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奇怪島  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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第二の殺人

「ふ、普通ですか……」


 思わず聞き返した公生に、ペドロは落ち着いた表情で答える。


「そう、君は普通の少年でしかない。にもかかわらず、この島にいる。となると、本気で人違いの可能性を考慮しなくてはならないね」


「じゃあ、僕はやっぱり人違いで連れて来られたのですか?」


 混乱した公生から出たのは、その問いだった。

 おかしいと思っていたのだ。目が覚めたら…こんな島にいた。周りは、凶悪な犯罪者ばかり……アクション映画の主人公がいるような場所だ。自分のような凡人の行くところではない。   


「その可能性もある、というだけの話さ。実のところ、人違いの可能性が徐々に高くなってきているがね。ただ、仮に向こうのミスだったとしても帰ることはできないよ。最後まで、俺に付き合うしかないのさ」


 にこやかな表情で、とんでもない答えを返してきたペドロ。だが、次の瞬間に表情が一変した。不意にしゃがみ込むと、土に触れ草を撫でる。

 何をしているのだ? と思う公生の前で、ペドロの奇行はさらに加速していく。立ち上がったかと思うと、あちこちに手のひらをかざしているのだ。まるで、風の感触を確かめているようだ。

 やがて、その口から声が漏れ出る。


「流れが変わった。昨日と同じだ。これは……」


「どうしたんですか?」


 そっと尋ねた公生だったが、返ってきたのは予測もしていなかった答えだった。


「また誰か殺されたらしい。しかも、これは近いよ」


 こともなげな様子でペドロは答えた。

 だが、公生の方は顔を歪めていた。また、人が死んだというのか。しかも、聞き逃せない言葉付きだ。


「近いって、どういうことですか?」


「言葉の通りさ。この近くで、誰かが殺された。おそらくは、沖田くんだろうな」


「お、沖田さんが?」


 公生は愕然となった。

 さっきまで、普通に話していた沖田が死んだというのか。正直、あまり好きにはなれないタイプだった。だからといって、死ねばいいなどと思っていなかった。

 衝撃のあまり震え出した公生だったが、ペドロは冷静そのものであった。またしてもしゃがみ込むと、地面の土に手のひらで触れる。

 こんな時に何をやっているんですか、と公生が言おうとした時だった。


「まだ断定はできないがね。行ってみよう」


 そう言うと、ペドロは歩き出した。

 公生は唖然となっていたが、このままではひとりで取り残されてしまうことに気づいた。人殺しが徘徊している島で、単独行動など殺してくれと言っているようなものだ。

 公生は、慌ててペドロの後を追った。さらに尋ねる。


「じゃあ、殺した犯人も近くにいるのですか?」


「うむ、間違いなく近くにいるね」


「ぺ、ペドロさんなら、その犯人に勝てますよね?」


 続けて尋ねた。ああ、勝てるよ……という答えが返って来ることを期待していたのだ。そうすれば、安心して殺人現場に行ける。

 公生は、とにかく安心したかったのだ。ひょっとしたら、人違いで連れて来られたかもしれない場所で、これ以上怖い思いを抱えていたくない。

 しかし、ペドロは非情であった。公生の淡い期待すら、無残に打ち砕いてくれる言葉を吐く。


「いや、無理だね。俺でも勝てない相手だよ」


「そ、そんなぁ!」


 悲鳴のような声をあげた公生だったが、ペドロは彼を無視し進んでいく。


「そ、それは何者なんですか? あなたより強いなんて、そんな人がいるんですか?」


 どうにか追いすがり、なおも聞いた公生だった。しかし、彼を安堵させる答えは返ってこなかった。


「今の君に言ったところで、理解できないだろうね。ただ、これだけは言っておく。俺よりも強い者など、探せばいくらでもいる。そして……俺では、この島にいる処刑人を止められない」


