9.作戦1
「そうなんだ、本当にいい女なんだ。リリベルには従兄弟として幸せになって欲しい」
穏やかな笑みで言葉を紡ぐハリスを見て彼女は幸せな女性だと思うウィリアム。
「だからやっちゃうのを手伝ってくれないか?」
ん?なんだ急にその物騒なセリフは。
「やっちゃう?」
「マルコを懲らしめるんだ」
「どうやって?」
「君を使って」
「………………」
いやいや、そんな当たり前のように言われても、なぜそうなるのかわからない。自分の顔が強張るのを感じる。
「君とリリベルの仲睦まじい様子を見せつけるんだ。あいつにリリベルのお相手はお前だけじゃないんだとわからせてやるんだ。結局僕はね、リリベルが一途にあいつを想って…………はいないけど、婚約破棄しないことをわかっているからマルコは調子に乗っているのだと思うわけだよ」
腕を組み一人うんうんと納得しているハリスの思考についていけないが、彼の言葉は尚続く。
「お相手を兄上にも相談してみたんだが、地位も性格も何よりも顔が!顔が!その顔が!帝国で一番イケてるのは君だと一致してね。というわけで協力してくれ」
え、えーと皇子が自分にやらせたいことは……
「フライア公爵令嬢と自分の仲睦まじい様子を見せつけて危機感を募らせ、義妹優先の態度を改めさせようというわけですね」
「違う」
「違う!?」
そう言っていたではないか!?ではなんだというのか。
「自分がやっていることがいかに愚かなことかわからせ、ついでにリリベルを奪うんだ」
「は!?」
奪う!?誰が!?自分が!?
「君ならできる!リリベルは面食いだ!その顔面偏差値ならいける!」
ハリスの言葉に頭がくらくらしてくる。だが倒れるわけにはいかない。
「彼女の心を落とす……はさておき、そもそもフライア公爵令嬢は婚約破棄したくないのですよね?浮気もどきの行動に同意されるとは思えないのですが」
仲睦まじい様子を見せつけるには彼女もこの作戦に同意しなければならないはず。なんかこう話を聞く限り頑固そうだ。婚約破棄したくないと豪語するからには軽はずみな行動はしないと思う。
「同意するしないではないよ。させるんだよ。私の婚約者とその友がね。優秀なのはリリベルだけではない」
ちらりと上目遣いで見られ、ドキリとする。なんとも不思議な人だ。適当に物事を考えているようで深く考えている。そう思った途端に考えていないような印象を人に与える。
「ああ、最悪浮気だとかこじれて伯爵家がいちゃもんをつけてきても安心してくれ。皇家とフライア公爵家が上手くやるから。それにほとんどの貴族があんなやつとリリベルとの婚約は破棄するべきだと思っているからね」
「フリ……ですよね?」
「フリというか、普通に友人として過ごしてくれれば良いよ。君たちは公爵家出身なんだから今後も深く関わっていくことになる。仲を深めておいて何も悪いことはないさ」
まあ、確かにそれはそうである。
「君たちが結ばれることを私は願っているが、フリをしていく中で君たちは互いを意識すると確信している……なぜなら僕の勘がそう告げている!だが破棄後に君たちがどうするかは君たち次第だ」
いやいや、それだけ言われて君たち次第と言われても……だが、まあ悪い提案とも言い難い。彼女はとても魅力的な人だと思う。
「彼女を奪うことについては今は同意致しかねますが、仲睦まじい振りについてはフライア公爵令嬢が納得されたときには協力致しましょう」
「ありがとう!よろしく頼むよ!」
手をガシリと掴まれ上下にブンブンと振られる。あまりにものご機嫌な様子にハリスの後ろに尻尾がブンブンと動いているようにさえ見える。
「殿下図りましたね?」
「剣の達人は良きライバルに心惹かれるものだ。それが美しい美女であればときめかずにいられるわけがない。剣を打ち合わせれば人となりもわかるというしな。私には才がないのでわからないが」
やはり華闘でリリベルに興味を持たせるように動いたのだろう。片目を瞑るハリスに少し意地悪がしたくなった。
「そんなにご令嬢が大切なのであれば殿下が婚約者になられていればよかったですね」
「ははははは!私には私の最愛がいるのだよ。というか冗談でもやめてくれ。あんな規格外女が妻などと……考えただけで震えが」
えー!?
ガタガタと震えるハリスに目を瞠るウィリアム。あんなにプッシュしておいて!?
「しかもリリベルの母親はあのお方だぞ!?あの見た目が変わらぬ妖怪ババア!口も悪ければ性格もキツイ!女帝エレノア!彼女が義母とか寿命が吸い付くされるーーー!!!」
ブルブルブルブルと更に震えるハリスに呆れるしかない。
「お、城についたようだ。世話をかけたな」
「……あ、は、はあ」
もはや呆然とするしかないウィリアムを気にすることなくさっさと馬車を降りるハリス。
「では、宜しく~」
ヒラヒラ~と手を振るハリスに見送られながらウィリアムを乗せた馬車はガタゴトと動き出す。馬車を見送りながらハリスは呟く。
「ウィリアム・リース……」
公爵家の子息。申し分のない相手。性格も擦れていなさそうだし気に入った。
「振りで終わるはずなどない。きっとお前はリリベルに落ちるよ。だからお前も彼女を必ず……「ハリス殿下ー!」」
一人ぶつぶつと呟いていたハリスに侍従が何やら叫びながら駆け寄ってくる。
「陛下がお怒りですー!馬車で帰ったなー!走って帰って来いと言っだろう!とのことですー!」
「やっば……!」
そう言い、父に言い訳するべく駆け出したハリスだった。




