる方向へと移動していく。

 そこで、公生はハッとなった。もしかしたら、あのヘリコプターに乗って帰れるかもしれない……そんな考えが、頭に浮かんだのだ。

 公生は、慌ててふたりの後を追いかけた。




 ヘリコプターは島の中央部で動きを止め、低空で唸り続けていた。

 ペドロの後に続き、公生もその場所に到着する。ひらけた草原であり、ヘリコプターが着陸するには申し分ない地形である。激しい風に煽られ、公生は思わず目を細める。

 いつの間にか、周囲から人々が集まり始めていた。全員の視線が注がれる中、機体は静かに高度を落としてきた。機体は緑に塗られており、大きさはニトントラックくらいだろうか。

 やがて、ヘリコプターは着陸する。同時に後方のドアが開き、中から四人の男が出てきた。いずれも背は高く、百八十センチを優に超えているだろう。肩幅も広く、ガッチリした体格だ。

 しかも、その格好は異様なものだった。頭にフルフェイスのヘルメットを被っており、見たこともない素材のシャツとベストを着ている。両手には手袋をはめており、下半身にはシャツと同じ素材のズボンとブーツである。

 それだけではない。うちふたりは、大きな筒を両手に構えている。一見すると、子供向け番組に登場する模造銃のようだ。本物の銃ではないだろう。

 では、そんなものを持って何をしようというのだろうか?


 公生が呆気に取られている間にも、男たちは動き続けていた。うちふたりが、木製の大きなケースをヘリの中から運び出した。中を開けると、そそくさとヘリコプターの中に入っていく。

 その時、声を発した者がいた。


「おい! ちょっと待て! これは何なのか説明しろ! ここはどこなんだ!?」


 怒鳴ったのは、若く背の大きな男だ。赤い作業服を着ており、髪は短く刈られている。

 しかし、ヘルメットの男たちは、彼の言葉を無視してヘリコプターに乗り込んでいく。

 その時、若者は走り出した。何を思ったのか、凄まじい形相でヘリコプターに突進していく。

 しかし、ヘルメットの男たちはすぐさま反応した。ひとりが筒を構える。直後、ポンという奇妙な音が響き渡った。

 すると、筒から何かが発射される。筒から放たれた物は高速で飛んでいき、若者の腹に命中した。

 若者はウッと声を発し、膝から崩れ落ちる。そのまま、両手で腹を押さえて呻き出した。傍らには、ゴムボールのような物が転がっている。このボール状の物が、銃から発射されたらしい。

 ヘルメットの男たちはというと、その後も迅速に動く。倒れた若者など見向きもせず、発射されたものを回収し、すぐさまヘリコプターに乗り込む。

 ヘリコプターのドアが閉まると同時に、プロペラが回転する。機体は上昇し、あっという間に飛び去っていった……。

 その時、公生は妙な違和感を覚えた。目の端に、何かが動いている気がしたのだ。そっと森の方に視線を向ける。

 不思議な光景であった。二十メートルほど先にある木の枝が、不自然に揺れているのだ。


 風のせいか?


 そうではなかった。ヘリの風はもう収まっている。それに、揺れているのは枝だけだ。周囲の木々はピクリとも動いていない。

 まるで、誰かが木にしがみつき、激しく揺すっているかのようだ。


 他に誰かいるのか?


 公生が息を呑んで見つめていると、その揺れは止まった。徐々に収まったのではない。スイッチを切ったように、唐突に静止したのだ。

 背筋に冷たいものが走る。動物や風の動きではない。だが、間違いなく「彼ら以外の何者か」がそこにいたのだ。


 呆然となっている公生だったが、そこで声が聞こえてきた。


「彼らが使ったのは、暴徒鎮圧のため用いられている銃だよ。ゴム製の弾丸を、高速で撃ち出せる仕掛けになっているのさ。威力は凄まじく、当たれば骨折くらいは覚悟せねばならないほどだ。彼らには、逆らわない方がいいよ……もっとも、本当に恐れるべき存在が彼らの他にもいるのだがね」


 声の主はペドロであった。彼らとは、ヘルメットの男たちのことであろう。公生に、というより皆に説明しているかのようであった。

 直後、ペドロは何事もなかったかのように進み出ていく。腹を押さえ唸っている若者を無視し、木製のケースの中に手を入れて中のものを取り出した。

 それは、軍用のレーションと水の入ったペットボトルであった。ペドロは、レーションの入った袋をふたつにペットボトルを二本手にしている。

 すたすた歩き、公生の前に袋とペットボトルを手渡した。


「これは君の分だ。食べられる時に、しっかり食べておきたまえ。でないと、他の者たちに取られてしまうよ」


「あ、ありがとうございます」


 言った公生だったが、周囲から強い視線を感じた。そっと周りを見回す。

 こちらを見ているのは、全員男であった。全員、赤い作業服を着ており、赤いリュックサックを背負っている。

 それだけでも異様だが、全員が髪を短く刈られているのだ。年齢はバラバラであるが、共通点がひとつあった。全員、一癖も二癖もありそうな面構えの者ばかりである。

 少なくとも、公生のこれまでの人生で会ったことのないような連中だ。普段なら、絶対に近寄りたくない人種である。そんな男たちが、じっとこちらを見つめているのだ。


 なんだよここ……。


 愕然となっている公生を尻目に、ペドロは皆に向かい語り出した。


「さて、これで勢揃いしたようだね。ここで出会ったのも、何かの縁だ。自己紹介といかないか?」 




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