 言った直後、ペドロは立ち止まり草の上を指さす。


「見たまえ。沖田くんだ」


「えっ?」


 公生も立ち止まると、ペドロの指さした方を見る。途端に、その場を後ずさった。

 草の上に、沖田が仰向けになり倒れていた。ペドロと公生が来たというのに、何の反応もしない。もっとも体には傷ひとつなく、眠っているかのようである。

 しかし、その瞳は開いたままだ。眠っていないのは明白だった。


「ペドロさん、これって……」


 それきり、公生は何も言えなかった。だが、ペドロが後を引き継いでくれた。


「ああ、死んでいるね。間違いないよ」


「なんで殺されたんですか?」


「さてね。彼はもともと死刑囚だったし、これも仕方ないことなのではないかな」


「ちょっと待ってくださいよ。理由もわからないまま、いきなりこんな島に連れて来られて、最後には殺されるんですか? そんなの、ひどすぎないですか?」


「ひどすぎる、と言ったのかい? 彼は五人の人間の命を奪ったのだよ。殺される理由としては、それで充分ではないのかな」


「それはそうですが……」


 それきり、公生は何も言えなくなってしまった。

 確かに、沖田は人殺しだ。そのため、死刑囚となった。殺されても当然なのだろう。

 ただ、その意見を素直に受け入れることもできなかった。それならば、死刑囚として独房に入れておけば良かったのではないか。なぜ、こんな島に連れて来たのだ?

 普通に、死刑囚のまま人生を終わらせれば良かったのではないか?


「ペドロさん、他の人たちは、なぜこの島に連れて来られたのですか?」


 気がつくと、そんな質問が出ていた。だが、ペドロの答えは非情なものだった。


「残念ながら、それを答えることはできない。俺は、そういう契約を交わしている」


 そう言うと、ペドロはしゃがみ込んだ。沖田にそっと触れ、真剣な表情で遺体を見つめている。公生としては、その様子を見ていることしかできなかった。

 どのくらいの時間、そうしていたのかはわからない。一分か、あるいは一時間か……ひとつ確かなのは、不意にペドロが立ち上がったことだ。

 

「彼の死因は絞殺だ。さて、行くとしようか」


「えっ、どこにですか?」


「百目鬼さんたちに、沖田くんの死を伝える。彼らにも、知る権利はあるだろうからね」


 そう言うと、ペドロは歩き出した。公生は、慌てて後を追う。

 追いつくと同時に尋ねる。


「すみません! 死体は、あのままにしておくんですか!?」


 そう、沖田の死体をあのままにしておくのは、何だか気の毒な気がしたのだ。

 ほんの僅かな間とはいえ、言葉を交わした仲である。せめて、死体を埋葬してあげるくらいのことはできないのか? 咄嗟に、そんなことを考えたのだ。

 しかし、ペドロの答えは素っ気ないものだった。


「ああ。放っておけば、()が始末してくれる。我々は、下手に手を加えない方がいい」


「それ、どういうことですか?」


 公生は、さらに尋ねた。彼、とは何者なのだろう。ひょっとして、処刑人のことだろうか。


「さっきから言っているように、君には教えられない。俺は、大抵の疑問には答えるよ。しかし、この島に関する質問には答えられない」


 そう言うと、ペドロは足を止め振り返った。その視線の先には、沖田の死体がある。


「それ以前に、死体をどうしようというのかね? 埋葬しようにも、今の我々には道具がない。手で穴を掘るのは、君の想像以上に困難な作業だよ。君に、それができるのかい?」


 言われてみれば、その通りである。公生に、素手で土を掘ることなどできない。ましてや、沖田をすっぽり覆うくらいの穴を掘ることなど不可能だ。


「いえ、できません」


 そう答えるしかなかった。すると、ペドロは頷く。


「そう、君にもできないことはある。若い時というのは、気持ちばかりが先走ってしまうものさ。成長するに従い、自身の限界を知っていく。それは、とても大切なことだよ」



 

 


 




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