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公爵家の女たちは男運だけがない  作者: たくみ


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54.取引

 やばいやばい。


「おいもっと速く走れないのか!?」


「は、はははは、はいぃぃぃぃぃぃ」


 くそ!はいと返事をしておきながら少しも速くなんてならないじゃないか。


 時間がなかったので早急に馬車を拾いたかったが近くにはなかった為少し離れたところにいた平民も利用する辻馬車に乗り込んだが、椅子は硬いし、歩みは遅いし最悪だ。


 イライラから足が揺れるのを止められない。


「っ!あ、あの!着きました!」


 扉の外から声がかけられた。


 やっとか!忌々しいとばかりにぼろぼろな床をあえて強くだんっだんっと歩く。扉を開けた御者は顔を青褪めさせるが文句など言えるはずはない。


 なにせこちらは立派な貴族なのだ。


「こんな遅い馬車始めてだ!こんな馬車に金なんて払えるか!」


「そ、そんな……」


「あ!?」


「な、なんでもございません」


 下を向きながらオロオロする御者に歩み寄りじっと見下ろす。


「違うだろう?」


「……!?」


 ルイスの意図するところがわからずだらだらと垂れる汗が地面を濡らす。


 なんと汚いと慌てて離れる。


「謝罪だよ!貴族様である俺がお前のようなボロ馬車を利用してやったのに満足させることができなかった。早く頭を下げろ。もちろん床に頭をつけてな」


「あ……も、申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁ!」


 躊躇うこともなくガバリとその場に膝をつき、おでこを地面に擦り付ける御者の姿に少しだけ気分が落ち着く。ペッと彼に唾を吐くと急ぎ足でユリアの元に急いだ。



「ユリア!」


「遅ぉい!」


 プンプンと頬を膨らませ怒ってますアピールをするユリアにルイスは可愛いなと鼻の下を伸ばす。


「ごめんよユリア。マーシャに捕まってしまってね。だけどちゃんと逃げてきたんだ。あの女と共にいるなんて苦痛でしかないよ」


「……あの女よりも私の方が大切?」


「ああもちろん!」


「じゃあ許してあげる!じゃあ劇を見てぇその後ランチね!お肉!お肉が食べたい!あとデザートも!大きいイチゴが乗ったやつ」


 イチゴ……なんて可愛いんだ。


「ああ君が望むならなんだって叶えちゃうよ。さあ行こう」


 グイッと強く腕にしがみつかれ色々と身体に密着する。


 ああ幸せだ。


 ルイスは前を見る。ここは劇場だ。もちろん先程の劇場とは違う。あちらは王都一高級で皇室も利用するようなところだ。今いるのはまあ中の下あたりのレベルといったところ。


 一応それなりに下級貴族の間では有名で今日から新しい演目が始まるのだ。一番に見るのだと意気込むユリアだったが彼女の婚約者のルシアンは多忙とのこと。チャンスだと思い、彼女をデートに誘ったら満面の笑みを浮かべてくれた。


 今思い出しても心が躍るほどに可愛かった。

 

 通された個室を見て一瞬動きが止まるルイス。絨毯はペラッペラ、椅子もまあ普通のクッションのついたもの。食事?飲み物?もちろんそんなものは勝手に出てきてくれない。注文はできるが少し高いのでワインを自ら持ち込んだ。


 まだ始まる前だが2人で乾杯する。


 うん不味い。マーシャと数回食事をする機会があったが、あれは本当に美味しかった。ワインも極上だ。あれを知ってしまったらこんなもの不味いに決まっている。


「うーん美味しい!これもお高いワインなんでしょ?私の為にありがとう!」


 だがこの眩しい笑顔があれば極上のワインに早変わり。それにこのワインは決して高くない。だが彼女は気づかない。高額と言えばなんでも美味しい美味しいと素直に言ってくれる。


 きっとマーシャではそんなわけにはいかない。


 ああ、癒やされる。


 だから彼女から離れられない。


 だがマーシャと結婚する。だって彼女と結婚すれば高価な食事、服、多くの使用人に傅かれるバラ色の人生だ。ほとんどの貴族たちが頭を下げる存在になれるのだ。


「あー!今あの女のこと考えたでしょ!?」


「そ、そんなことないよ」


 2人は劇が始まったというのに大きな声で話す。眉を顰める人がいることに2人は気づかない。


「絶対に考えてた!遅刻してくるしユリアもう許さないんだから!」


 再び頬を膨らませるユリアにルイスはオロオロする。


 ちなみに遅刻といっても5分だ。ルイスはいつも彼女を待たせたくなくて1時間程早く到着するように動いているのでマーシャと会っている時間を少々取ったところで大幅な遅刻などにはならなかった。


「いやいや、彼女と結婚したらお金が手に入るなって考えてただけだよ!そうだ!お金、お金のことを考えていたんだよ!」


「ふぅん。でもあの女のことを考えていたことにはかわりないじゃない!」


「すまなかったよユリア。許してくれよぉ」


 彼女の膝に置かれた手に手を重ね、なだめるかのごとく撫でさする。


「……許してほしかったらぁ、あの女から何か盗んできてよ」


「は!?」


「ユリアもあの女みたいな高価なアクセサリーを身につけてみたい!パーティーではつけないから!家でつけるだけだから!」


「い、いや流石にそれは……」


 相手は公爵家だ。公爵家のものを盗んだとなれば普通に首が飛ぶ。


「……そ、そうだ!借りてこよう!少しつけて返そう?」


「嫌よ!私は私の物が欲しいの!それに大丈夫よ!だっていっつも違うもの身につけているのよ!?一つ盗んだくらいわからないわよ!そもそも使わないものをもらって何が悪いのよ」


「ん、んーーーー……でも」


 普段使いはさておき確かにパーティーで同じアクセサリーを身につけているところを見たことはない。であれば気づく可能性は低いはず。


 だがバレたら……。


「ユリアは怒ってるんだよ?許してほしくないの?もう二度と会わなくてもいいんだよ?」


 それはいけない!それは嫌だ!


 だが……こうなんか等価な取引ではないような……もっと自分にも利がないと―――。はっと閃いたルイスはゴクリと唾を飲み込む。


 包んでいた手を再びいやらしく動かし始める。


「じゃ、じゃあさ……盗ってきたらあれを……最後までやらしてくれないかな?ほ、ほらいつも途中でやめてるから……ご、ご褒美的な」


 あれとはもちろんベッドでのあれこれ。


「えー……」


 露骨に嫌な顔をされるがルイスは諦めない。


「公爵家所有のアクセサリーだよ?二度と手に入らないよ?とびっきり綺麗なアクセサリーを盗んでくるから」


「…………ほんとに?」


「うんうん、君が待っていてくれると思ったらどんなことでも頑張っちゃうよ!」


 ふんふんと鼻息荒く、そして視線はドレスから覗く胸元に向けられる。ユリアは暫く考えたあとコクリと頷いた。







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