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公爵家の女たちは男運だけがない  作者: たくみ


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68.恋敵

 せっかく強国である帝国の万能公爵家に生を受けたというのに――なぜこんなぐるぐると悩まなければならないのか。


 というかむしろその家名こそが色々と障害になっている。


 でもそもそもロジェミア王子はその家名があるからこそ自分に近づいてきているのであって、それがなければ近づいてきていなかったわけで。


 結果やっぱりフライア公爵家に生を受けて良かったということなのか?


「はあ」


 巡り巡る思考にキャシーは思わず悩ましげな息を吐く。


「……そんなに好きなの?」


 なんとも悩ましげな表情は周囲の者の心を動かすほどに色っぽい。だが彼女と同等の美貌を誇る姉のリリベルが動じるはずもない。


 彼女が浮かべるのは妹を案じる姉の表情。


「うん」


 ロジェミアが好きだ。


 ちなみにバードも気になってしまう。








「……………………………………彼らの顔が?」


「うん」


 本当に本当にタイプなのだ。


 あの女顔が。


 性格?あの美しい顔を見てしまえば性悪だろうとなんの欠点にもならない。


 ウィリアムやルシアンのような男性たちをかっこいいと思う感覚だってある。だがこうときめかない。


 中性的な顔にキャシーはときめくタイプだった。


「………………あなたは自分から破滅していくタイプね」


「失礼な」


 リリベルの呆れた視線をひしひしと感じながらキャシーは冷めた紅茶を飲み干した。





~~~~~~~~~~



 カーン……


 カーン……


「ではここまでで授業は終わり。良いランチタイムを過ごしてください」


 授業終了の鐘が鳴り教師が教室を出ていく。


 それと同時にランチの誘いをかけて来ようとするクラスメイトから逃げるように慌てて教室を出るキャシー。


 あまり食事をする気になれないので散歩でもしようと思ったのだ。


 一人歩くキャシーとすれ違う人々は軽く目で挨拶をしてくるが声はかけてこない。声をかけるなオーラがダダ漏れだからだ。


 何かを考えるでもなくぼーっと暖かい日差しのもとゆっくりと歩くキャシー。少し考えることに疲れてしまった。


『ペネロペ放課後新しくできたカフェに行かない?』


『ペネロペ私もご一緒していいかしら?』


 そんな声が聞こえてきて学園にある庭園の前で足を止める。ベンチに座る者や敷物に座る者がチラホラといる。その中に談笑しながら持参したであろうお弁当を食べている女生徒が5人いた。


 その中心にいるのはキャシーの意中の人であるロジェミアの意中の人であるペネロペだ。彼女が微笑む度に、そして声を上げる度に友人たちは盛り上がる。


 その様はとても楽しそうで華やかでキャシーにも庭園にいる学生たちはチラチラと彼女達を見ている。 


 その視線は微笑ましいといわんばかりに穏やかだ。


「…………………………」


 自分に向けられる視線とは大違いだ。自分だって彼女とは比べものにならないほど多くの視線を集めていると自負している。

  

 だがどこかその視線は鋭いようにキャシーには感じる。


 妬み嫉み、下心、媚び……そんな感じだ。


「何を見ているんですか?」


 後ろから声をかけられる。


 軽く深呼吸をしてから後ろを振り向く。


「ご機嫌ようロジェミア王子様。学園に何かご用でもあるのですか?」


 そこには今日も美しい顔に美しい微笑みを浮かべた隣国の王子ロジェミアが供の者も連れずに一人で立っていた。


「ええ。優秀な人材を我が国にスカウトしようと思いまして、学園長に相談に来ました」


「まあ、帝国の未来ある若者を引き抜かれては困りますわ」


「帝国には優秀な人材が溢れております。溢れ過ぎて優秀であろうとももっと優秀な者に立場を奪われる者はたくさんおります。どうせ帝国で燻る才能であれば隣国がいただいても良いでしょう?」


 目を見てふわりと微笑まれては思わず頷きたくなってしまうではないか。視線を逸らそうとするが一歩近づいてきた彼からは視線を逸らせなかった。


「キャシー様が推薦される優秀な方はおられますか?」


 ロジェミアの手が上がりキャシーの顔にかかる髪の毛をゆっくりとどかす。


「そうですねぇ……」


 自分から離れていく手を名残惜しげに見つめるキャシーにロジェミアは軽薄な笑みを浮かべる。


 簡単な女とでも思っているのかしら?


「特別な美貌、話術を持つわけではないのに人を惹きつける才能。春の陽射しのような暖かい雰囲気で人の心を溶かす方。実家はそれなりのお金持ち――」


 ロジェミアの瞳が僅かに見開かれる。


 誰と言っていないのにこれだけで誰のことを指しているか察するなんてどれだけ彼女に夢中なのか。今度はキャシーの顔に軽薄な笑みが浮かぶ。


「――あちらにおられるペネロペ様などはとても優秀な方だと思いますわ」


「…………お人が悪い」


 口元を引きつらせながらキャシーから一歩離れる。


 お人が悪いのはどちらなのか。


 私の気持ちをわかっていながら、利用しようと近づいてくるくせに。堂々と近づくのであればもっと完璧に振る舞えば良いのに。


 今も彼はキャシーに視線を向けようとしながらも愛しい彼女をチラチラと盗み見ている。わざとか無意識か。


 恐らく無意識でしょうけどね。



 トトっと走り寄ってくる音が耳に届くと同時に彼の目がとても優しげな眼差しに変わる。


 あらあら――。


「キャ、キャシー様!ごご、ごご機嫌よう!」


「ご機嫌ようペネロペ様。」


「と、とんでもございません!わ、わわわわ私キャシー様に憧れていて!年上なのに憧れとか変ですよね!?でも本当に憧れていて……。なかなかお話する機会もなくて……。思わず声をかけてしまいました。もうお昼はお済みですか?良かったらご一緒にいかがですか!?」


 裏返る声から勇気を出して声をかけてきたのがよくわかりなんとも微笑ましい。とはいうものの相手は年上でその友人たちも年上だ。


「申し訳ございません。食堂に行く途中だったのですが庭園の美しさに足を止めただけですの。お弁当を持参した際には是非ご一緒させてくださいね」


「は、はいいいいぃ!楽しみにしています!」


 なんとも可愛らしい方だ。どちらが年上かわからない。


 恋敵とはいえその柔らかい雰囲気に感心していると彼女の顔が強張ったのに気づく。


「……ロジェミア様いらしたのですね。ご機嫌よう」


 どうやら柱があって彼女は彼の姿には気づかないままこちらに近づいてきたようだ。


「ああ、久しぶりだな。元気か?」


「え、ええ」


 下を見るペネロペと気まずそうにしながらも喜びが隠しきれていないロジェミア。


 逃げたい。


 2人が向かい合っているのを見るのが心苦しい







 からではない。




 重い。


 非常に重いのだ。


 何が?






 空気が、だ。









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