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奇怪島  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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消失

「し、死んだ?」


 公生は、呆気に取られた表情で言った。

 正直に言えば、彼には今ひとつ現実感がなかった。ついさっきまで、小林は生きていた。大きな声で喚き散らし、ペドロに襲いかかったが苦もなくひねられてしまった。その光景は、今もはっきり覚えている。

 その小林が、死んでしまったという。


 目が覚めたら、こんな島にいた。ペドロなる怪人や、大勢の殺人犯に囲まれ、ヘリコプターからの食料の支給を受け、さらに身の上話をしたかと思ったら……次は殺人事件が起きたという。

 この、数珠つなぎのように起こる事件の数々は、十六歳の少年の持つ脳のキャパシティを完全に超えていた。

 思考が停止した状態で突っ立っていた公生だったが、話はさらにとんでもない方向へと進んでいく。


「ペドロさん、まさかとは思いますが……あなたではないですよね?」


 百目鬼の放った問いに、公生はハッとなった。この男は、ペドロが小林を殺したと思っているのだ。

 そんなはずないのに──


「ふむ、君はそう考えたわけか。実にお粗末な推理だね」


 対するペドロはというと、容赦ない言葉で答えていく。

 傍らで聞いている公生は、思わず口元を歪めていた。もう少し、相手に気を遣うということができないのだろうか……そんな思いが浮かぶ。

 同時に、ようやく頭が動き始めた。


「それは、どういう意味ですか?」


 さすがの百目鬼も、ペドロのセリフには気分を害したらしい。不快そうな表情で聞いてきたが、ペドロは冷静そのものだった。


「言葉の通りだよ。もし、俺が彼を殺す気なら、先ほどのやり取りの時点で命を奪っていたよ。それくらいのこともわからないのかな」


「どうでしょうね。我々の目があったから、殺さなかっただけかも知れないですよ」


 永井が横から口を挟む。顔には険しい表情を浮かべているが、よく見れば足が震えていた。顔色も良くない。井川もまた同様だ。

 彼らも怖いのだろう。だが、ペドロを犯人扱いするのはおかしい……などと公生が思った時、ペドロがクスリと笑った。


「公生くん、弱い人間ほど楽な方に流れる。今、この状況を見たまえ。彼らにとって、俺を犯人と決めつける……それこそが、もっとも楽な結論なのさ。何せ、考える必要がない」


