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公爵家の女たちは男運だけがない  作者: たくみ


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57.つまらない

 皇太子を狙った暗殺者を捕まえてから早数ヶ月。ルシアンはマーシャが何かをするのではと警戒していたが特に何も起こらない。そのことに安堵するような寂しいような複雑な心境で日々過ごしていた。


 彼は今王都にあるそれなりに人気のレストランで水を飲んでいた。


 カチャカチャ


 キー…キー…


 カチャカチャ


 キー…キー…


 フォークやナイフが食器にあたる音が彼の耳に聞こえてきて目の前に座る女性に気づかれないように息を吐く。



「おいし~い!」


 声を張り上げながら満面の笑みを浮かべるのはユリアだった。


「このお肉めちゃくちゃ美味しいわよ!ルシアンそんなにゆっくり食べて食欲ないの?私が代わりに食べてあげるわ!」


 そう言ってルシアンの返事も聞かずにグサリと皿の上にあった肉にフォークが突き立てられユリアの口に運ばれる。


 いや、結構大きめのサイズだと思ったのだが……


 パンパンになった頬をルシアンは呆然と見つめる。


「デザートは何する?」


 ゴクンと大きな音をさせながら肉を飲み込んだユリアは次の獲物の物色を始める。


「私は結構だよ。ユリアは好きなものを食べるといいよ」


「じゃあこのビッグパフェにしよ」


「ゴフッ!」


 ルシアンは飲んでいた水を軽く噴き出しむせた。


 暫くとすると目の前にゴトリとビッグサイズのパフェが机に置かれ、周囲からの視線が痛い程突き刺さる。店のメニューとして一応存在するものの貴族がこんなに大きいものを注文したりはしない。


 まして一人で食べるためになんて。


 グワッと口を開けたユリアはルシアンや周囲の目を気にすることなくパフェを貪っていく。見ているだけで胸焼けがしてくるルシアンは水が進む進む。


「……最近共に過ごす時間が増えたな」


 なんとなくぽつりと呟いたルシアンの言葉にユリアは目をキョトンとさせる。


「もともとよく会ってたじゃない」


 確かにそうなのだが……そういうことではない。


 ユリアに気づかれないように店内を窺うルシアン。その目には眩いばかりに美しい人は映らない。その婚約者の姿も。


 今までは必ずいたマーシャとルイスの姿が店内にはない。


 ルイスはどうでもよいがマーシャの姿がないことにもやもやするのを気の所為だと思い込む。ユリアに笑顔を向け口を開く。


「嬉しいんだ」


「何が?」


「……他の男性といちゃついたり、その婚約者に不快な想いをさせたりとか……最近やらなくなっただろう?それが嬉しいんだ」


「はあ?もともとそんなことしてないし。そもそもユリアがモテるのは仕方ないじゃない。可愛いんだもん」


「…………そうだな」


 そう言うのならそういうことにしておこう。きっとユリアがルイスから離れたからマーシャも何もする気がなくなったのだろう。


 この前言っていたこともきっとユリアへの嫌がらせだったのだ。ルイスと懇意にするユリアに同じことをしてやろうとしただけのことだったのだろう。


 彼女が本当に自分を欲しがるなんてあり得ない。


 なんの取り柄もない自分にはそんな価値はない。


 だから彼女から向けられる美しく力強い瞳が忘れられないなんて考えるんじゃない。


 テーブルの上にある手をぎゅっと強く握るルシアン。その手が軽く震えているのに本人もユリアも気づかない。




 ユリアはルシアンの堪えるような表情に気づかない。だって興味がないから。そして彼女自身高笑いするのを堪えていたから。


 ばっかじゃないの?


 ユリアはパフェを貪りながら心の中でルシアンに悪態をつく。


 他の男といちゃつく?


 その婚約者に不快な想いをさせる?


 最近はやることまでやっちゃってるっつーの!


 目の前の安心したような、ユリアを信じ切ってるような顔を見ると無性に意地悪がしたくなる。歪ませたくなる。ぶっちゃけたくなる。だけど流石に婚約破棄は嫌だから内緒だ。


 結構な頻度でルイスとは密会を重ねているが、目の前の男は全く気づかない。調査をしたりもしないのだろう。だってユリアは婚約者だから。婚約者とは信じるものだから。


 馬鹿馬鹿しいと思うものの、この馬鹿さ加減故にユリアは好き放題していられるのだ。


 結婚後もルイスとは関係を続けるつもりだ。


 彼を好いているからではない。ルイスがマーシャのものだからだ。ムカつくけれど何もかも持っている女、自分には無いものをたあくさん持っている女。


 そんな女の男に愛される自分が最っ高に好きなのだ。



 ルシアンを手放す気ももちろんない。


 だって彼が婚約の申し入れをしてきた中で一番条件の良い男だから。こんなに自分は可愛いのに権力や金がある家からは婚約の申し込みがなかった。


 父はユリアの顔に期待してより良い条件の殿方を選ぶ為になかなか婚約相手を決めなかった。結局申し入れしてきたのはルイスとルシアンのみ。


 ルイスとルシアンであれば当然侯爵家のルシアンだ。金はないし権力もないが、それはルイスも同じ。顔の良さ、血筋の良さでルシアンを選んだのだった。


「ねえルシアンもうそろそろ結婚式の日取りを決めましょうよ」


 ユリアが上目遣いでルシアンを見るが何を考えているのか彼はユリアの方を見ない。


 ああ苛つく。


 だけど最近結構な頻度でルイスと密会を重ねてしまっているし、バレたら流石に婚約破棄されてしまうかもしれない。バレる前にさっさと結婚してしまわなければならない。


「……ああ」


 せっかく結婚してあげるというのになんなのだ。その気のない受け答えは。


 せっかく最近はちゃんとデートだってしてあげているというのに、冷たくないだろうか。


 少し前まではマーシャの反応を見るのが愉しくてルイスと彼女のデートの邪魔をしてやった。結果ルシアンと過ごす時間も少なくなっていたのだがなんか飽きたのだ。


 だってあの女……全く反応がないんだもの。


 強がりでもなく心から浮かぶ余裕のある笑み、それが無性に苛ついて苛ついて仕方ないのだ。だが考えれば理解できる。そりゃあ余裕だろう。あんなどうでも良さそうな男を取られたところで何もかも持っている女にとってはどうでも良いことだ。


 


 あー……つまらない。


 何か楽しいことはないだろうか。










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