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公爵家の女たちは男運だけがない  作者: たくみ


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64.キャシーの恋愛事情

 リリベルの婚約者であるウィリアムは父親が開いた夜会で挨拶回りをしながらある人を探していた。


 愛しい婚約者は今日は残念ながら皇帝から頼まれた仕事があるようで彼の隣は空席である。少しばかり寂しいが仕方ない。


 エレノアとマーシャも多忙なようで将来の義妹が夜会に参加すると連絡があった。パートナーを連れてくるでもなく一人で参加すると聞いていたので寂しい思いをしていないかと探しているわけなのだが。


 あ、いた。


 一人だ。


 そう一人……


 なのだが……


 ウィリアムは足を止めた。






「はあ……」


『はあ……』


 華やかで皆が楽しげに歓談する夜会にふさわしくないため息がキャシーの口から零れる。


 だがその物憂げな姿は陰鬱さなどなく、長いまつ毛が影を落とし僅かに開かれた口はなんとも艶めかしい。一枚の麗しい絵画の如き美しさに周囲の者たちは心の中で感嘆の息を漏らす。


 声をかけこの光景を壊すなどそんな愚かな真似はできない。心が一致した彼らは誰一人彼女に近づこうとはしない。


 キャシーを中心としてできた輪はなんとも異様というのか近づいてはいけないオーラが立ち昇っている。


 



 今声をかけるべきかかけざるべきか……。


 うん、決めた。


 あれだけたくさんの彼女に憧れる者がいれば寂しくなどないだろう。ウィリアムは後で挨拶をしようと回れ右してそこから遠ざかる。



 未来の義兄の行動をぼーっとしながらも何気に視界に捉えていたキャシーは彼の足が遠のいたことに目を細める。


「えー……そりゃないでしょ」


 ぼそりと呟くキャシー。この見世物状態から助け出してくれても良いのでは?


 呆れる気持ちを飲み込むかのように手に持っていたグラスを傾け口づける。キャシーが動き出したことで周囲の者たちが彼女に声をかけようと互いを牽制しながら静かな戦いを繰り広げる。




「ご機嫌ようキャシー!」


 一人の男の声が輪から聞こえ、人々はその男を妬ましげに見つめるものの彼のために道を開ける。


「ご機嫌ようバード…………今日も美しいご令嬢たちと一緒なのね」


 キャシーの前に進み出た男は一人ではなかった。彼の両腕には胸元を強調するようなドレスを着たご令嬢がしがみついている。


 2人共物凄い形相でキャシーを睨みつけてくるので少し怖い。キャシーに向けられた視線を取り戻したいのかぎゅっとバードの腕に胸を押し付け彼の顔を見上げる。


 そして頬を赤らめる。その目はとろんとし熱に浮かされているかのよう。


 彼女たちのそんな表情を視界に捉えたキャシーはバードの顔をしかと見つめる。


 淡いクリーム色の髪の毛と髪の毛より少し濃い茶色の瞳。色合いは特筆するところのない平凡な感じだ。だがその顔は完璧な左右対称にしてそれぞれのパーツの配置も瑕疵一つなくとても美しく整っている。

 

 姉の婚約者であるウィリアムやルシアンのような男性的な精悍なカッコ良さは皆無だが、中性的でとても美しい男。


 それが目の前に立つ男――バード・ラシス伯爵令息御年18歳。


 キャシーの父が言っていた顔が取り柄の伯爵家の馬鹿息子だ。


 ラシス伯爵家は権力はなく少し貧乏気味かな?というくらいの家柄だが、とにかく顔が良い一族だった。バードの父も凄まじく美しい男で超金持ちの面食い娘を娶った。


 だがバードの母は浮気三昧の夫に愛想を尽かし、自らも愛人を作り実家からの援助もほとんどを愛人に貢いでいる。


 なぜ離婚しないのか?

 

 捨てるには惜しい顔だからだそう。


 父親に瓜二つのバードも非常に美しい男でモテモテだ。そんな家で育ったバードは少し恋愛に関して貞操観念が緩めだった。いつも彼の周りには女性が溢れている。



 一心に嬉しそうに己を見つめてくるバードにキャシーはため息が出そうになるのを堪える。多くのいい男に囲まれているキャシーから見てもその美貌は本物だ。


 そして――



「キャシー今宵の君もとても美しい。今夜こそ僕の気持ちにイエスと答えてくれることを祈っているよ」


 真っ直ぐに向けられる視線は熱がこもり熱い。錯覚などではなく、彼は自分を求めてくれている。そう信じられる瞳。


 例え心の中に他に愛しい者がいようとこれほど美しい男に求愛されてぐらりと揺れない女がいるだろうか。いや、いない。


 彼に致命的な問題さえなければキャシーとて胸の中にでんと居座る男がいようとも彼の想いに応えていたかもしれない。


 程度次第ではあるが頭が悪くても権力がなくても金遣いが荒くてもそんなものはフライア公爵家の権力と財力をもってすれば些末な問題と言えたかもしれない。


 だが彼の問題はそんなものではなく……


「……では私だけを愛してくれるかしら?」


 口元を扇子で隠したキャシーはバードを上目遣いで見る。その様はなんとも色っぽくバードはゴクリと息を呑む。そして答える。



「それは無理だね」



 とびきりの笑顔付きの言葉にキャシーは顔面にパンチをくれてやりそうになる気持ちを必死に抑えた。




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