ヘリコプター
「な、何を言っているんですか?」
佐藤と名乗った男は、困惑した表情で聞き返した。だが、ペドロはすました顔で返していく。
「犯罪者には、こういうタイプの人間が多い。息を吐くように、口から嘘を吐いていく。公生くん、よく覚えておきたまえ」
そう言うと、ペドロは公生の方を向いた。
だが、公生の方は戸惑っていた。いきなり、そんなことを言われても困るだけだ。どう答えればいいのかわからず、ペドロと佐藤(?)の顔を交互に見る。
一方、佐藤と名乗った男は、無言のままペドロの顔を見つめる。その顔からは、何を考えているのか窺い知れない。
ペドロと佐藤。どちらが本当で、どちらが嘘なのか……公生には、その判断がつかなかった。
しかし、その答えはすぐに判明する。
「どうやら、あなたには嘘が通じないようですね。参りました」
佐藤と名乗った男が、苦笑しつつそんなことを言ったのだ。直後、ペコリと頭を下げた。
公生は、顔をしかめて後退る。今、この男はペドロに頭を下げた。しかも「参りました」と言ったのだ。となると、ペドロの言ったことは全て本当ということになる。
怪人と犯罪者、こんなふたりと生活しなければならないのか?
その時だった。遠くから、パタパタパタ……という音が聞こえてきた。最初は微かなものであり、聞き間違えを疑うレベルだった。しかし、今ははっきり聞こえているのだ。しかも、音はどんどん大きくなっている。
いったい何事が起きたのか。公生は恐怖も忘れ、周囲を見回した。しかし、何もない。音の主は、いったいどこにいるのか……。
そこで、ペドロが声をかける。
「公生くん、見るなら上だよ。ヘリコプターが来たんだ」
えっ? と思い、空を見てみる。
ペドロの言う通りであった。大きなヘリコプターが、こちらに向かい飛んでくるのだ。
ヘリコプターは、彼ら三人のいる場所を通過し島の奥へと進んでいった。しかし、ある程度進んだところでホバリング飛行を開始したのだ。
唖然となり、空を見上げている公生。対照的に、ペドロと男は素早く動いていた。ヘリコプターのいる方向へと移動していく。
そこで、公生はハッとなった。もしかしたら、あのヘリコプターに乗って帰れるかもしれない……そんな考えが、頭に浮かんだのだ。
公生は、慌ててふたりの後を追いかけた。
ヘリコプターは島の中央部で動きを止め、低空で唸り続けていた。
ペドロの後に続き、公生もその場所に到着する。ひらけた草原であり、ヘリコプターが着陸するには申し分ない地形である。激しい風に煽られ、公生は思わず目を細める。
いつの間にか、周囲から人々が集まり始めていた。全員の視線が注がれる中、機体は静かに高度を落としてきた。機体は緑に塗られており、大きさはニトントラックくらいだろうか。
やがて、ヘリコプターは着陸する。同時に後方のドアが開き、中から四人の男が出てきた。いずれも背は高く、百八十センチを優に超えているだろう。肩幅も広く、ガッチリした体格だ。
しかも、その格好は異様なものだった。頭にフルフェイスのヘルメットを被っており、見たこともない素材のシャツとベストを着ている。両手には手袋をはめており、下半身にはシャツと同じ素材のズボンとブーツである。
それだけではない。うちふたりは、大きな筒を両手に構えている。一見すると、子供向け番組に登場する模造銃のようだ。本物の銃ではないだろう。
では、そんなものを持って何をしようというのだろうか?
公生が呆気に取られている間にも、男たちは動き続けていた。うちふたりが、木製の大きなケースをヘリの中から運び出した。中を開けると、そそくさとヘリコプターの中に入っていく。
その時、声を発した者がいた。
「おい! ちょっと待て! これは何なのか説明しろ! ここはどこなんだ!?」
怒鳴ったのは、若く背の大きな男だ。赤い作業服を着ており、髪は短く刈られている。
しかし、ヘルメットの男たちは、彼の言葉を無視してヘリコプターに乗り込んでいく。
その時、若者は走り出した。何を思ったのか、凄まじい形相でヘリコプターに突進していく。
しかし、ヘルメットの男たちはすぐさま反応した。ひとりが筒を構える。直後、ポンという奇妙な音が響き渡った。
すると、筒から何かが発射される。筒から放たれた物は高速で飛んでいき、若者の腹に命中した。
若者はウッと声を発し、膝から崩れ落ちる。そのまま、両手で腹を押さえて呻き出した。傍らには、ゴムボールのような物が転がっている。このボール状の物が、銃から発射されたらしい。
ヘルメットの男たちはというと、その後も迅速に動く。倒れた若者など見向きもせず、発射されたものを回収し、すぐさまヘリコプターに乗り込む。
ヘリコプターのドアが閉まると同時に、プロペラが回転する。機体は上昇し、あっという間に飛び去っていった……。
その時、公生は妙な違和感を覚えた。目の端に、何かが動いている気がしたのだ。そっと森の方に視線を向ける。
不思議な光景であった。二十メートルほど先にある木の枝が、不自然に揺れているのだ。
風のせいか?
そうではなかった。ヘリの風はもう収まっている。それに、揺れているのは枝だけだ。周囲の木々はピクリとも動いていない。
まるで、誰かが木にしがみつき、激しく揺すっているかのようだ。
他に誰かいるのか?
公生が息を呑んで見つめていると、その揺れは止まった。徐々に収まったのではない。スイッチを切ったように、唐突に静止したのだ。
背筋に冷たいものが走る。動物や風の動きではない。だが、間違いなく「彼ら以外の何者か」がそこにいたのだ。
呆然となっている公生だったが、そこで声が聞こえてきた。
「彼らが使ったのは、暴徒鎮圧のため用いられている銃だよ。ゴム製の弾丸を、高速で撃ち出せる仕掛けになっているのさ。威力は凄まじく、当たれば骨折くらいは覚悟せねばならないほどだ。彼らには、逆らわない方がいいよ……もっとも、本当に恐れるべき存在が彼らの他にもいるのだがね」
声の主はペドロであった。彼らとは、ヘルメットの男たちのことであろう。公生に、というより皆に説明しているかのようであった。
直後、ペドロは何事もなかったかのように進み出ていく。腹を押さえ唸っている若者を無視し、木製のケースの中に手を入れて中のものを取り出した。
それは、軍用のレーションと水の入ったペットボトルであった。ペドロは、レーションの入った袋をふたつにペットボトルを二本手にしている。
すたすた歩き、公生の前に袋とペットボトルを手渡した。
「これは君の分だ。食べられる時に、しっかり食べておきたまえ。でないと、他の者たちに取られてしまうよ」
「あ、ありがとうございます」
言った公生だったが、周囲から強い視線を感じた。そっと周りを見回す。
こちらを見ているのは、全員男であった。全員、赤い作業服を着ており、赤いリュックサックを背負っている。
それだけでも異様だが、全員が髪を短く刈られているのだ。年齢はバラバラであるが、共通点がひとつあった。全員、一癖も二癖もありそうな面構えの者ばかりである。
少なくとも、公生のこれまでの人生で会ったことのないような連中だ。普段なら、絶対に近寄りたくない人種である。そんな男たちが、じっとこちらを見つめているのだ。
なんだよここ……。
愕然となっている公生を尻目に、ペドロは皆に向かい語り出した。
「さて、これで勢揃いしたようだね。ここで出会ったのも、何かの縁だ。自己紹介といかないか?」