 まるで、公生の心の中を読んだかのような言葉だった。公生はハッとなり、ペドロの顔を見つめる。

 だが、その言葉に百目鬼は違う反応をした。鋭い表情でペドロに尋ねる。


「今、楽な結論と言いましたね? ですが、状況を見る限りあなたの仕業としか思えないのですよ。これは、おかしくはないでしょうが?」


「ほう、仕業と言うのかい。では、その根拠を教えてくれるかな?」


「お、お前以外にあんなことできる奴はいねえだろうが!」


 井川が怒鳴った。ついで、彼は他の者たちを見回す。


「こいつは強いが、四人がかりでいけば勝てる! やっちまおうぜ!」


 煽る井川だったが、そこで公生が口を開く。


「ちょ、ちょっと待ってください! ペドロさんは、ずっと僕と一緒にいました! 小林さんを殺すなんて無理です!」


 その言葉に、百目鬼らは戸惑いの表情を浮かべ顔を見合わせた。彼らは、本気でペドロが犯人だと思いこんでいたのだろうか。

 一方、ペドロは静かに笑った。


「公生くん、まさか君が俺を擁護してくれるとは思わなかったよ。さて、この証言に対し、あなた方はどう反論するのかな?」


 からかうような口調で、百目鬼らに尋ねた。

 その問いに対し、井川や永井は顔をしかめる。しかし、百目鬼だけは怯まなかった。


「公生くん、君とペドロさんはずっとここにいたのだね?」


 いきなり矛先を向けられ、公生は困惑しつつも頷いた。


「はい、そうです」


「ここで、ふたりして何を話していたんだい?」


「それは、その……」


 それきり、公生は口ごもる。まさか、ここで自身の自殺未遂について話していた……などということは言いたくない。

 しかし、百目鬼は容赦しなかった。さらに追及してくる。


「なぜ言えないんだい?」


「俺たちに言えないようなことを話していたのか? そうじゃないなら話せるだろう?」


 井川も追及に加わってきた。こちらは百目鬼とは違い、今にも殴りかかってきそうな雰囲気である。公生は恐怖を感じ、助けを求める視線をペドロに送る。

 だが、ペドロは彼のことなど見ていなかった。森の中を見ており、時おり木の表面を撫でたりしているのだ。百目鬼らのことなど、意識に入っていないらしい。

 この非常時に何を考えてるんだ……と、公生が思った時だった。業を煮やしたのか、井川が近づいてきた。

 公生の襟首をつかみ、顔を近づける──


「何とか言えや、でないと殺すぞ」


 言った時、ペドロが動いた。

 それは、一瞬の出来事だった。瞬時に間合いを詰め、公生らのそばに移動する。あまりにも早く、動き出す瞬間は誰の目にも見えていなかった。

 と同時に、井川の手首をつかみ捻りあげる。悲鳴をあげる井川だったが、ペドロの耳には入っていなかった。井川を、何の躊躇もなく突き飛ばした。井川はよろけて、地面に尻もちをつく。

 そこでペドロは、百目鬼の方を向いた。


「俺は、君らと敵対するつもりはない。また、殺害する気もない。だがね、君らの手足をへし折り動けなくすることはできるよ。試してみるかい?」


 その言葉に、井川は慌てて立ち上がった。しかし、身構えるわけでも引くわけでもない。いや、ひょっとしたら逃げたいのかもしれない。だが、ヤクザのプライドが邪魔をしている……公生の目には、そんな風に見えた。

 他の者たちはというと、三者三様の反応をしていた。永井は、怯えた表情で後ずさっていく。柳沢は、一応は困った表情を浮かべているものの、どこか投げやりな雰囲気も感じられた。

 そして百目鬼は、後ずさりつつ口を開く。


「我々と敵対するつもりはない、と言いましたね。ならば、あなたの言葉を信じましょう。ただ、小林くんが死んでいたのは紛れもない事実です。この問題について、あなたはどう対処するつもりですか?」


「では、まず小林くんの死体を見てみるとしよう。案内してくれるかな」


 提案したペドロに、百目鬼は頷いた。


「そうですね。まずは、死体を見ていただきましょう」


 そう言うと、百目鬼は向きを変え歩き出した。永井たちは、ホッとした表情で彼の後を追う。

 すると、ペドロは公生の方を向いた。


「君も来たまえ。ここでは、人の死は避けて通れないからね。この先、運が良ければ、幾つもの死体を見るはずだ」


 物騒なセリフを吐き、歩き出したペドロ。公生もまた、慌てて後を追う。早足で歩いて追いつくと、小声で尋ねる。


「運が良ければ死体を見るって、どういう意味ですか?」


「簡単だよ。順当にいけば、次に死ぬのは君の可能性が高い。しかし、運が良ければ他の者が先に死ぬ。君はその死体を見られる、というわけさ」


 小声で答えたペドロだったが、その内容はとんでもないものだ。公生は、血相を変えて尋ねる。


「それ、どういうことですか?」


「言葉の通りさ。君は、日本語が理解できないのかい?」


 ペドロが聞き返してきた時だった。突然、井川が立ち止まり叫ぶ──


「おい! 死体がないぞ!」


「ほ、本当だ!」


 永井も叫び、慌てて辺りを見回す。百目鬼と柳沢はというと、口を開けたまま立ち尽くしていた。


「どういうことかな? 死体は、ここにあったのかね?」


 冷静な口調で尋ねたペドロに、百目鬼は頷いた。


「ああ。確かに、ここにあったんだ。私が確かめたし、皆も見ている」


 その声は上擦っていた。額には汗が滲んでいる。冷静な百目鬼が、こうまで取り乱すとは……。

 

「なるほど。ひとつ確認したいのだが、小林くんは、間違いなく死んでいたのだね?」


「間違いない。私がちゃんと確認した。心臓も止まっていたし、脈もなかった。動けるわけがない」


 答えた百目鬼の顔は、死人のように青ざめていた。

 





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