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公爵家の女たちは男運だけがない  作者: たくみ


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6.伯爵家の事情

 場所は変わりフライア公爵邸執務室にてエレノアとマーシャは執務の区切りがついたので休息をとっていた。


 先程侍女が淹れてくれた紅茶の芳しい香りが部屋中に広がっている。カップに口をつければ政務で疲れた身体にじんわりと温かく染み渡る。


「お母様」


「?」


「リリベルの婚約はあのままにしておいて良いの?」


「あらあらまず自分の婚約の心配をした方が良いんじゃない?」


「ま、それは横においておきまして」


 見えざる何かを持ち上げ横に置く動作をしたマーシャは答えを催促するかのようにエレノアをじぃと見つめる。


「リリベルの人生はあの子が決めれば良いのよ」


「ふぅん。でもあのシスコンと結婚してもうちになんのプラスにもならないし、マイナスにしかならないのに。リリベルもきっと不幸になるわ。


 そしたらリリベルの不幸はお母様が勝手に結んだ婚約のせいってことね」


「マーシャあなた言うじゃない」


 エレノアに強くギロリと睨まれるがマーシャは軽く肩を竦めるだけだった。そんな娘の姿を見て軽く息を吐くエレノア。


「ま、人となりもわからないうちに婚約させたのは確かに私だけれど。でもまさかあの子が儚くなるなんて思わなかったんだもの仕方ないじゃない」


 あの子とはマルコの生みの母にして彼が3歳の時にこの世を去った前タバサ伯爵夫人のことである。エレノアと前伯爵夫人は学生の頃からの大の親友だった。


 だからこそリリベルとマルコの婚約が結ばれたのだ。本来であれば帝国一の名家であるフライア公爵家の娘とドレスショップを一つ持っているだけのその辺のタバサ伯爵家の息子との婚約が整うはずがない。


 ちなみにそのドレスショップももともとはマルコの母のものだった。


 彼女の家柄は子爵家だったが当主の商才によりなかなかのお金持ちであった。デザインすることが大好きな子供にドレスショップをポーンと買い与えるほどに――。


 その店を訪れたエレノアが彼女の並外れたデザイナーとしての才能に惚れ込み恐縮する彼女に構うことなくアタックしまくり見事親友の座を勝ち取ったのだ。


 その後彼女はタバサ伯爵と恋に落ち、男の子を出産。1年後にリリベルを出産したエレノアと飲みの席でノリで結婚の約束をしちゃったりなんかした。


 とはいうものの伯爵家からの申し出により、幼少に顔合わせをした後交流が始まったのはリリベルが学園に入学してからだった。まあいまだに交流とよべるようなことをした覚えはないが。



「溢れる才能、優しさ、芯の強さ、私にも屈しない太々しい心を持った母親に育てられた子供なら良い感じの子になると思ったのに……あの女が継母になるとは思わなかったのよ」


 ギリ……と歯を憎々しげに噛み締める音がエレノアの口元から漏れ聞こえる。






 ギリギリギリギリギリギリギリギリ……


「お、お母様その辺で……歯が無くなっちゃうわ」


 いやいやいやいや、どれだけ苛ついているのか。やり過ぎだろう。


「あら失礼」

 

 ぱっと扇子を開き口元を隠すエレノア。


「伯爵も見る目がなかったってことかしら?」


 コクリとお茶を飲むマーシャの疑問にエレノアは少しだけ考えた後一度だけ扇子を扇いだ。


「さあ」


 見る目は多少あったはず。だってマルコの母と恋愛結婚をしているのだから。


「あの押しの強さに屈したのかもしれないわね」


 現タバサ伯爵夫人は男爵家出身で一応貴族だったが、家は貧しく玉の輿を狙っていた。が、あの性格が災いし結局結婚できたのはほんの少し裕福な平民の男性。その夫もセイラがよちよち歩きの時にこの世を去った。


 自分で働く気などなかった彼女はタバサ伯爵家のことを知り、猛プッシュをかまし子連れスピード再婚を果たした。


「あの人昔からああなのよ。グイグイグイグイ狙った獲物に鬱陶しいほど迫って、相手の言葉を自分の都合の良いように解釈して迷惑ばかりかけていたわ。なんで伯爵が引っかかったのか不思議よね」


 不思議と言う割に母の目には感情が浮かんでいない。これは何かを隠しているのかもしれない。だが母が正直に答えてくれるはずもなし。


「……夫人は何をしたいのかしら?リリベルとマルコの婚約を破棄して自分の娘と結婚させるとか?」


「かもしれないわね」


「え?それでなんの得があるの?義理とはいえ息子が公爵家の娘と婚姻した方が色々利があるじゃない。それにあの人リリベルの婚約者の家だからって色々威張ってるんでしょ?義息子と娘が結婚したらそんなことできなくなるのに……何がしたいのかしら」


「あなたは考えすぎよ」


「え?普通に誰でも思うことじゃない?」


「ほほほほほほ!あの女は何もかも持っている我が家が羨ましいのよ。だからリリベルの邪魔をしたがる。リリベルよりも自分の娘が大切にされているのが嬉しくて嬉しくてたまらないのよ。でもその一方でリリベルの婚約者の家ということでチヤホヤしてくる人もいるし、悔しそうな顔をする人もいる。愉しくて愉しくて仕方ない。


うちは気に入らないから婚約破棄させたい。公爵家の関係者として大きい顔をしたい。矛盾しているのに自分の気持ちしか見ず現実を見ないから単純なことに気づかない」


「……そんな人いるの?」


「残念ながらいるみたいね」


「…………やっぱり早く婚約破棄させましょうよ。そんな女と親戚とかムーリー」


「あなたはムーリーでも選ぶのはリリベルだと言っているでしょう」


「え、何何?なんか子供信じてるみたいな母親ヅラしちゃって」


「私はあなたたちの母親よ。まあ私の美貌とこのスタイルを見て母親と思えない気持ちはよおくわかるけれど!ほほほほほ」


「……………」


 冷たい視線などものともせず高笑いするエレノア。笑いを収めると足を組みマーシャをピタリと見据える。


「そんなに心配しなくても大丈夫よ。リリベルはこの私の娘なのよ?きっといつかあんなのは捨てて素敵な殿方を連れてくるわよ。もちろんあなたもね」


「お母様…………」


 見つめ合う母と娘の間に穏やかな空気が漂う。


「お母様はやべえやつと結婚したけどね」


「お黙り!」



 エレノアは吠えた。


 


 

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