63.父と三女
「マーシャ姉様の結婚式の日取りが決まったわ」
「そうか僕も是非とも見たいものだ―――――エレノアの麗しいドレス姿を」
「主役はマーシャお姉様よ」
呆れるキャシーの前には父親がゆったりと椅子に腰掛け長いお御足を組んでいた。その足には相変わらずじゃらじゃらと足枷がついている。
「それはさておき何の用だい?さしずめ恋の悩みと言ったところだろうか」
「……正解」
父親の勘なのか、密偵でもいるのか。
「そんなものではない。愛しいエレノアもマーシャもリリベルも才能に溢れ何か相談するのにうってつけだ。だが君は今ここにいる。3人が役に立たないことと言えば恋愛だ。そればかりはもはやなんの役にも立たないだろう?」
「こわっ!」
声に出していないのに心の声に反応した父親に恐怖を覚える。
「……ていうかお母様のこともそんなふうに言うんだ」
「ははははは!君は自分の娘を殺そうとする父親を普通だと思うのかい?」
「いいえ、全く」
「であればそんな男に捕まったエレノアは男運が間違いなく悪いだろう?」
「…………そうですね」
なんと――ちゃんと自分がおかしいと自覚があったとは驚きである。
「で、相談事とはなんだい?」
「察してるんでしょ?」
「察していようともちゃんと相談者の口から聞くべきだろう?もしかしてこちらが思っていることと違ったら
どうするんだい?」
「………………」
今日の父親はまともだ。普通の父親だ。
え、父親のマスクをつけた別人じゃないわよね?
まじまじと顔周辺を確認するが線はなさそうだ。
「気が済んだら用件を言ってくれるかな?」
「あ、ええ」
一旦言葉をきり深呼吸をする。
「自分に気持ちがあることは間違いないけれど致命的な問題がある男性と私の心を奪いながらも他の女性に心があり気持ちもないのに迫ってくる男性どちらを選ぶべきかしら?」
問われた父は即答せず足を組み替えた後
天を仰ぐ。
「なぜフライア公爵家の女たちはこうも男運が悪いのか」
「やっぱり?」
「どうでも良いと言いたいところだが、真面目に答えよう。お前が言っているのは顔が取り柄の伯爵家の馬鹿息子と野心たっぷりの隣国の第二王子のことで間違いないな」
まっすぐ見つめられたキャシーはその通りだとコクリと頷く。それを見てうんうんと頷いた後父親は実によい笑顔でニカッと笑う。
「2人共クソだからやめろ」
言葉を聞いたキャシーもニカッと笑う。
「無理。だってなんか気になっちゃうんだもん」
ニコニコと笑う2人の間には人には見えざる火花が散る。
「何よー!お姉様たちには好きにしろみたいなこと言っておいて私はなんでダメなのよ!」
「答えは簡単だ。相手がクズだからだ。そして君が私に少しばかり似ているからだ」
「やめてよ!お父様に少しでも似てるとかありえないですからあ!」
ヒィィィと悲鳴をあげるキャシーは鳥肌を収めるため腕を撫でさする。
「失礼な。少しだけだと言っているだろう」
「少しも嫌よ!いえ、百歩譲って顔が似るのは構わないわね。ていうかどこが似てるのよ!?」
「恋愛脳なところがだ」
「はあ!?お父様と一緒にしないでよ!私はお父様みたいに相手以外はどうでもいいなんて思わないわよ!」
「マーシャは家に害になるであろう婚約者はバッサバッサと切り捨てていただろう?リリベルはまあ……シスコン野郎とは離れる運命だった。だが君は家に迷惑になるであろう男と結ばれようとしている。害しかない諦めろ」
父親の言葉にむすっとした表情をするキャシー。
「お姉様たちだって好き勝手してるようにしか見えないけど」
一人は婚約者をコロコロ変えた姉。
一人は皆の勧めを跳ね除け婚約破棄など嫌だと散々駄々をこねたあげく結局解消し、別の人と婚約した姉。
「その言葉を否定するつもりはない。だが2人は結局家にとって害のない相手をちゃんと選んだぞ?君は相手に尽くすタイプだろう?嫌な予感しかしないぞ」
うーん……まあお願いされればなんか尽くしちゃうかも。
「でも……結婚ってそんなものじゃん。利用できるものは利用すればいいし、援助だってどこの家でもしてることじゃない?」
「はっはっはっ!どこの家でも?フライア公爵家をその辺の貴族家と同じ扱いをするものじゃないよ」
「…………それは……そうだけどさあ」
くくっと喉で笑う父。
「現実から目を逸らすなど愚かな真似をするもんじゃないよ。まあ君の気持ちが全くわからないということもない。2人というところはよくわからないが、恋に落ちれば正常な判断などできぬもの。だが私はエレノアがこの世で一番大事だ。だからお前の気持ちはどうでも良い。一つ言えるのはエレノアに迷惑をかけるな」
「………………私が彼らを制御したらいいだけじゃないの?」
「できるのであればな」
「私にはできないと?」
「多くの女性のうちの一人として扱われ、他の女から心を奪うこともできないお前が何を制御する?」
「…………………………」
完全に黙り込んでしまったキャシー。父はゆっくりと目を瞑る。
それは話は終わったと思ったからか。
何か思考を巡らせているのか。
キャシーにはわからなかった。




