70.親のせい?
「時間が経てばきっと彼女のことは忘れるわよ」
「どれくらいかかるのよ?」
「さあ……数年か十数年か……。その間にあなたも他にいい人を見つけなさいよ」
「彼以上の顔に会えるとは思えない」
「結局顔なのね」
「仕方ないじゃない。私は顔に惹かれるんだもの」
2人はままならないキャシーの心に同時にため息を吐いた。
~~~ 学園 ~~~
今日も今日とてぼんやりと学園内を歩くキャシー。
とぼとぼとぼとぼと歩く姿は家を出る時にエレノアに辛気臭い!と文句を言われたが生徒達には悩ましげで色っぽいと目に映るよう。
きゃあという声が聞こえてくる。
野太い声も混じっているような気もするが気のせいだろうか。
キャシーは前から歩いてくる一団に足を止める。
一人の男を中心とし5人程の女生徒たちが彼にくっつこうとしのぎを削っている。華やかといえば華やかなのだが、殺伐として近づきたくない。
「キャシー!」
回れ右をしようとしたキャシーだったが、呼び止められて仕方なく足を止める。
「ご機嫌ようバード。今日もあなたの周りはとても華やかね」
くるりと振り向き、女生徒に囲まれる男――バードに笑顔を向ける。
「確かに華やかだけど……。彼女達が束になっても君一人には敵わないよ」
ひっ……!
甘いマスクから零れる甘い言葉。
そして突き刺さる女生徒からの強烈な視線。
本来ならくらっとする場面なのかもしれないが時と場所を考えてほしい。
すっと少し目を細め女生徒たちに目を向ければ逸らされる視線、そして彼女達は気不味そうにバードから離れていく。つくづく自分に権力や美貌を与えてくれたエレノアには感謝である。
「キャシー僕を独り占めしようとしてくれて嬉しいよ。
でもそんなことしなくても僕の心は君だけのものだよ」
いや、勝手に散っていっただけなのだが……。
そんなことを思いながらバードに近づくキャシー。真っ直ぐ自分を見て逸らされることのない視線。他の女性を見ることのない視線。ロジェミアとは真逆だ。とても心地良い。
だが――
「心は私のものでも身体は私だけのものではないんでしょう?」
その言葉に肩を竦め困ったような表情をするバード。
「ではずっと君が側にいてくれるかい?」
「可能な限りは。身体は離れていても心が繋がっていれば寂しくないはずよ」
「それは君の理論だ。僕は夜誰かが側にいないと耐えられないんだ。君はフライア公爵家の姫君だ。僕と婚姻したとしても社交や外交などで家を留守にすることが多いだろう?僕が仕事ならいいけど……一人寂しく家で待つことなんてできないよ」
キャシーは皇族の血を引く娘。外交も担うことがある。全てに夫を連れて行くことはできない。
「使用人がいるわ」
「使用人から愛人に早変わり⋯⋯なんてね」
「サイテー」
「仕方ない。僕はこういう人間なんだよ。でも君を思う気持ちは本物だ。キャシー誰よりも大事にするから僕のものになってよ」
そう言ってふわりと微笑む顔はキャシー好みの美形で頷きたくなる。
「あなたが私だけを見てくれるのであればすぐにでもあなたと婚約するのに」
ロジェミアの心は自分のものになりそうもないし。
「君だけを見るよ⋯⋯⋯⋯ただ身体は他の女性にも触れさせるけれど」
「ははっ」
クズだ。
乾いた笑いがキャシーの口から溢れる。
「仕方ないじゃないか。僕をこんなふうにした親が全て悪いんだよ?僕のせいじゃない」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
キャシーの目が冷たく光ったことに彼は気づいているだろうか。
彼がこんなふうになったのは全て親のせい?
そんなわけない。
確かに彼の親はあまり褒められるような行動はしていない。まあ所謂育児放棄というものをしていたのだから。
彼の両親はお互いに幾人もの愛人を抱え、ろくに家にいなかったらしい。彼の面倒をみたのは乳母だった。この乳母が良いのか悪いのかわからないが超超超溺愛魔人だったらしい。
彼の両親が不在であることへの寂しさを優しく受け止め、常に彼の側に侍り、夜も同じベッドで寝ていたそう。
本当に
まじで
共にいたそうで――
彼の側から離れなければできない仕事は他の使用人に放り投げ、お風呂も共に入っていたとのこと。
離れるときといえば生理現象であるお花を摘みに行くときくらいだったそうだが、そのタイミングもなるべくバードに合わせて済ませていたそうだ。
そして月日が経っても同じベッドで寝続ける生活は続き、親子関係のような間柄であったはずだが所詮他人の男女。親子ほどの年の差があったものの男女の仲へ。
仕えるべき主人の息子と使用人の禁断の愛。両親にバレないように密かに育まれ、バレた後は両親の反対を押し切り結ばれる――――
なんてことはなく。
ろくに仕事をしないくせに誰よりも高給な彼女に味方などいるはずもなく使用人たちにより早々に伯爵夫妻にバラされ屋敷を追い出された。
ちなみにバードはこの時特に抗議も何もしておらずただただいつもほとんど会話をしない両親が自分を見て話しかけてくれる状況に笑みを浮かべていたそう。
だが彼女がいなくなって気づく。自分の側に誰もいないことに。両親は相変わらず愛人宅通い、使用人たちはそれぞれ仕事を抱えている。
乳母のようにずっと側にいてくれるものなどいない。
だから彼は学園や社交場などで自分の顔にふらふらと寄ってくる女性たちを家に連れ込むようになった。あまり良い評判ではなかったものの、一応連れ込む者たちも貴族のご令嬢ばかり。
その中の誰かと結婚しても特に支障がないからと両親も放置。顔が整っているから寄ってくる女性も盛りだくさん。お互い遊びと割り切った女性が多く揉め事も皆無。
バードの側には常に誰かがいる状態へと戻った。




