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公爵家の女たちは男運だけがない  作者: たくみ


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60/72

60.突撃侯爵家

  ~スラーク侯爵邸~


 ドタバタドタバタ


「違う!それではない!あちらのものだ!」

 

 ドタバタドタバタ


「だから違うっつの!こちらのものだっつうの!」


 ドタバタドタバタ


「ちょっとここ!ちょびっと埃が残っているわよ!」


 ドタバタドタバタ


「おい!なんだこの菓子の盛り付けは!もっと華やかにしないか!」 


 侯爵邸では使用人たちがドタバタドタバタと足音を立てて各自の仕事を常の数倍いや、数十倍神経を尖らせてしていた。だがそれを咎める侯爵家の者は誰もいなかった。


「変じゃないか!?」


「変よ!なんでそんなひらひらのシャツにするのよ!おっさんがキモいのよ!」


「き、きも……」


「さっさとこちらを着る!」


 当主は娘(ルシアンの妹)に服のダメ出しをされ……


「お、お義母様……それは少々地味かと」


「え!?だって華やかなものでは失礼じゃない?」


「いえ、あの……地味すぎても失礼かと……」


 当主夫人は未来の義娘(ルシアンの兄の婚約者)にダメ出しを食らっていた。


 即ち、皆人のことなど構っていられる状態ではなかった。




「いらっしゃいました!フライア公爵家が到着されました!」


 なんとか皆で力を合わせ取り繕ったころに公爵家の馬車が遠目に見え、慌てて外に飛び出し公爵家を迎えた。


「い、いらっしゃいませ~!公爵様!ご令嬢様!」


「公式の場ではないのですからそのように頭を下げる必要はなくってよ。私達は姻戚になるのだから、家族よ?」


「な、なななななななななななんたる光栄なお言葉!しかし……あの、そのー…………」


 かちこちに固まる候爵に馬車から降りたエレノアとマーシャは苦い笑みを零す。マーシャはその場から一歩足を踏みだしスカートをつまみ頭を下げた。


「マーシャ・フライアにございます。婚約の許可をいただきに参りました。ご立派な御義父上、御義母上にふさわしい義娘になれるよう邁進するつもりでございます。末永くどうぞ宜しくお願い致します」


「「………………」」


 いや、返事ないんだけど。


 その場は一瞬奇妙な沈黙に満ちた。が一人平然とエレノアが口を開いた。


「マーシャ頭をお上げなさい。気絶していらっしゃるわ。ほらあなたたち何を固まっているの?ちゃんとお支えしてさしあげなさい」


 緊張している中、格上の令嬢に頭を下げられピークに陥った侯爵夫妻は気絶していた。エレノアの言葉によってそれに気づいた人々は皆慌てて動き出した。




~~~~~~~~~~



「「大変申し訳ございません!」」


「そのように緊張なさらなくてもよろしくてよ?」


「ええ、同じ人間なのですから。家族になるというのにそのように距離を置かれては寂しゅうございます」


 なんとお優しい。夫婦の目に涙がじわりと浮かぶ。


 だが無理だ。同じ人間だとは思えない。そもそも見た目からして既に女神。経済力も血筋も権力も自分たちではお話にならない。


「……なんとも光栄なお言葉ですが、侯爵家とは名ばかりの一族ですので」


 ぽつりと溢れた言葉にエレノアとマーシャは顔を見合わせる。


「そして…………今回のご提案についてですがお断りしたいと思います。うちが相手ではフライア公爵家の名に泥を塗ることになると思いますので……」


 侯爵家とはいうものの歴史があるだけで他には何もない。真面目すぎ、愚直すぎ、柔軟性がない故に皇帝に厄介な存在のように思われどんどん落ちぶれていった。


 絶世期であれば……もちろん同等とは当然言えないが喜んで受け入れたのだが、何も持たぬ皇帝に嫌われた家が皇帝と縁深い家とつながるなど無礼な真似はできない。


「いいえ、受け入れていただきますわ」


 沈痛な面持ちの当主に声を掛けたのはマーシャだった。


「私が彼を手に入れようとしていることは皆知っております。彼を手に入れられなければ私がどのように見られるかおわかりになるでしょう?私に恥をかかせるおつもり?」


 こてんと小首を傾げたマーシャは実に美しい。


 美しいのだが侯爵にとっては悪魔が目の前に降臨したかのような錯覚に陥る。


 ぶわあ……と無言で大量の汗をかき始める当主に家族のものは慌てふためく。


 また気絶は勘弁してくれよ!?


「マーシャあまり圧をかけるとまた気絶してしまうわよ」


「あらお母様、相手に配慮して言葉を慎めなどと仰るの?」


「言うわけないじゃない。あなたの義父母になる方なのだから良好な関係を結んでおいたほうが良いと思っただけよ。ご当主も謙遜なさって断るふりをなさっているだけに決まっているじゃない。我が家からの申し出を断るわけなどないのだから。ねえ?」


 こちらもまたコテンと小首を傾げるエレノア。


 その様は侯爵には大魔王が圧をかけているようにしか思えない。


 ちらりと視線を向けられた侯爵は泡を吹きそうな思いだった。もういっそ気絶してしまいたい。だがその強過ぎる視線がそうはさせてくれない。

 

 彼ができることは一つだけ


「…………は…………はぃ……」


 聞き取れるか聞き取れないか微妙な声の大きさだったが、公爵家の2人にはしっかり聞き取れた。笑みの形を彩るマーシャの唇。そのまま言葉を発そうとしたが止まる。


「お待ちください。私は婚約など致しません」


 声を上げたのはルシアンだった。




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